出会い
僕は日本に住む普通の高校生、特別変わった事も無い平凡で平坦で平均的な高校生だ。
両親は健在で、家族仲も良く、祖父母とも仲が良く姑苛めと呼ばれるものもない。
僕自身もクラスメイトとは普通に話すし、普通に遊びに誘われるし、バイト先でも普通に仲が良い。
髪を生活顧問に注意されるような長さにもしないし、髪色も染めず、眉も剃らず薄すぎず濃過ぎず、鼻の穴が大きい訳でも小さい訳でもなく、偶に肌が荒れたりニキビが出来たりもする。
唇だって太過ぎず小さ過ぎず、顎も歯も突出している部分は無く、毛が濃い訳でも無い訳でもなく、体重が平均の±3Kgを行き来して、身長も170.5cm。
程よく運動をして、程よいテストの点数を取り、先生達からも近くにいれば授業の為の用紙配りを任せられる程度の信頼度。
本当に変わり映えのない、誰にもある平均的な部分。確かに、ここまで平凡な人間は逆に珍しいが初めて勇気を出した告白で「普通過ぎて、ちょっと…」と断られた事があるぐらいの普通。
変わろうと思った事はあるが、余計な事をして誰かに迷惑を掛けてしまうのも如何なものかと、行動には移せなかった。
何度も言うが、僕は本当に普通の人間だ。認めたくはないが、自分でも思うし周囲の人達にも思われている。
そう、数秒前まで思っていた。何の変わり映えのない人生、それが僕の人生だと。
そんな自分を哀れに思った神様の気まぐれなのか、僕の目の前には人の腕ぐらい長く、鉄すらも砕きそうな程の頑丈な一本の角を生やし、筋力の付いた巨躯の身体に、長い年月を生きていたと思われる立派な鬣が生えた馬がいる。
一般的に幻獣として有名で伝説上の生物として語られている一角獣、ユニコーンが僕の前にいるのだ。
「貴様、いつまでこの我を見ている」
「………しゃ、喋ったーーーー!?えええええーーーー!?」
「ええい!喧しいぞ小僧!貴様はリアクション芸人か!」
「い、いや!だって……!」
(ん…?今、俺の事を何て言ったんだ、リアクション芸人って言った…?)
「ああ、言ったぞ」
「………言ったの!?てか、心読まれた!?」
「貴様、本当に喧しいな…少しは落ち着いたらどうだ」
「いや、落ち着けって言われても…」
(目の前にユニコーン見て落ち着けないよ…)
「まぁ学者が我を見たら腰を抜かすどころか自慢の角で殺しているがな、ガハハハッ!」
「………」
「冗談だ」
「冗談に聞こえないです」
「ちょっとしたユニコーンジョークだ、気にするな」
「は、はぁ…」
(何か知っているより、随分穏やかだな…?)
「人間が勝手に言っているだけだからな、我を捕らえたり襲うとしなければ何もせん」
(そっか、ユニコーンだって生き物なんだし襲う必要が無ければ何もしないのか)
「……と言うか、僕は何でここにいるんですか?」
「ようやく、その質問をする気になったか」
「喋るユニコーンがまず目に入ったせいですね」
「そんなに珍しいか?」
「僕の常識だと大分、それで僕はどうしてここに」
「端的に言おう、我と共に来い」
「来いって、どこに」
「異世界だ」
「……?流行りのあれですか?」
「流行りのあれだな」
「…………はい?」
「随分と冷静になったな」
「いや、いやいやいや!?あれってアニメとかの話じゃないの!?」
「おっ、喧しさが戻ったな」
「そんな元気な子供みたいに言わないで下さい、子供ですけど」
「何だ、我に呼び出されたのが不服か?」
「割と」
「お主、結構心臓強いな」
「てか家に帰して下さいよ」
「無理だな」
「どうして」
「我は、お主を元の世界に戻す方法を知らない」
「……ちょっと待って下さい、その言い方だと俺はもう異世界にいる事になるんですけど」
「そうだが?」
「そうだがって」
「とにかく諦めて我と共に来い」
「いや来いって言われても…」
そうは言われても、心の準備も出来ていないし、この世界で暮らす為の知識も無い。
かと言って、一人で生きていけるかと言われると難しい。
「安心せい、お主が異世界で暮らせるように我が手配してやる」
「手配って、どうするんですか?」
ユニコーンは人ではない、人間が生活出来るような手配を出来るとは思えないが。
「簡単だ、我が人になれば良い」
「………はい?」
「最近、森の中にいては腹を満たせぬことが多い」
「まぁ、限りがあるって話ですよね?」
「そうだ、しかし人間は多くの者が限り無く食うだろ?」
確かに、人間は毎日腹を満たすことが出来ている。
まるで食材が無尽蔵に湧き出る泉でも保有しているのか如く。
「そこで我は気が付いた」
「はい」
「人に成ることで、その恩恵を受け腹を満たせられるのではないかと」
「いやあの、言っていることは理解出来るんですけど」
「何が分からぬ」
「人に成るって、そんなこと出来るんですか?」
「出来なければ、こんな話はしないだろ」
「…確かに」
「お主、賢いのか賢くないのか分からんな」
「ははっ、そうですね…」
「まぁ良い、理解出来ぬのなら見せた方が早い」
「見せるって、そんな簡単に」
「変・身!」
どこか某魔法少女を思わせる変身の仕方を見せ、ユニコーンは人に成った。
「………」
「どうだ、見事な変身だろ?」
「いや、えっと」
「ふふふっ、あまりにも華麗で見事な変身に声も思考も出来ぬか」
「てか、えっ…?」
(デカ過ぎでは…?)
「まぁ無理もないか!こんなにも美しい美女を見て、見惚れぬ奴などおらぬか!わっははは!」
ユニコーンが女性で、こんなにも美人なのは確かに予想外だが、どちらかと言うと驚いているのは別の理由だ。
何故なら僕の目の前にいるのは、3m近くある身長で筋骨隆々の金髪ポニーテールのエベレスト級の山を二つ付けた超絶美人が全裸でいるのだから。
額には目印となる綺麗な一角獣が、そのまま生えている。
「すみません、とりあえず服を着て下さい」
「何故だ、服など着なくとも我は平気だぞ」
「僕が平気じゃないんです」
「成程、ならば性欲は抑えよ」
「いや別に興奮してる訳じゃないんですけど」
「悪いが服などは持ち合わせておらん」
「……じゃあ、街に行く時はどうしてたんですか」
「無論、このままだが」
「裸で街をうろついたんですか!!?」
「うおっ、急に大きな声を出すな驚くだろ」
僕は頭を抱えた、もしこのまま街に行けば警察に捕まるのは確実だ。
と言うか、このユニコーンは何で裸で街を歩いて良いと思ってるんだ。バカか。
「バカとは何だ、そもそもユニコーンは服を着る生き物では無いぞ」
そりゃそうだろうが、ある程度は人間に合わせるべきではなかろうか。
郷に入っては郷に従え、と言う言葉があるように僕が逆の立場ならそうする。
「それはお主の価値観だろ、神聖たる生物であるユニコーンが人に合わせるなど言語道断だ」
「だからって裸は駄目ですって…」
「大体、目の保養になるのだから構わんだろ」
(このユニコーン、もしかして融通が利かないタイプでは…?)
「お主、さっきから不敬過ぎるぞ」
「とにかく、一人?一匹?の時ならまだしも、僕が隣にいる時は服を着て下さい」
「嫌だ」
「もし捕まったらどうするんですか」
「殺す」
「殺せなかったら?」
「我が負けるとでも」
「もしもの話です」
(そもそもユニコーンって強いのか?)
残っている伝承だと人間を殺そうとして、誤って角を木に刺して動けなくなった所を捕まえられた。なんて話がある。
「任せておけ、軍隊ぐらいならギリギリ勝てる」
「そこはボコボコに出来る!とかじゃないんですね」
「あまり人間を舐めるなよ、奴等結構侮れん」
「その人間を侮ってるのは貴方では」
「言葉の綾ばかりを突きおって、男なら女を突かんかい」
「急なド下ネタ!?」
「あっ我も女だから、あながち間違いでは無いのか」
「このユニコーン、自由過ぎるな」
「で、結局どうするんだ」
「…ちなみに断ったら」
「ここにお主を放置し、森の動物共の餌にする」
「それもユニコーンジョークですか?」
「本気だが」
「……行きます」
「よろしい、では行くぞ」
「はい…」
僕は渋々、この変態ムキムキマッチョのユニコーン(♀)に付いて行くことにした。
しかし、この後は街に行くのだが、予想だにしない出来事が僕を待っていると言うことを僕は知らない。




