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第70話 サリー

 関白が狼狽える。

 あってはならない光景に。


「な、なぜ……こんな……」


 黒子が微笑む。

 奇跡を起こした少女に。


「ルルナさん、ありがとうございます。あなたのおかげで、世界が『別けられた』んだって気づけました。そして、生産できた。一つにできたんです」


「く、黒猫ちゃん……ほ、本物……あっ」


 ようやく会えた感動が大きすぎたのだろう。

 ルルナは気を失ってしまった。


「ちょ!? ルルナさん!?」


 動揺する黒子の傍で、駿河が太郎と千彩都に指示を下す。


「この子を背負って逃げなさい」


「わ、わかったっす!! 俺がこの子を外まで背負うっす!!」


 太郎はルルナの肩を抱えると、そのままダンジョンの外へ逃げていった。

 一方の千彩都は、スマホを出しつつ、不安そうに黒子を見つめた。


「私が救助隊を呼んでおく。でも、黒子……」


「大丈夫だよ。今度こそ絶対逃さない。今度こそ絶対、倒す」


 親友がそう断言したのだ。

 なら、信じる他ない。


 千彩都は頷くと、太郎を追って走り出した。

 残された少女たちが、関白を睨む。


「くふふ、まだ解せないって感じね」


「飛鳥先生。いや、飛鳥関白。姉さんを、返してもらうわ」


 狼狽えていた関白が、サリーの危機によって正気を取り戻す。


「返せだと? バカめ。サリーは私のものだ!! クズ共が……」


 そんな罵声、駿河には一切届いていない。

 見つめるのはただ一人。変わり果てた姉だけ。


「ヨルヨ」


「なによ」


「決着、つけましょう。私の願いとあなたの復讐の」


「……もちろん」


「黒子、邪魔な『アレ』どうにかしてくれる?」


 駿河が関白を指さした。

 アレとは何なのか、黒子にはきちんと伝わっている。


「はい」


 途端、関白の腕に巻かれていた、電波を遮断する魔力石『ディディクリスタル』が黒子のもとに集結しはじめた。

 生産スキルの効果である。効果範囲内にある素材を集めることができる。


 黒子はディディクリスタルを適当に出したライターと融合させると、リュックにしまった。


「これで、できるわね」


 駿河がドローンを飛ばす。

 配信を開始する。


「飛鳥関白、世界中のみんなに晒してやるわ。あなたの破滅を」


「くっ」


 ワープサファイアに加えて、ディディクリスタルまで奪われた。

 彼に残されたのは己のスキルと、サリーのみ。


・なになに?


・ゲリラ配信


・飛鳥関白だ!!


 はじまったばかりなのにかなりの視聴者がいるようだ。

 さすがは超有名配信者、アポカリプスの魔女である。


「みんな、よく見ておきなさい。私のダンジョン配信。その終着点」


・なんだなんだ


・黒子もいるぞ


・うおおおお


・なにごと?


・仕事抜け出してきた


 駿河が飛び出す。


「サ、サリー!!」


 関白がサリーを前に出す。

 結界のスキルで攻撃を防ぐのだ。


 しかし、


「駿河さん!!」


 黒子が魔力石を投げた。

 ダンジョンを支配する魔王から貰った、特別な魔力石。


 あらゆるスキルを無効化する、カオスパールだ。


「ありがとう、黒子」


 駿河はパールを受け取ると、結界に押し当てた。

 当然、結界は消滅する。


「これで!!」


「ま、まずいサリー!! 影に隠れろ!!」


 目に宿ったスキルによって、サリーは関白の影の中に潜むことができる。

 サリーが関白の後ろに戻ろうとした、そのとき、


「させない!!」


 ヨルヨのスキルによって、サリーが宙に浮いた。


「なにっ!?」


「ついでにあんたも!!」


 超重量が関白を地に押し付ける。


「うぐ、や、やめろ……」


 ワープサファイアがなければ、この超重力の重石から抜け出すことはできない。


 駿河が刀を握り直す。

 四肢を切断するのだ。


「姉さん!!」


「サ、サリー!!」


 もう少しで刃が届きそうになったとき、


「ヨル……ヨ……」


 微かに聞こえた声が、駿河の手を止めた。


「え?」


「……タ……スケ……テ」


 全員の瞳が驚愕で見開く。

 サリーの、いや、頭部であるヨルヨの母が喋ったのだ。


 意思がある。

 死を拒んでいる。

 生物なら当然の防衛本能。


 ほとんど死んでいるに近い状態であったのに。

 関白ですら予期しなかった出来事。


 ヨルヨの目に、涙が溢れる。


「お母様……」


「ヨ……ルヨ……」


 まだ生きたいと懇願している。

 娘に助けを求めている。


 ヨルヨの脳裏に可能性が芽生えてしまう。

 このまま、意識が完全にハッキリすれば、もとのお母様に戻るのではないか。

 死んだと思っていた母が、蘇ることになるのではないか。


 兄なら、シンヤならどうする。

 父ならどうする。


「こんな……こんなのって……」


 ヨルヨの意志が揺らいだ。

 駿河もそれをわかっている。

 その一瞬の隙を、サリーは見逃さない。


 生きたい。ならば、目の前にいる敵を、倒さなくてはならない。

 別のスキルによって手がドリル状になり、


「駿河さん危ない!!」


 駿河の腹部を貫いた。


「くっ!!」


・大丈夫?


・やばい


・あの化け物なんなの?


・一回逃げよう!!


「逃げたりなんか……しないわ……」


 まだ戦える。戦わなくてはならない。

 たかが内臓が損傷しただけ。しょせん出血が止まらないだけ。

 姉が受けた仕打ちに比べたら、かすり傷以下だ。


「駿河……」


 ぐっと、ヨルヨは唇を噛み締めた。


 自分の気の迷いのせいで、仲間が傷ついてしまった。

 せっかくあと少しだったのに。


 ダメだ。ダメだダメだダメだ。

 こんなだから、兄に役立たずだと叱られていたんだ。


 ヨルヨの瞳が母を映す。

 下さなくてはならない。決断を。


「お母様」


「ヨルヨ……」


「先に、向こうに行っていてください。お兄様が、待ってます」


「……」


「駿河ァ!!」


 それが合図となった。

 駿河が刀を構える。

 サリーも防衛本能で、ドリルとなった腕で対抗する。


「見切りスキル!!」


 瞬間移動で背後を取った。


・やれ!!


・がんばれ!!


・あとすこし


・いける


 関白が、絶叫する。


「やめろ!! やめてくれええええ!!!!」


「うおおおおおおお!!!!」


 右腕を切り落とす。

 左腕を切り落とす。

 右足を、左腕を。


 悪意と身勝手な自己満足によって繋ぎ合わさった、犠牲者たちの怨念を切り離していく。


 そして、


「松平駿河!! わかった。小牧の残りのパーツはぜんぶやる。だから、だから私からサリーを奪わないでくれ!!!! 人生をかけて完成させた私の最愛の……」


「最愛の、私の姉さんよ」


 頭部を繋ぎ止める首を、切り裂いた。

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