第69話 蔵前ルルナ その2
黒子の心臓がバクバクと鼓動する。
せっかく掴んだ救いの糸。それがいきなり切れたような悪寒。
なにが起きている。
ルルナになにがあった。
せっかく、会いたいと言ってくれたのに。
「いったい、どうすれば……」
諦めてたまるか。
きっとこの状況を打開する手があるはず。
今度こそ、今度こそ関白を倒すのだ。
駿河と、ヨルヨと、太郎と、チサトと、みんなで。
ダンジョンに関わる、みんなのために。
「私が必ず、サポートするんです!!」
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関白は緩慢な動作でルルナへ近づいていった。
「悪いが君は殺すよ。イレギュラーは、生かしておけないからね」
「な、なにを……。せ、先生!! おかしくなっちゃったんですか!?」
「おや? んー、私に関する記憶は戻ってないようだ。戻っているのは黒猫黒子の記憶だけか? ほう……まあいい、どのみち殺す。文字通り、骨も残さん。君の肉体を極限まで『解体』して、土に埋める。そのあとは、微生物の餌だ」
無意識に、ルルナは後退りをした。
冗談、などではない。本気だ。
本気で飛鳥関白は、自分を殺そうとしている。
理由は不明。
けれど、直感がそう告げているのだ。
「だ、誰か助けて!!」
「無駄無駄無駄無駄、無駄なんだよ蔵前さん。そう都合よく、誰か来たりしないよ」
なら走って逃げるしかない。
踵を返し、走り出したそのとき、
「いたっ」
見えない壁に、ぶつかった。
「ふはははは!!!!」
振り返ると、関白の側に、知らない女性が立っていた。
目に力はなく、魂すら感じられない不気味な女。
ルルナの脳が、幽霊を連想する。
「紹介しよう。私の最高傑作、サリーだ。いま君がぶつかったのは、サリーのスキルで生み出した結界だよ」
「お、おばけ……」
「失礼だな。サリーが化け物に見えるのか? この世で最も美しく、完璧な人間だぞ」
「人間? さ、最高傑作って……」
「そう。私が作り上げた。私が完成させたのだ。くくく、これまで、サリーを作るために何人もの女を殺してきた。実は、このサリーは二代目なのだよ。初代は、まだダンジョンが地上に現れる前に作ったのだが、腐ってしまった」
関白が、サリーのコートを脱がす。
見せびらかす。彼女の裸体。ツギハギだらけの異形の姿を。
「ひっ!!」
その悍ましい光景に、ルルナは腰を抜かした。
「しかしこのサリーは腐らない!! 松平小牧の不死スキルのおかげでな!! 神が!! 私にサリーを完成させろと啓示したのだッッ!! はははは、あ〜、興奮する。眺めているだけで射精してしまいそうだよ。美しいと思うだろ?」
カクカクと赤べこのように首を縦に振る。
頷くしかないのだ。こんな悪魔に質問されては。
「そうだろう。くくく、だが、サリーを生み出したことを非難する者がいてね。君が先ほど会話していた、黒猫黒子だよ」
「黒猫ちゃん!?」
「本当に、邪魔くさい小娘だった。だが、だがな!! 消してやった!! この私が!! 黒猫黒子も松平駿河も日輪ヨルヨも、残りの雑魚共も!! ははははははは!!!! 消した!! 消してやったのだッ!!!! もうこの世界にはいない。誰も私を捕まえることはできない!! いま、私は絶頂の中にいるッッ!! 私は、この飛鳥関白は最強なのだッッ!!!!」
ルルナの中に憎悪が芽生える。
こいつが、黒猫黒子に危害を加えたのか。
許せない。
絶対に許せない。
でも、なにもできない。
「さて、お喋りはこれでお終いだ。黒猫黒子と連絡を取り合える君を抹殺すれば、正真正銘、完全勝利となる」
「こ、来ないで……」
「ダメダメダメダメ。近づかなきゃ殺せないだろう? くく、これまで殺してきた女は、みーんなそうやって命乞いをしてきた。ぎゃーぎゃー喚いているのを、一瞬で黙らせるのが、少しクセになっているのだ」
「助けて!! 黒猫ちゃん!!」
「来ないよ。やつはこない。なんせ、別けたからね。私のスキルで別けてやった。世界を別けたのだ」
関白の手がルルナの首を掴む。
切り離して黙らせるのだ。
「君は自力でスキルレベルSSS、つまり私と同じ境地に立ったのだ。せめて、君のまあまあ悪くない髪だけは、残して家に飾っておいてやろう。良いシャンプーとリンスを使っていて良かったな。気が向けば、そのうちサリーにつけてやろう」
「……」
「ん? どうした? 恐怖で声もでないか?」
「わ、別けた?」
「そう。別けたのだ。私のスキルでね。この世界には存在しない」
閃く。一縷の可能性。
別けた。バラバラになった。
世界はいま、バラバラなのだ。
まるで、素材と素材のように。
なら、なら!!
きっと、黒猫黒子なら!!
「来る」
「はあ?」
「黒猫ちゃんは、絶対に来る。黒猫ちゃんは、いつだって、ダンジョンで困っている人を放っておかない。必ず、助けてくれる。自慢のアイテム生産スキルで」
「……」
「私が依頼した!! 黒猫ちゃん自身のデリバリーを!!」
「なにを……」
関白の脳裏に、忌まわしき記憶が蘇る。
あの千彩都とか言う小娘を殺そうとしたときも、やつは来た。
あのときは偶然であったが。
嫌な予感がする。
絶対に来ないと、否定し切れない自分がいる。
「ちぃっ!! 黙れ!!!! 死ねええ!!」
関白が叫んだ、その瞬間、
「なっ!!」
空中に、眩い光が出現した。
「ま、まさか。バカな!!」
ありえなくはない。
黒子が同じSSSレベルになったのなら。
ありえなくはないのだ!!
そして、
「おおおおおおおおあおおおお待たせしましたーーーーっ!!」
黒猫黒子が、現れた。
彼女だけではない。駿河も、ヨルヨも、太郎も、千彩都まで。
「な、なぜ……」
決まっている。
黒子のスキルレベルもSSSになったのだ。
関白を倒したい。
ダンジョンで困っている人を助けたい。
みんなにまた会いたい。
その純粋な願いが、奇跡を起こしたのだ。
そして再生産したのである。
ルルナのおかげで、世界がバラバラになっていると知ったから、一つに戻したのだ。
「飛鳥関白、これが最終決戦です!!」




