エピローグ 風のように吹き抜けて
晴天に恵まれた冬の空。
飛行場の展望デッキで、祖父の乗った飛行機が飛んで行くのを誠司とひかりは見送っていた。
ひかりは空を見上げる誠司の横顔に話しかける。
「行っちゃったね」
「うん。なんだか慌ただしかったね」
「淋しい?」
「ちょっとね」
二人が話すと白い吐息がふわりと舞った。
ひかりは誠司の掌に自分の手を滑り込ませる。
指を絡めて二人はお互いに笑顔を見せた。
「最期まで誠司君のこと、心配してくれてたね」
「うん。いつもああなんだ」
「愛されてるんだね」
「そうだね。時々やり過ぎるけど」
突然帰国して突然帰って行った誠太郎の慌ただしさに、父の信一郎は仕事の都合をつける事が出来ず、誠司とひかりだけで誠太郎を見送りに来たのだった。
帰り際の空港のロビーで、誠太郎は誠司とひかりの手を取って名残惜しそうに二人にこう言った。
「帰るのが嫌になったよ。いや、そうじゃないな。ここにいて二人を見ていたくなったと言った方がいいかな」
この数日を慌ただしく駆け抜けた誠太郎は、まだ心残りを幾つか残しているようだった。
「静江がいない分、俺に出来ることを誠司にはもっとしてやりたいんだが、この辺にしておくよ。おまえにはひかりさんがいてくれるからな」
「うん。ありがとうおじいちゃん。俺には彼女がいてくれるから心配しないで」
「ひかりさん、誠司を頼みますね。誠司、おまえもひかりさんを大切にするんだぞ」
「うん。約束するよ」
「私も、おじいさまに約束します。誠司君を大切にします」
「ありがとう。いい土産話が出来た。じゃあまた」
最後に二人の手をしっかりと握って誠太郎は搭乗口に向かって行った。
周りを巻き込んで吹き抜けていった力強い風は、たくさんの贈り物を残して去っていった。
「素敵な人だったね」
ひかりは誠司と肩を寄せ合い歩きながらそう言った。
「ひかりちゃんにとっては素敵な人。俺にとっては優しいおじいちゃん。勇磨にとってはどうなんだろうね」
演武後、酷い目に会ったと散々不満を言っていた勇磨を思い浮かべて、二人はクスクス可笑しそうに笑い合った。
「あいつ、本当に俺のとこに転がり込んでくるつもりなのかな」
「さあ、でも本気かも。新君、誠司君のこと大好きじゃない」
「いや、やめてよ。なんか気持ち悪くなってきたよ」
「うふふ、私、実は時々妬いちゃってるんだよ。二人のこと」
「え、まさか冗談だよね」
「さあ、どうかしら」
ひかりは誠司にぴったりと寄り添う。
「でも、他の子に気を許したりしたら承知しないんだから」
上目遣いで見上げるひかりの可愛さに、誠司は言葉が出てこない。
猛烈に頬を紅く染めた誠司に、ひかりは今日も輝くような笑顔を見せるのだった。
完
ご読了下さりありがとうございました。
「ひかりの恋」シリーズの三作目「ひかりの恋またいつか」の劇中に登場した誠司の祖父、大島誠太郎の存在感が際立った今作は、どちらかといえば武道家としての誠司の一面に焦点を当てたものとなりました。
三部作の本編ではストーリーの進行上、祖父誠太郎の登場は多くありませんでしたが、誠司とひかりの恋物語に欠かせないとても魅力的な人物です。
誠太郎の魅力と誠司の武道家としての一面を伝えたくて、今回は実際の合気道という武道の技を、つたない私の文章力で何とか上手く表現しようと奮闘した作品となりました。
実際の合気道は奥が深く、劇中で語ると、とんでもない長文の解説になるのでその辺りはご容赦下さい。
最後になりましたが、私の思い入れのあるこの恋物語の欠片を、またいつか描きたいと思っています。
ありがとうございました。
それではまたいつか。
ひなたひより