第九章 その後の二年間
## 第九章 その後の二年間
後から聞いた話では、あの会議に呼ばれた人間のうち、半数が間もなく会社を辞めたらしい。
理由は誰も教えてくれなかった。「世界征服」という無理難題に疲弊したのか、あの会議が本当に選抜試験だったとすれば脱落の通知が来たのか、それとも自ら別の道を選んだのか。消えていった顔を思い浮かべながら、私は何度かそれを考えたが、答えは出なかった。
そのうちの一人——哲学的な定義論を展開した男性——が、廊下で一度だけすれ違ったことがあった。目が合ったが、二人ともそのまま歩き続けた。「あの件」については、互いに何も言わなかった。言葉にする必要がなかった、とも言える。あの七日間を共有した者同士には、言葉を超えた何かがあった。
私は残った。
特に何かを信じていたわけではなく、ただ、辞める理由が見当たらなかった。担当課長として仕事をこなし、プロジェクトを前に進め、部下たちの相談に乗り、取引先と交渉を続けた。エクセルのシートを埋め、メールを打ち、会議に出席した。
会長が取締役会で何かを話したかどうかも、私には伝わってこなかった。世界征服の企画が具体的な動きにつながった様子もなかった。たまに廊下で社長を見かけることはあったが、目が合っても特別な何かを感じる表情ではなかった。あの会議は、まるでなかったことのように、会社の日常に呑み込まれていった。
「世界征服」という言葉は、その後二年間、一切出てこなかった。
株価は大きな変動もなかった。世界のどこかで局地的な紛争は続いていたが、世界の秩序が根本から塗り替わるような出来事は起きなかった。会長の名前が報道に出ることもなかった。世界征服の企画は、どうやら動かなかった——少なくとも、表向きは。
パソコンの奥深くに「世界征服企画書」というフォルダを作って保存してあった。七つのスライドと比較表が入っている。容量にして数十メガバイト。フォルダのアイコンを見かけるたびに、少しだけ笑った。「あのとき俺は、秀吉に電話して、チンギス・カンに戦略を聞いて、火星人と取引しようとしたんだな」と。
あの夜のことを思い出す。一週間、一人でAIと向き合って、歴史を調べ、架空の征服者たちにインタビューして、七つの計画書を作り上げた。あれは、キャリアの中で最も奇妙な七日間だった。でも同時に、自由に考えることのできた七日間でもあった。制約がなかった。正解がなかった。「世界征服」という荒唐無稽なお題は、逆説的に、思考の縛りをすべて解き放ってくれた。
普段の仕事では「現実的か」「予算はあるか」「前例はあるか」という問いが先に来る。あの七日間は違った。「現実的かどうかは関係ない、とにかく考えろ」という自由の中に放り込まれた。チンギス・カンに二十兆円の予算を要求されても、「まあ、そうだろうな」と受け入れた。火星人と交渉しながら「大気改造はリスクが高い」とまじめに検討した。馬鹿馬鹿しければ馬鹿馬鹿しいほど、思考が自由になった。
それが何かを変えたのかもしれない、と今は思う。




