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ハミルトン・ヴァレーの客人令嬢  作者: 駒野沙月


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3-3

 長々と続いた説教も粗方終わったと思われた頃、彼はふと、何かに気が付いたように顔を上げた。

 彼女は何も気が付かなかったが、後から聞いたところによると、この時何やら物音を聞いたらしい彼は、しばし考え込むように押し黙っていた。

 彼は眉間を押さえるようにしつつも立ち上がり、無言のまま扉の方へ歩いて行く。少女は正座をしたまま呼び止めた。


「ルカ?どこに行くのじゃ」

「俺の部屋」


 扉の直前で振り返った彼は、床に座わるお転婆娘に再び釘を刺しておくことにしたようだ。

 この少女を野放しにしておくと、今度は何をしでかすか分からない。…というのがこれまでの教訓として、彼には刻まれているらしい。


「いいか、ちゃんと反省するまでそこに居ろよ。もし破ったら罰追加だからな」

「…はぁい」


 ぱたんと音を立て、部屋の扉は閉められる。

 家主の出て行った部屋には、彼女だけが残された。


 ◇◇◇


「…君には世話をかけるね」


 ルーカスと少女が居た応接室の隣は、彼の私室兼執務室として割り当てられた部屋である。一応はギルド長の私室ということもあり、主たるルーカス自身が招き入れない限りは、この部屋に自由に立ち入ることの出来る人間はほぼいない。


 しかし今、その部屋には、彼を迎える人物がいた。


 主の不在だった部屋で一人でティータイムを楽しんでいたその男は、眦の垂れた瞳と端正な顔立ちの、いかにも貴公子といった風貌の美男子。

 年齢はルーカスと同じくらいだが、世間一般には彼以上にその存在を知られた人物でもある。


(…お前もか)


 と、頭を抱えたくなるのをどうにか堪え、ルーカスは客人の座るソファの正面にどかっと座り込む。

 腰を下ろすとすぐに、空いていたカップに男が紅茶を注いだ。差し出されたカップに角砂糖を一つ足しながら、ルーカスは男の前でようやく口を開いた。


「世話をかけるとお思いなら、あの方を止めるなり何なりなさったらどうです?」

「それが出来るなら、是非ともそうさせて頂きたいものだけどね。言って聞く子だと思うかい?」


 諦め半分、残り半分はただ面白がっているだけ。苦笑気味に答える男はそんな調子だった。

 思い当たる点しかないルーカスとしては、その言葉には同じく苦笑するしかない。


「お前んとこの教育はどうなってるんだ?肖像権云々はまあともかく、一旦立ち止まって考えるってこと教えてないのか」

「僕に言われても困るよ、その辺りは僕は口出してないし」

「お前が主に世話焼いてんだろうが」

「まあそれはそうだけど。…ふふ、あの子にも困ったものだね。一体誰に似たんだろう?」

「お前以外に居てたまるかよ」


 ここぞとばかりに、ルーカスは男に言い返す。ここ数日、子供たちには笑われ、部下や街の婦人たちには何やら温かな視線を向けられ辟易としていたのである。

 ある意味無礼とも言える彼の反応だが、男は特段気分を害した様子もなく笑うだけだ。


「相変わらず手厳しいねえ、君は」

「そりゃそうだろうがよ。傍若無人さとか好奇心だけで突っ走ってくとことか、お前そっくりじゃねえか。なあ、伯父様(・・・)?」

「おや、うちの可愛い姪っ子(・・・)に何かご不満でも?」


 今日の客人は、シャーロットともう一人。


 クレイドル公爵家公子、リチャード・クレイドル。

 シャーロットの実の伯父にして、ルーカスの古くからの友人でもあった。


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