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9.第一王子テオドール登場

 広間の中は一気に緊張に包まれる。

 レーヌ達は頭を下げているので、どのような状態がわからないが、衣装のこすれる音と、金属と金属が触れ合う音、それに2人の足音が聞こえてくる。


 足音が完全に止まると静まる広間の中に男性の声が響く。

「おもてをあげよ」

 その声は威厳に満ちているが、少し若さも感じる声で、その言葉にレーヌ達は一斉に頭を上げる。


 テオドール殿下と婚約者のアデール嬢は広間の奥、3段高くなったところにある椅子の前に立っている。


 レーヌが身長の高い男性陣の隙間から2人を見ると、テオドール殿下は金色の髪と瞳を持っていて、輝くばかりの美しい人物で、隣に立っている婚約者のアデールはブロンドの髪をアップにしており、瞳は透明感のある明るい水色をしていた。

 アデールもまた、匂い立つような美しい人で、美男美女だなぁ、とため息をつくと隣にいるリディは目を輝かせながら2人を見つめていた。


「ようこそ、我が王城へ。忙しい時に集まって頂き感謝する」

 テオドール殿下は団員達を見回しながら歓迎の挨拶をする。

「本日は警護団の在り方についてみなから意見を聞きたいと思い、この場を設けた」

 テオドール殿下の言葉に団員達はざわつく。

「だが、しばらくは歓談の時間を作ろうと思う。みな寛いてくれ」

 その言葉でテオドール殿下とアデール嬢は椅子に座り、慰労会が始まった。


「本物の王子様とお姫さまよね」

 リディは胸の前で指を組むと、目を輝かせながらテオドール殿下とアデール嬢を見ている。

「そうね。王子様とお姫様よ」

 イネスは優しくリディに話しかける。

「でも、リアム様の方がかっこいいわ」

 イネスは小さな声でボソッと呟く。

「えっ? リアム様どこにいらっしゃるの?」

 思わず聞き返してしまったレーヌに半目になるイネス。

「あっ、ごめんなさい……」

 何となくレーヌはイネスに謝る。

「王座の後ろですわ」

 イネスは小さな声でいうと視線でテオドール殿下の座っている後ろを教える。


 レーヌが王座の後ろを見ている時にアルシェが近づいてくる。

「……リアムは近衛だったのか」

 テオドール殿下の後ろを見てつぶやく。

「近衛?」

 レーヌは聞きなれない言葉に首を傾げる。

「ああ、騎士とかに興味がなければ、みんな一緒に見えるよな。近衛というのは王族だけを守る騎士のことで、高位の貴族しかなれない立場だ」

 リアムは貴族だろう、とレーヌはなんとなく思っていたが、まさか高位の貴族だったとは……。

 レーヌが驚いているそばで近くにいる、リディとイネスも驚いた顔をしてリアムを見つめていた。


「ああ、そうだ。食事はとったか?」

 アルシェは話題を変えて、女子チームに問いかけてくる。

「めったにない王城の食事だからな。遠慮なく食べたほうがいい。それとケーキはすこぶる美味しいぞ」

 口元に笑いを浮かべながらアルシェは言う。

 その言葉を聞いて、女子チームは足早にケーキコーナーに向かった。


 スイーツコーナーのテーブルの上にはいちごを使ったケーキ、ロールケーキやフルーツをたくさん使ったゼリー、レモンを飾ったタルトなどが並んでいる。

 どれも一口サイズなのだが、彩りがきれいで、見ているだけでも楽しい。

 リディは欲張ってテーブルに出ていた全種類のケーキをお皿に乗せる。

 その様子を微笑みながら見ていたレーヌはロールケーキといちごケーキ、イネスはフルーツゼリーとチョコレートケーキを皿に乗せる。

 フォークを受け取るとテーブルを少し離れたところで立ち止まり近くのテーブルに葡萄水を置くと食べ始める。

「イネス、チョコレートケーキが少しほしいわ」

 レーヌは上目遣いにおねだりしてみる。

「しかたないですね」

 イネスは困ったような口調なのに笑顔を浮かべ、フォークでチョコケーキを取り分け、レーヌの口の前に持っていく。

 レーヌはチョコケーキをぱくっと食べると目を輝かせる。

「苦みがしっかりとあって、美味しいです。リディはチョコレートケーキ食べられるかしら?」

「子供ではないから、食べられます!」

 レーヌの言葉を聞いたリディはちょっとむっとした口調で答えるとチョコレートケーキをフォークで少しとり、口に入れるが、とたんに顔が渋くなる。

「……にがい……」

 リディは今にも泣きそうな声で呟く。

 その様子をイネスと2人で微笑ましく見ていた時、ふいに後ろから声が聞こえてくる。

「レディたち。デザートはいかがかな?」

 振り向くと、テオドール殿下がすぐ近くにいた。

 慌てて、礼をしようと構える。

「ああ、いいよ気にしなくて。とつぜん声を掛けて悪かった」

 あまりにも気軽に話しかけられ、逆に恐縮する3人。

 レーヌは思いがけずテオドール殿下を近くで見ることになったが、そんなに年齢が離れていないように思えた。

「小さなレディには苦すぎたかな? いちごのケーキは甘いから食べてごらん」

 テオドール殿下は腰を低くすると、リディの持っている皿に手を添えていちごのケーキをフォークで食べさせている。

「はい、甘いです!」

 目を輝かせにっこりと笑ったリディにテオドール殿下もまた、満面の笑顔でこたえる。


 テオドール殿下はリディの皿から手を離し立ち上がると柔らかな笑みを浮かべレーヌとイネスを見る。

「リアムから、君たちの活躍は聞かせてもらっているよ」

 気さくに柔らかな声で話しかけている殿下に2人とも緊張が走る。

「とくにレーヌ嬢は討伐中に団員の危険に身を挺して守ったことがあったと聞いた」

 名指しされたレーヌは膝をおり、軽く頭を下げる。

「その勇気に敬意を払いたいと思う」

 テオドール殿下が優しく微笑む。

「殿下。そろそろ時間になります」

 リアムが突然声を掛けてくるとテオドール殿下は頷く。

「邪魔をして悪かった。またあとで」

 優しく微笑んだまま王座に向かっていく。

 レーヌはテオドール殿下を何気なく目で追っていると、婚約者のアデール嬢が王座に座ったまま美しい顔に似合わないほど怖い顔をしてこちらを睨みつけているのが見えた。

(うわぁ、怖いわ)

 レーヌは身震いをすると何事もなかったかのようにイネスたちとケーキを食べ始める。

「王子様、かっこいいです」

 リディは目を輝かせながらケーキを食べている。

「ええ、とてもかっこいいですわね」

 イネスも微笑みながら同意をしているが、ちら、とレーヌを見る。

「そうですね、とてもよい方ですね」

 レーヌは笑顔でそう返しながら左手首を触る。

「そう言えば、レーヌ? 前から気になっていたのですが、左手首に何かありますの?」

「えっ!?」

「何かある度に、今みたいにそっと左手首を触ることが増えた気がしましたの」

 さすが幼馴染イネス。穏やかな口調で指摘しているが、目は何かを訴えている。

「あら、そうかしら? ああ、ケーキを早く食べて次のケーキを取りにいきましょう」

 慌ててごまかすとレーヌはくるりと背を向けてケーキコーナーに向かうが、顔が熱くてすぐに振り返れなかった。


 女子チーム3人がケーキを食べ終わったのを見計らったのか、王座近くにいる侍従の声が響いてくる。

「テオドール殿下から最後の言葉があります!」

 団員たちはその声におしゃべりをやめ全員王座を向いた。


「短い時間ながら、警護団についての話を聞かせてもらい、感謝する」

 テオドール殿下の声が広間に響く。

「今日、話しを聞いていて思ったのは、警護団がいなければこの王都はすぐに魔物の餌食になるだろう、ということだ。いままでよく守ってくれた」

 テオドール殿下の言葉にざわつきが起きる。

「また、警護団の中には自分を犠牲にしても人を助ける人間がいると聞いた」

 その言葉に全員の視線がちらっとレーヌに向かう。

「そんな人間こそが我が国の王妃としてある姿だと感じた」

 突然テオドール殿下が立ち上がり、隣に座るアデール嬢を見下ろす。

「ところが、我が婚約者は目の前に助けを求める人間がいても手を差し伸べることはしない」

 アデール嬢はじっとテオドール殿下の顔を見上げている。

「貴殿は今まで、どれだけの人間を見殺しにしてきたのかな? そんな人間がこの国の王妃としてふさわしいと思っているのか?」

 テオドール殿下の声がだんだんと厳しいものになり、それに比例してアデール嬢の顔色が悪くなっていく。

「殿下、何をおっしゃっているのか、わかりませんわ」

 膝の上に置いた扇子をぎゅ、と握ると、震える声で、だが引きつった笑顔で否定をするが、テオドール殿下は暗い笑みを見せる。

「そうか、こちらは貴殿の行動など、すべて調査済みだ」

 アデールの体の震えが離れているところからでも確認できるほど動揺している。

 その様子をテオドール殿下は一瞥する。

「アデール・イアサント嬢。あなたとの婚約は破棄させてもらう」

 テオドール殿下は何の感情も籠っていない冷たい声で宣言した。


 その場に居合わせた団員達は突然の出来事にただ、唖然とし、突っ立っている。

 震えるアデール嬢を横目に見てから、テオドール殿下は正面を向きレーヌをひた、と見つめる。

「レーヌ・アストリ嬢。貴殿を我の婚約者として指名する」

 レーヌは名指しされたけど、何を言われているのかわからず、ポカーンと立ったままだったが、テオドール殿下の次の話で、何か起きているな、とだけ思った。

「リアム、レーヌ嬢を部屋に案内しろ」

 リアムは頭を下げると、王座の裏から出てくると、つかつかとレーヌの元に近寄る。

「ということで、今日からここで生活してもらう」

 それだけいうと、レーヌは肩を叩かれ、歩くように促される。


 レーヌは王座で震え睨みつけているアデールを見ながら歩き、団員達はリアムに連れて行かれるレーヌを呆然と見送ることしかできなかった。

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