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10.事情説明の朝です

ツギクル版より内容を大きく書き加えています。

振り切りすぎたかな……

 レーヌは柔らかな布団に包まりまどろんでいた。

 遠くから誰かの声が聞こえてきた気がしてゆっくりと目を開ける。


「おはよう、ハニー」

 半分夢の中にいるレーヌの耳に男性の声が聞こえてくる。

「おはようございます……?」

 レーヌは反射的に挨拶を返したが、その時、昨日の慰労会の後のことを思い出した。


 リアムに連れてこられた部屋に侍女が3人いて、いきなりドレスを脱がされ、湯あみを手伝ってもらい、用意された寝間着に着替えたあとは部屋に1人でいたはず。


 それなのになぜ男性の声が聞こえるのかしら、とぱち、と目を開けると、昨日初めて会ったテオドールが左手で頭を支え、にっこりと微笑みを浮かべながらレーヌを見つめていた。

「きゃあ……」

 思わず悲鳴を上げたが、テオドールの右手で口を塞がれる。

 レーヌは驚きで固まりそのまま微笑みを浮かべているテオドールの顔を見ている。

「おはよう、ハニー。よく眠れた?」

 テオドールは微笑むとレーヌの口を塞いでいた右手で頬をするりと撫でながら優しい声で話している。

 突然のことに口をパクパクと動かしていると、テオドールが目を細めレーヌを見つめる。 

「照れているの? 顔が赤いね」

 テオドールの言葉にレーヌは顔が熱くなるのを感じる。

「殿下」

 ごほん、と咳払いをしながら男性のいらっとした声が聞こえてくる。レーヌは慌てて体を半分ひねり、後ろを向くと、リアムが呆れた顔をして入口に立っていた。

「ちょっとまって、リアム様までなぜこの部屋にいるの!?」

 レーヌはリアムに向けて抗議の声を上げる

「殿下の付き添いですよ」

 リアムは視線を明後日の方向に向けてレーヌに返答する。

「で、でも、寝ている間に女性の部屋に入るなんて……!」

 リアムに抗議している時、突然顔を両手で挟まれ、テオドールの方に顔を向かせられる。

 レーヌは鼻先にテオドールの顔がある状況に顔に熱が集まり、耳まで熱くなるのを感じる。

 そんなレーヌを愛おしそうに見つめながらテオドールはレーヌの耳元に口を寄せる。

「とりあえず起きようか、ハニー」

 テオドールの優しい囁き声と髪をするりと撫でられ、レーヌは悲鳴にならない、ひゃあ、という間抜けな声を上げる。

 テオドールはそのままレーヌを抱きかかえるように上半身を起こし、ベッドを降りるとそのまま手を繋がれ窓際にあるテーブルに案内された。


 テオドールの対面に座ると、昨日レーヌを世話してくれた侍女のうち1人がワゴンにティーポットを乗せて、窓際のテーブルに現れる。侍女は手際よく紅茶を入れると、テオドールの合図で部屋から出て行った。


「事情は早めに説明したほうがいいかな、と思って朝の執務前にきました」

 テオドールは先ほどの雰囲気とは変わり、第一王子らしい凛とした雰囲気を漂わせながら紅茶を飲み、ここに来た理由を説明している。

「事情?」

 レーヌはテオドールの変わり身の早さに戸惑いながら紅茶を一口飲み気持ちを落ち着かせるとテオドールを見つめる

「どこから説明したらいいかな……」

 テオドールはティーカップをテーブルの上に置くと顎に手をあて悩みながら、少しずつ話し始める。

「昨日の婚約破棄となったきっかけはアデール嬢との婚約から始まる。アデール嬢とは3年前……私が15の時に突然決められた婚約だった。もちろん、王族であるから結婚は必ずしなければならないことは承知していたのだが、私は別の女性との婚約を望んでおり、父にも相談し、しっかりと身元調査もしたところ問題ない、ということでその女性の両親を城に呼び出し、話しをつけようと思っていた矢先のアデール嬢との婚約だった」

 テオドールは重い口調になり表情も陰りが見える。

「当然、父に抗議をした。父も認めた婚約者がいたのになぜかと」

 レーヌはティーカップを膝に置いたまま、テオドールの顔を見ながら話を聞いている。

「父は申し訳ない、と繰返すばかりで一向に説明をしてくれなかった」

 テオドールはその時を思い出しているのか、苦い顔をしながら話しを続けると、ちら、と入口に立つリアムに視線を向ける。

「この突然の婚約についてリアムに相談をしたところ、それならアデール嬢との婚約に至った経緯を調べてみようということになった。それから少しずつ調べていくと、何かしらの思惑で、この国の宰相であるリシャル・イアサントが急いで自分の娘のアデールとの婚約を結んだという背景が見えてきたのだが、その思惑はまだ、確とした証拠がなく私の妄想だと言われてしまう段階です」

 テオドールはテーブルに置いたティーカップをソーサーと一緒に持つと紅茶を飲み、一息つくと続きを話す。

「そこでリアムとも再度相談した結果、アデール嬢との婚約を破棄し、リシャル宰相がどのように動くか様子を見ようということになりました」

 レーヌは静かに聞いていたが、どこがどうなって自分が婚約者として名指しされたのかが見えてこない。

 レーヌはティーカップをテーブルに上に置くと、テオドールの金色の瞳をひた、と見つめ、口を開く。

「殿下、質問してもよろしいでしょうか?」

 テオドールが頷いたのを肯定ととらえ、思いきって質問をしてみる。

「私と婚約した意図はなんでしょうか?」

 テオドールは真顔になるとレーヌの顔を見つめる。

「貴方が自分の体を張って人間を助けた、とリアムから聞いた」

 それは、慰労会でも聞いた話だ。

「それこそが王族としてあるべき姿だと思った」

 それに近いことは慰労会でも言っていた。

「だが、アデール嬢は人を殺した容疑がある。それも確実な証拠が少ないため、このままでは婚約破棄を申し入れることまではできない」

 さらっと聞き捨てならない話を伝える。

「だから、貴方の話をアデール嬢に聞かせて国妃としての素質を問うた上で婚約破棄をあの場で申し伝えた。かなり動揺していたから、心当たりがあるのだろうね」

 テオドールはにやりと笑いながら紅茶を飲む。

「そして、私はいまだに婚約者にと望んでいる女性がいる。リシャル宰相のことが片付けば父にそのことを伝える予定だ」

 テオドールの話を聞いてレーヌは首を傾げてしまう。

 それは、つまり……?

「リシャル親子の思惑と犯罪を調査するためということがひとつ。そして、私が望む女性との婚約が無事に結ばれるために偽の婚約者になってほしい、ということだ。ただ、これについては貴方のご両親も了承している」

 両親までこの計画に加担していたとは……。レーヌは驚きのあまり固まってしまう。

「リシャル宰相は国が警護団を持つことに反対している。この件が片付けば、私の名のもとに各町にある警護団を国の組織として編成する用意がある」

 レーヌはその言葉に目を見開きながら、テオドールの金色の瞳をじ、と見る。

 国の組織となったら、活動にかわかる費用に頭を悩ませることなく平和を維持する活動に専念できるし、無職となった人の受け皿として活用できるのではないか?

 瞬時にいろんなことを考えると、レーヌの答えは簡単に出る。

 レーヌはテオドールの顔を見て大きく頷く。

「すべて解決した後に警護団が国の組織となるのなら、私は喜んで偽婚約者という責を全うさせて頂きます」

 はっきりとレーヌが言うと、テオドールはその言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべる。

「ありがとう、レーヌ。では、これからよろしくね、ハニー」

「ええっと……」

 ハニー、と呼ばれ、戸惑うレーヌ。その表情を嬉しそうに見るテオドール。

「期間限定とはいえ婚約者となったのだから、周りに信じてもらわないと」

 極上の笑顔を浮かべながら話すテオドールにレーヌは引きつった笑いを返すのが精いっぱいだった。


「さて、これからについて話そう」

 テオドールはまた真面目な顔に戻るとティーカップをテーブルの上に置いて話しを続ける。

「まずは警護団について。これは今まで通り参加してほしい」

 レーヌはこくん、と頷く。

「偽とはいえ、婚約者になったので、ある程度はこちらの執務に付き合ってもらいます。そのために妃教育も施します」

 妃教育、と呟くと肩を落とすレーヌ。

「討伐任務に使う馬は貴方の愛馬をアストリ家から、今日、貴方が使う衣装とともに到着します」

 その言葉にはっとしたレーヌは自分が今、寝間着姿なのを思い出すと顔を赤くして悲鳴をあげる。

そんなレーヌをテオドール殿下は笑顔を浮かべ楽しそうに見つめている。

「今日からよろしくね、ハニー」

 にっこりと笑うと、テオドールは表情を引き締める。

「これから執務が始まるから失礼します」

 椅子から立ち上がると、レーヌの左手をとり、手の甲にキスを落とす。

「今日からそばにいてくださいね」

 レーヌの耳元に口を寄せ、それだけ言うと部屋から出て行く。

 あとに残ったレーヌは1人顔を赤くしたまま椅子に座ったままテオドールが出て行くのを見送った。


 テオドールはレーヌの部屋から出るとリアムに不安げな表情を見せる。

「リシャル宰相がなにかしらレーヌに危害を加えることが予測されている今、警護をしっかりと頼む」

 リアムはテオドールの不安を感じ取ると、安心させるように大きく頷いてテオドールと共に執務室へと向かっていった。

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