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32.本物の婚約者になります!

 エステルとリゼットに見送られ、手を握ったまま、王城の正面玄関まで歩くと、テオドールが立ち止まる。


 レーヌは不思議に思ってテオドールの顔を覗き込むと笑顔を見せる。


「レーヌ、ここから歩いて城下町に行こう」


 それは、城下町デートを聞いた時にテオドールにリクエストしていたことで、警護の面から厳しいだろう、とは思っていた。


「ここからで、大丈夫ですか?」


「うん。すでにリアム達と計画を立てているから大丈夫だよ。じゃあ、行こうか?」


 テオドールはレーヌの手を引っ張ると玄関のドアを開けて外に出た。


 外は2月と思えない程、暖かな陽気で、春を告げる花の匂いが風にのりレーヌの鼻をくすぐってくる。


「そう言えば、魔物も最近出現しない、とリアムが嬉しそうに報告してきたな」


 レーヌとテオドールは手を握ったまま王城から出るためにのんびりと歩きながら話している。


「ふふ。それは嬉しいことです。魔物退治だけではなく、町の治安を守ることも警護団の役割だと思います」


 警護団が国の所属となるのは3月に入ってからになる。


 テオドールが決めてから2か月、王城側と警護団の間に立ち意見の調整をしてきたレーヌにとってもやっと安堵していた。


「レーヌは今まで変わらずに警護団の活動を続けてほしいが、無理はしないでくれ」


 心配そうなテオドールの声に、レーヌは手をぎゅ、と握り返し、うん、と頷く。


「よし。じゃあ、今日のデートコースだが……」


 そう言いながら、2人は城下町の人込みに紛れながら、最初の店に向かって歩いていく。


「シリカ! ひさしぶり!」


 最初の店は警護団でよく集まる町の中心部にあるシリカの雑貨店だった。


「レーヌ、ひさしぶりだな。体調は戻ったかい?」


 人がひっきりなしに出入りする店なのにレーヌとテオドール、シリカしかいない。


「今日は人がいないのね?」


 レーヌがきょろきょろと店の中を見回しているとシリカが笑顔を浮かべながら理由を話してくれる。


「何を言っているの。2人のためにこの時間は貸し切りにしてあるから、ゆっくりとしていけ」


「そうなのね」


 シリカと話していると、テオドールは手を離し、店の中を歩き始める。


 邪魔しない方がいいかな、と思ってシリカと警護団のこと、町の中のことなどを話していると、シリカがふとテオドールに視線を向ける。


 振り返ってみると、狭い店内の中、所在なさげに商品を見ているテオドールの姿が見えた。


 その姿を見て、お互いに気まずい雰囲気が漂う。


 シリカに詫びを入れると、レーヌはテオドールに体を向けた。


「テオ!」


 レーヌの声にテオドールは顔を上げ、ぱあ、輝く笑顔を見せる。


「レーヌ、こちらにきてください!」


 嬉しそうな表情を浮かべレーヌを呼ぶテオドール。


 シリカは苦笑いしながら、レーヌに頷く。


 レーヌは胸の前で両手を合わせて、一礼すると、静かにテオドールの元に向かった。


 テオドールは近寄ってきたレーヌの右手をぎゅっと握ると一つの商品を指さす。


「レーヌ、この置物みてください」


 テオドールが指さすところを見ると、銀製で猫が座っているところをかたどっていて、しっぽが上に伸びていた。


「ああ、それはしっぽには指輪、首にはブレスレットが掛けられるようになっているんだ」


 シリカが遅れて2人の元に行き商品を見ながら説明してくれる。


「アクセサリー置きか……これは2つある?」


「あるよ!」


 シリカは勢いよく言うと、近くの棚の下から在庫を2個取りだす。


「じゃあ、これ2つください」


 テオドールはニコニコしながらシリカに伝えた。


「まいど!」


 シリカは会計台のところに行き、そこからワインレッドのビロードの袋を2枚出すとそれぞれに1つずつ入れたあと、手提げ付の紙袋に入れるとテオドールのところに戻り手渡す。


「ありがとう!」


 テオドールは笑顔を炸裂したまま、シリカに礼を伝える。


「こちらこそ、ありがとうございます!」


「じゃあ、そろそろ次のところに行こうか?」


 テオドールの話にレーヌは頷く。


「じゃあ、シリカ、またね」


「おう、元気でいろよ!」


 シリカはそうレーヌに声を掛けると店のドアを開け2人を見送ってくれた。

 

 店を出るとレーヌの手を握ったまま、次の目的地の流行のカフェに向かう。


 そこはシリカの店から遠くなく、歩いて数分の距離のところにあった。


「ここ、季節のフルーツをたくさん使ったタルトが美味しいと話題なんです」


 店の前に立つとレーヌが説明する。もちろんリクエストしたのはレーヌ。


「僕一人だとこういう店に行かないので、ドキドキします。たしか、リアムの名前で予約を取っていたと思います」


 テオドールはそう言うと混雑している店の中に入り、店員に声を掛けると、窓際の明るい席に案内された。


 4人掛けのテーブルに案内されて、レーヌが申し訳ない気持ちでテオドールが引いてくれた椅子に座ると、テオドールが対面の椅子に紙袋を置くと、レーヌの横にテオドールが座る。


「え、え、と、テオ?」


 レーヌは顔を横に向けたまま、戸惑いながら名前を呼ぶ。


「ここはレーヌのリクエストだけど、僕のリクエストも聞いてくれる?」


 テオドールはニコニコと笑顔でレーヌに顔を向けている。


「え、と、なんでしょうか?」


 レーヌはいつもより近いところにある顔にドキドキとしながら聞き返す。


「僕のリクエストは、レーヌにケーキを食べさせてほしいんだ」


 笑顔がより一層輝くテオドールに対して、レーヌは耳まで熱くなるのを感じる。


「じゃあ、注文しようか? レーヌはどれにする?」


 テオドールは店員が持ってきたメニュー表をテーブルに広げてレーヌに見せる。


「あ、え、と私は、いちごタルトで」


「じゃあ、僕はアップルパイを、あと、紅茶を2つ、お願いします」


 テオドールは店員にメニューを返しながら注文を終えると、レーヌに向き合う。


「そうだ、ここのタルトをレーヌ付の侍女に持って帰ろうか?」


「ありがとうございます。きっと喜びますわ」


 それだけしか話していなかったが、紅茶といちごタルトとアップルパイが運ばれてきた。


 レーヌはいちごタルトを見て、おいしそう、と呟く。


 半分に切ったいちごがタルトの表面を覆い、断面を見るとスライスしたいちごがたっぷりと敷き詰められている。


「レーヌのいちごタルト美味しそうだな。あとで味見させて?」


 テオドールはそれだけいうと、アップルパイを切り始めた。


 ここのアップルパイはホールではなく、一つ一つ包んであるようで、こんがりときつね色に焼きあがったパイの中身は黄金色の輝く一口大のリンゴがごろごろと入っている。


 テオドールがパイにナイフを入れるとさくっ、という音とリンゴを切る時に微かにしゃり、という音が聞こえた。


 テオドールはフォークに乗るくらいの大きさに切り分けたパイをレーヌの口元に持っていく。


「ひとくちどうぞ、レーヌ」


 レーヌはまた顔が熱くなるのを感じながら、目を瞑ると出されたパイを頬張る。


 パイはほのかに温かく、微かにスパイスの香りが口の中に広がり、リンゴを噛むとしゃく、という音が聞こえる。


「これ、すごく美味しいです。さっぱりとしていて、いくつでも食べれそう……!」


 レーヌは口元に手をあてながら、テオドールに感想を伝える。


 その様子に目を細めながら見ているテオドール。


「じゃあ、僕にもいちごタルト食べさせて?」


 テオドールが頬杖をつきながらレーヌを見つめる。


 その姿にレーヌはどき、としてしまい、心臓がうるさくなる。


 テオドールにみつめられながら、タルトを食べやすい大きさに切り分けて、フォークに乗せて、ずい、とテオドールの口元に持っていく。


 テオドールはそのままレーヌの顔を見ながらぱくり、と食べる。


「うん。美味しいですね! いちごは酸っぱすぎず、カスタードクリームはコクがあるのにまろやかで」


 レーヌは耳まで熱くなるのを感じながらテオドールの顔を見ながら感想を聞いた。


「いい店ですね。また来たいです」


 テオドールはそう言うと、レーヌから視線をはずとアップルパイを食べ始める。


 レーヌもいちごタルトを食べ始めるが、心臓はいつまで経っても静まってくれなかった。


 会話をしながら、食べ終え紅茶を飲み干すと、侍女たちの土産を買うため店頭のショーケースに並びながら選び始める。


「いちごとフルーツタルトでいいかな?」


「はい、いいと思います」


 レーヌはぎこちなくテオドールに答える。


「じゃあ、決定。え、と、いちごタルトとフルーツタルトを5個ずつと、アップルパイを2個、土産用に包んでくれるかな?」


 店員が返事をして手際よく箱に詰めていく。

 テオドールはそれを受け取るとレーヌの手を握って店を出る。


 外は風が冷たいのでレーヌの火照った顔にはちょうどよかった。


「次は僕のリクエストの公園に行こうか」


 テオドールはレーヌの手をぎゅ、と握りながら話すとそのまま公園に向かいながら歩き始めた。


 レーヌはテオドールの手が少し震えているような気がして、声を掛ける。


「テオ? 寒いの?」


「うん? 寒くないよ?」


 テオドールは正面を向いたままレーヌに返事をしたが、すぐに公園の入口に到着した。

 

 この公園は市民の憩いの場で公園の中央には大きな噴水があり、その周りは四季に応じていろんな花が咲き乱れる。


 時折、クレープを売る店が出ていたりするので、恋人たちの定番のデートスポットになっている。


 テオドールは行きたい場所があるのか、レーヌの手を握ったまま、無言でまっすぐに歩いて行く。


「あの、テオ?」


「あ、すみません。歩くの早すぎましたか?」


 テオドールは少し歩くスピードを緩めるが、レーヌの顔を見ずにただ歩いている。


 その様子を不思議に思いながら、引っ張られるままに歩いて行くと、1つの岩の前にたどり着く。


 その岩はハート型をしており、岩の前でプロポーズをすると永遠の幸せがもたらされると恋人たちの間では噂になっている。


 その話を思い出した途端レーヌはテオドールの行動が読めた気がして、気を引き締める。

 

 ハート形の岩の前にテオドールは立ち止まると深呼吸をし始め、落ち着いた時にレーヌに向き合い両手を優しく握る。


「前にプロポーズをしたときに返事はいつでも、と伝えましたが、今その返事を聞かせてもらえますか?」


 テオドールは真剣な顔をしてレーヌを見つめている。


 レーヌも一度深呼吸をしてから、テオドールをまっすぐに見上げる。


 少し不安げな表情を浮かべているテオドールにレーヌは微笑んだ。


「はい、お受けいたします」


 レーヌはしっかりとテオドールの金色の瞳を見つめて伝える。


「リュカとしている時でも、テオドールでいる時でも国を守りたいと言った時の凛とした強いまなざしを見て、この人を近くで支えたいと思ったのです」


 レーヌの思いをテオドールに伝える。


「まだまだテオを支えるのは力不足ですが、これからテオの隣に立つのにふさわしい妃となるために努力致します」


 そこまで話した時、感極まったテオドールがレーヌの両手を離し、ぎゅ、と抱きしめる。


「レーヌ、ありがとう。僕は国とレーヌを守れる強い男になる」


 テオドールに抱きしめられながらも、レーヌはこくんと頷く。


「本当にありがとう、レーヌ。ずっと守っていくから」


 テオドールはそう言うと、レーヌの顔を両手で挟み額にキスを落とすと、体を離した。


「それとこれを」


 テオドールは外套のポケットから出した、小さな箱のふたを開ける。


 そこにはレーヌの誕生石であるシトリンが指輪を囲むように1列に並び輝いていた。


 テオドールはレーヌの右手をとり、指輪を薬指にはめると、指輪の上にキスをする。


「最愛の人、ずっと僕のそばにいてください」


 その言葉にレーヌは涙を流しながら、こくんと頷くと笑顔でテオドールを見つめる。


「はい! これからもよろしくお願いします」


 テオドールもまたレーヌの右手を握りながら優しく微笑み、レーヌと見つめ合う。


 テオドールとレーヌの誓いは風にのり、少し離れた護衛達の元に届き、そっと、2人の幸せが永遠に続くように願い、静かに見守っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても甘い雰囲気で終わりましたね。 今後の二人の甘い生活を象徴するかのようなデートから恋人の聖地のような場所でのプロポーズ……憧れますね。 投稿お疲れ様でした。
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