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31.デートに誘われました!

 定例の朝食会を前にレーヌは侍女のセレストとアラベルに身なりを整えてもらいながら、そわそわと落ち着かない気持ちでテオドールの到着を待っている。


 レーヌの様子を見ながら侍女2人は顔を見合わせながらにっこりと微笑みあう。


 先日、リアムとアラベルに相談した時に指摘されたように、いつしか、この朝食会でテオドールに会えることが楽しみになっていたレーヌは、交換日記を胸に抱えたまま、ソファーに座っていた。


 その時にドアをノックする音が聞こえ、レーヌはすく、とソファーから立ち上がる。

 アラベルは苦笑いしながら、レーヌの元に近づき、一緒にドアに向かう。


「今日もおかしなところないかしら」


 アラベルに小さな声で尋ねながら、左手で髪を触る。


「お嬢様、大丈夫ですから、落ち着いてください」


 レーヌはアラベルが目にうっすらと涙を浮かべて笑いを堪えている様子を見て、頬を膨らませた時にドアが開いてしまった。


「レーヌ、おはよう。頬を膨らませてどうしたの?」


 テオドールは不思議そうな顔をしてレーヌの頬を左手ですぅと撫でる。


「あ、あの、なんでもないんです! お、おはようございます、テオ……!」


 レーヌの慌てっぷりにアラベルは背を向けて肩を震わせているのを見てレーヌは軽く左ひじで小突く。


「とりあえず中にはいってもいいだろうか?」


 レーヌとアラベルのやり取りを見ていたテオドールは口元を左手で隠し、笑いを堪えているように見える。


「あ、すみません。どうぞ」


 レーヌがそう言うと、テオドールは右手を差し出してきたので、レーヌは左手をのせて短い距離をエスコートしてもらった。


 窓際のテーブルに座り、朝食を並べてもらうと、レーヌは抱えていた交換日記をテオドールに渡す。


「次はテオの番です」


「ありがとう。では、食事をはじめようか?」


 テオドールはレーヌから日記帳を受け取ると、テーブルの隅に置くと、食事を始める。


「そうだ、来月なんだけど、僕と城下町でデートしよう」


 テオドールがパンを千切りながら、笑顔を浮かべてレーヌに伝える。


「デート、ですか?」


 レーヌは思わずテオドールに聞き返した。


「はい。僕、いつか、好きな女性ができたら、城下町でデートしたいと思っていたんです。その夢を叶えてくれませんか?」


 テオドールはきらきらと目を輝かせてレーヌを真っ直ぐに見つめる。


 レーヌはテオドールの言った、好きな女性、と言う言葉に顔が熱くなり、心臓もドキドキとうるさく聞こえる。


 思わず両手で頬を押えてこくこくと数度頷いた。


「よかった!」


 レーヌの返事を見たテオドールの顔が明るく輝く。


「どこか行きたいところがあった、日記帳に書いて教えてください」


 そう言って日記帳に視線を向けるテオドール。


「もう、この日記帳も3冊目に入りそうですね」


 万感の思いがこもった声だった。その声を聞いたレーヌは一つの決心を固めた。



 レーヌが王城にきてから2か月を迎えようとしていた、冬晴れの日。

 テオドールと約束していた、城下町デートの日がやってきた。


 レーヌはテオドールとの朝食会を終えると侍女のエステルとリゼットとクローゼットに籠り、外出するための洋服を選び始める。


「お忍びですから、あまり派手なワンピースではいけませんし……そうですね、こちらなどいかがでしょうか?」


 エステルが手にしたのは白地で胸のあたりにボタンホールに沿うようフリルが配置されたブラウス、薄いグレーのフレアスカートを持っていた。


「こちらでしたら、市民に近い恰好になりますね」


「目立たない方がいいものね。ではこちらで」


 洋服が決まれば、あとは軽く湯あみしてからになる。


 急ぎ湯あみを済ませて髪をハーフアップにしてスカートと同じ色のリボンで結び、装飾品は左手首につけたブレスレットだけにして、靴は歩きやすいようにヒールの低い編み上げのショートブーツを合わせた。


 準備を終えてソファーに座るとそわそわとして落ち着かない気分になる。レーヌはそんな自分がおかしくて、リゼットの淹れた紅茶を飲んで気持ちを落ち着けている時にドアのノックが聞こえる。


 エステルが確認すると、テオドール殿下が来たことを告げた。


「よし!」


 レーヌはその言葉にソファーから立ち上がり、気合を入れるとドアの近くに行き待機する。


 エステルとリゼットがレーヌの身だしなみの最終確認をして、外套を着させてくれたところでリゼットがドアを開けるが、その瞬間、テオドールの姿を見て固まる。


 テオドールの顔が見えない程たくさんの白い花の、花束を抱えて立っていた。


「レーヌ、これを」


 花束の向こうからテオドールの声が聞こえてくる。


「ありがとうございます。アングレカムとアスターですね」


 レーヌは花束を受け取るとうっとりと呟く。


「この花を見ると、いろいろと思い出しますね」


 嬉しいこと、悲しいこと。レーヌの頭の中で思い出がよみがえってくる。


「レーヌ様、お花をお預かりいたします」


 エステルの言葉にはっとしてレーヌは笑顔を作る。


「はい、お願いいたします」


「お戻りになられる時までに飾っておきます」


 エステルの話にレーヌはしっかりと頷く。


「レーヌ、今日は楽しみにしていました。短い時間ですが、楽しい時間にしましょう」


 テオドールは笑顔を見せてそう話す。


「……私も、楽しみにしていました」


 レーヌは照れながらテオドールに伝えると、見る見るうちに顔を赤くする。


「はぁ……ずるいですよ、レーヌ」


 顔を赤くしたテオドールが左手を差し出してきたので、レーヌが右手をのせたが、そのまま手をぎゅっと握る。


「それでは、いってらっしゃいませ」


 エステルとリゼットに見送られ、手を握ったまま王城の正面玄関まで歩き始めた。

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