卵
漆黒のパノラマは海のように僕らを包んで、チカチカとまばゆい点滅が地上にも空にも輝くから僕は方向感覚を失ってしまう。
僕らを乗せた魚が、ぱっと輝きを増し、その光はみるみる強くなり僕らを飲み込む。僕は世界が一瞬真っ白になるのを見た。
そして唐突に、魚はライトをパチッと消したように光るのをやめた。
気が付くとまるい卵が一つ。僕らの横で無重力に浮かんでいる。
星が僕の手から飛び出しくるくるっと宙を泳いで喜びの光をまき散らした。
そして卵にぶつかるとキラキラと星のかけらが広がって、卵に魚と同じ色の明かりが灯った。
魚はゆるやかにそちらへ進み卵へキスをする。
ぽおっと輝く卵を残し夜の色に混ざってゆるゆると魚は僕を乗せ下降し始めた。
星々が祝福の歌を奏でている中僕らは泳ぐ。
街の中に僕の家が見えた。宙はどんどん遠ざかり空気は地上の生き物へのものに変わった。
魚は僕の家の玄関のドアの前で音もなく静かに止まる。僕は大地にぴたりと足をつけ、魚から降りた。
裸足の足の裏に地面のひんやりした感触が伝わる。
灯りの消えた魚はシルエットになって再び天へと泳ぎだす。
闇に溶けてすぐに見失ってしまったけど、空気はどこまでも清んで夜空はとても明るかった。
それは星々の間に中でもとりわけ輝くまるいまるい。
僕は空を見上げてぽつりつぶやいた。
「おやすみお月さま。」
明日は彼女に会う日だ。もう寝なくちゃ。
鍵を開け家の中へ。僕はぱたりとドアを閉めた。




