個室
新人教官として、ナツハとアリスが俺のもとから冒険者として巣立って行った。彼女達とはたった数日間の付き合いだったが俺が知らない事も沢山あり良い思い出にもなった。
新人冒険者の教官…案外、俺に向いていたのかもな。
そして今し方、冒険者ギルドに到着したらマーサさんに呼び止められて個室に連れられてきた。
「レナウドさん。朝から呼び出してごめんなさいね。確認したい事がありまして…」
「いや、構わない。」
新人冒険者の教官を呼び出した。
そして、マーサさんは受付課全体の主任だ。
もしかしたら、ナツハに何かあったのかも知れない。
冒険者は常に危険が付き纏う。昨日知り合い一緒に酒を飲んで楽しんだ奴が翌日死んだと言われたこともあった。
それが冒険者なんだ。
俺は机の上に置いた自分の拳を強く握り締めた。
覚悟をしたんだ。たった数日の訓練でもナツハは俺が教えた冒険者だ。
マーサさんも俺の表情を読み取ってくれただろう。
だから、落ち着いた優しい口調で話しかけてくれた。
「レナウドさん。…確認なんですけど。」
「ああ…何だ?」
受付の人だって常に冒険者達を見ているんだ。
言う方も覚悟があるのだろう。
「レナウドさん。新人冒険者に種付けしてませんよね?」
「………ん?…種付け。」
マーサさんは少し頬を赤くしていたが俺は、予想外の言葉のせいでマーサさんを凝視した。
どの口が言っているんだ?
「マーサさん。もう一度言ってくれないか?よくわからなかった。」
本当はわかっていた。種付けとは、あの種付けだろう。問題は何故、マーサさんの口からその言葉が出たのかだ。
真意を知りたいから、わざと聞き直した。
「種…種付けです!男女がするあの種付けです…」
個室に二人きりだから、尚更マーサさんの赤らむ顔が印象的だった。
「俺は新人冒険者のナツハとアリスの指導はしたが…その種付けは無かったぞ。寧ろ何故朝からそんな事を言うのか俺は貴女が心配になる。」
「いや!」
マーサさんは、本当は言いたくなかったの。と言わんばかりに自分の顔を手で隠した。
「噂に…噂になっているんです。レナウドさんが新人を騙して自宅で種付けをしている。最低な種付け教官だって。…だから私はレナウドさんに限ってと思って。」
噂?
どう噂されているかは一旦おいておく。それよりも最低な…
種付け教官発言は何だろな。
凄く心に痛みを感じた。
俺は、マーサさんにアリスとの一連の流れを説明した。
どうして、自宅に誘ったのか?
彼女は何故か土地勘も無く金も無く。育ちも良いのか一人で何も出来なさそうだったから。
どうして、安価な屋台料理を大量に買っていたのか?
それは、彼女が嬉しそうに見境なしに買い込んだから俺に理由はないし、冒険者として自立したら食費は返してもらう約束はしている。
俺の自宅から女性の叫び声が夜な夜な聞こえきたと冒険者が言っていた?
たぶん、アリスが急に怒って泣き騒いだからだ。色々溜め込んだものが溢れてしまったのだろう。
平原で若い女に胸を触らせて身体を揺らしているのが目撃されている?
ああ、あれはアリスが魔物を触るのを怖がって俺にドレインタッチしたんだ。魔物のエリアで仲間の体力を奪うなと、しっかり説教したし今は魔物を笑顔で触れるくらいになっている。大丈夫だ。しっかり教育はしたぞ。
貴方…何言っているのかしら?
そんな事を考えているようなマーサさんに俺は彼女…アリスとの訓練事情を伝えた。
そして、マーサさんは種付け誤解をといてくれたが、俺の印象…即ち教官の印象がギルドの評価にもなるのだと伝えられた。
たしかに評価は大事だ。それは冒険者の時に経験済みだ。
「私も協力しますから、レナウドさんも無理な事をしないでくださいね。」
実に優しい口調と笑顔だ。
アリスは勘違いしていたが、これが美人と言われる人の条件だぞ。
ギルド内外の噂は私が上手く操作しますから、レナウドさんは良い冒険者を沢山育ててくださいね。
実に、やる気が出る言葉じゃないか。
よしマーサさんの為にも良い教官にならなければな。
「マーサさん、次は普通の新人を俺のところに預けてくれないか?」
正直、ナツハもアリスも個性が強すぎる。今まで共にした冒険者のどれにも当てはまらない。
「一応、全員に新人冒険者訓練を推薦しているんです。でも、男の子は軽視して直ぐ依頼だと盛るし、そもそも女の子は少ないですからね冒険者になるの。」
たしかに俺も訓練すっ飛ばし痛い目にあったな。
まあ、若い時に味わう試練みたいなことだ。
「次は普通で良い。」
俺のボヤキに彼女は笑顔だ。そして髪を耳にかけて俺の耳元で
(私に種付けなんて何回も言わせないでください。恥ずかしいんだからね)そう言って部屋を出て行った。




