ミドリ逍遥、アカツキと邂逅
#MM交流
アカツキ、きぃちゃんをお借りしました。
王家の宝の一件で、落ち延びた先は、やはり、鉱山地帯でしかあり得なかった。ハディカでは散々な目にあったし、そもそも、人間領域に戻れば緑化病の症状が顕著に出た今、隔離病棟にぶち込まれるのが関の山である。そんなものは当然ごめん……
「さりとて、特に行き先も決まっていないし…」
思わずひとりごちる。
「善良そうな奴を引っ掛ける為にも、行き倒れのフリをしてみるか」
地面に腕が根付きかけたので即座にやめた。
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地面と格闘すること小一時間。本当に面倒な身体になってしまった。この病魔は生まれつきであろうが、こんなに酷い症状を呈したのは初めてである。
「嫌になっちゃうよ、もう」
今後は木製の家具なんかにも気をつけないといけないのだろうか。ようやく立ち上がり、歩き出そうとした時、背後から声が掛けられた。
「大丈夫ですか」
振り返ったら、自分より多少年上に見える男であった。善良そうな青年である。これは、実に、重畳……
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「長い間、地面にうずくまっていたから、その」
青年は逡巡した。言葉を選んでいるようであったが、
「自分、アカツキって言います!」
自己紹介を挟む事で話題を変えたとみえる。仮に、僕が穴を掘って呪いの人形を埋めていようが、それとも本当に体調不良の眩暈で膝をついていようが、どう解釈されても問題無かった。些事だ。どうでも良い。
「僕はミドリ」
だから、簡単に言葉を返してやった。青年の後ろに、隠れきれもしない幼女の影があるから、
「そっちの女の子は?」
とも付け加えつつ。
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「きぃちゃんって言います!」
青年の顔が一気に明るくなった。他人を喜ばせるにも興味がないが、この世の中、人畜無害を装った方が上手く渡り歩けると知っているので、
「ふうん。そうなんだ、お友達?」
とも重ねておいた。眼前の男はますます喜色に溢れ、
「ええ、大事な相棒なんです!」
と大輪の笑顔を咲かせている。こんな幼女を指して、『相棒』というのは、ちょっと変わっているが……。
「それにしても、お詳しいんですね。一目見て、きぃちゃんが、女の子って分かるなんて」
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──何言ってるんだ? 黄色の癖毛に、同じような色のワンピース。白いエプロンまで着けて、どう見たって幼女じゃないか。これで『実は男の子の相棒なんです』なんて言われたらむしろ悪趣味だと思う。
「男か女かなんて、見れば分かるでしょ」
「初めて会った時、自分は判別が付きませんでした。簡単にひよこの雌雄を見分ける人も居るみたいですけど」
「相棒とやらをひよっこ扱い」
「『君、女の子?』と聞いたら、頷いてくれたので、女の子なんだと思います」
興味もさして無いので、この話題は適当なところで切り上げさせて貰おう。己の精神に根差す暗澹たる邪悪を察知されなければ、どうでもいい。
「水場を探して居たんだ。ここのところ、あまり休めてなくてね」
アカツキは、見立ての通りの『お人好し』だった。「それは大変!」と言うと、「鉱山冒険者の野営地まで案内しますよ」と抜かしてくれたのである。
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アカツキは道中、何度も僕を振り返った。ちゃんと着いてきているかを確認しているのであろう。そりゃ、君と比べりゃ、この体躯は痩躯に過ぎるかもしれないが、女の子の方もそれに伴ってしきりに此方を見てくるし、正直、落ち着かない。
「その女の子さあ」
だから、話し掛けるようにした。そうすれば着いてきてるって分かるだろ。だが、声を上げた時点で、話題が特に思いつかない事にも気が付き、仕方なく咄嗟に
「なんできぃちゃんなんて名前なの。頭が黄色いからか?」
と問うておいた。結局アカツキの奴は笑顔で振り返り、
「『きぃちゃん』と呼んだら、返事をしたから、その時からきぃちゃんなんですよ!」
と宣ったのである。
「ふーん。安直だね」
聞いたからには自分の名がミドリであるのを高々と棚に上げ、渋々相槌を打たざるを得なくなった。
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「着きましたよ」
と彼が言うのは、『鳥詠の一族』御用達の野営地であると言う。決して少なく無い人波には辟易とさせられる。
「……悪いけど、この風貌で、あの集団の輪に紹介されるのは憚られる」
と言うのは半分本心で、半分嘘であった。確かに、我が身は緑化の病が進み、風態は植物然としつつある。そして残りの半分は、王の宝を奪い取るに際して失敗した自覚があるから、顔が割れていると少し面倒。
「実は、自分も。……」
青年は、何故か照れ臭そうに言った。
「もう少し歩いて良いなら、人のいない泉も案内出来ます」
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曰く、アカツキは『鳥詠の一族』らしい。
「あの中に特別親しくしている人、多分、居ないんです。相手がどう思っているか知らないけど、自分、変わってますから」
見ず知らずの人間に此処迄世話を焼けるのは確かに奇行だと思う。こう言う奴がいるから助かる訳であるが……
「鳥詠だから、つまりこの子も本当は幻獣……」
「きぃちゃんは……多分幻獣では無いと思います」
そりゃそうか。どう見ても人間のような風貌に見える。
「じゃ、何故こんなのを相棒に?」
「えっ……」
アカツキは少し考えてから言った。
「……………可愛いから?」
やっぱりコイツ変な奴だな。幼女拉致監禁罪をでっちあげればそこそこ説得力があると思う。
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「きぃちゃんの声、聞いた事がないんです。どうしてか、聞こえなくて」
「確かに随分無口な奴」
何を考えてるか分からない女の子なんて、不気味以外の何者でもない。僕だったら絶対連れ回さない。
「くすぐれば笑い声くらい出るんじゃないの」
「うーん、それが」
あろう事か、眼前で本当にやって見せられたのだから度肝を抜かれた。
「楽しそうであるのは分かるんですけど、声は聞こえないので」
これでこの人間の雌雄が分からなかったとか、どうかしてるぜ……
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「アカツキ、君って、人間そのものに興味が無いのか?」
「哲学の話?」
「いや、そうではなく……」
お人好しの割に、連れ回している女の子の事を、何もかも知っているように語る割に、何も知らないような感覚を覚えさせられると言うか。
「ま、僕にとって、人間に興味なんかない奴の方が好感が持てるよ。僕は案内料なんか払えないから」
「困った時はお互い様です。自分が出来る事なら、なんだって助けたいと思います」
かくして、鉱山地帯奥深くの泉に着いた。
「どちらかと言うと温泉みたいだね」
遠くから香りつつある硫黄に、合点がいった。
「足を洗わせて貰おう。どうも此処迄ありがとう」
帰り道は覚えてある。それに、戻る必要もないから、この道を引き返す必要も無い。
「良かったです。手足を洗うなら」
アカツキは微笑みを湛えていた。
「きぃちゃんも身体を洗いたいみたいで」
「良い訳ないだろ!?」
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「足湯だけなら良いとかじゃなくてさ」
「きぃちゃんは全身洗いたそう。鉱山地帯って埃っぽいし」
「ますます駄目!!」
叫びながら、自分の中に善性があるとしたら、この一点だけだと思った。どちらかと言うとこれは良識ってやつかもしれないが……
「そう言うのは僕の居ないところで、両者合意の上、プライベートな趣味としてやってくれ!!」
引き下がらなかったら、雷を落としてやろうかと思った。聞き分けが良い奴らだったので事なきを得た。
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「それじゃ、自分はこのあたりで」
「本当に謝礼や報酬が必要ないんだな」
「その為に他人に親切にする訳じゃないので……」
「お礼は出来ないけど、助言は与えられると思うよ」
アカツキは傾聴するような姿勢を見せた。
「あんまり誰でも彼でも助けると、とんでもない犯罪者を生かす事になる。気をつけな」
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「あ。それと…」
アカツキが帰る前に、一応確認しておこう。
「君の知ってる『鳥詠の一族』には、王家に深い繋がりがある人物はいるか?」
「深い繋がり? 例えば?」
「遠い親戚とか、姻戚関係があるとか」
「自分は知らないですねえ」
なら、しばらくこの辺りに潜むとしよう。
(──当然、アカツキがニグルス王国第二王子と友人関係にあるなどと言うのは、この時点のミドリには知る由もない)
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「きぃちゃん、お腹すいた? うん、じゃ、僕たちは野営地に戻ろうね」
彼女は決して返事をしないが、それでも、喜んで賛成しているのが、アカツキには分かる。以心伝心と言うべきか、一心同体と言うべきか、彼が彼女を『相棒』と称して全く異論が無いのは間違いなかろう。
「えっ、ミドリくんが、変? そうかな、確かに、ちょっと不思議な人ではあったけど……」
二者は囁くような会話を紡いでいる。
「僕、人を見る目が無いのかなあ。そんな事、無いと思うけど」
アカツキの肩を止まり木の代わりにしている黄色の小鳥は、愛らしく小首を傾げ、それを応答とした。
了▼
コントかも…




