section6『誰かじゃない』
傷つく仲間。崩れ落ちる命。
恐怖に凍りついた心が、はじめて動いた――
これは祈りでも願いでもない。
“わたしが、助けたい”。
その衝動が、確かな光となって現れる。
鳴が崩れ落ちた直後――真と隼人の目に、怒気が閃いた。
「テメェら……!」
隼人が短髪の男に詰め寄り、強化された拳を叩き込む。
その打撃をかろうじて受け止めた男が、粉塵を巻き上げながら後方へ跳ねた。
すぐに、横合いから真が飛び込む。
「隼人、もう一発いくぞ!」
「おう!」
ふたりのコンビネーションが鋭く交差し、攻撃の圧が一気に増していく。
だが、敵の二人もただやられているわけではなかった。
痩せ型の男が鎖を振るい、地形を利用して距離を取る。
――そのときだった。
ふと、痩せ型の男が何かを見て一瞬動きを止めた。
「……んだ、あれ……?」
声に含まれるのは、わずかな動揺だった。
その視線の先。
鳴の倒れている地面――そのすぐ隣にしゃがみ込む少女の掌に、微かな光が灯っていた。
(動かない……しゃべらない……)
澪は、鳴の顔を見つめたまま、震える手でそっと肩に触れる。
そのときだった。
――鳴の流した血が、澪の掌に触れた。
瞬間、世界の色が変わった。
風もないのに、空気がやわらかく揺らぐ。
澪の手元から、あたたかな光がふわりと舞い上がり、彼女の身体をやさしく包み込んでいく。
何かが、目覚めるような感覚だった。
(お願い……助けて。じゃない、私が……!)
澪の胸の奥から、衝動があふれ出す。
鳴を見つめる瞳には、恐怖も、戸惑いも、もうなかった。
光はさらに強くなり、鳴の体をやさしく覆うように広がっていく。
その傷口が、じわりと――まるで何かに癒されるように、ふさがっていく。
「回復してる……!?」
驚愕の声をあげたのは、隼人だった。
戦いながらも、澪の異変にいち早く気づいたのだ。
すぐに真もそちらへ目を向け、わずかに目を見開いた。
「今の、ノアか……?」
まるでその場の空気が変わったような、静かな奇跡。
その中心で、澪はまだ光に包まれていた。
「澪っ!」
凪とレイラが駆け寄る。
鳴のそばに膝をつき、その様子を確認する。
「……生きてる。傷も、浅くなってる」
凪が呟いた。
「まさか、今のが澪の――」
レイラが言いかけたとき、澪の肩が小さく震えた。
「私……」
かすかな声だった。
「私にも……できることが……あったんだ……」
光はゆっくりと収まり、澪の掌にはまだ、かすかなぬくもりが残っていた。
戦う力はなくても、何もできないわけじゃない。
届いた光は、傷を癒し、心を揺らし、運命を変え始める。
それは、ただの偶然じゃない。
――この手に“意味”が宿った、その瞬間。




