section3『交錯する力』
ノアの力がぶつかり合うたび、空気が震える。
敵は2人。どちらも一筋縄ではいかない手練れ。
だが――こちらも、経験と絆で積み重ねた連携がある。
迫る危機に、仲間たちは静かに牙を剥いた。
短髪の男の拳と隼人の腕がぶつかり合い、鈍い衝撃が通路に響いた。ノアで強化された肉体同士の衝突。瓦礫が砕け、粉塵が舞い上がる。
「ちっ、なかなかやるじゃねえか……!」
短髪の男が舌打ちしながら後退すると、すかさず痩せ型の男が鎖を操り、横から攻撃を仕掛ける。
「どっちもアイソン系…」
物陰から見つめる鳴が、わずかに目を細める。
「片方は近距離ゴリ押し、もう片方は拘束と援護……連携が前提のタイプっぽい」
痩せ型の男が指を振りかざす。宙に数本の鎖が生まれ、しなるようにして真の足元へ襲いかかる。
「――来るわよ!」
レイラの声が空気を裂いた。
同時に空間にふわりと展開された鏡像のひとつが、痩せ型の男の鎖攻撃を遮る。
鎖は鏡に衝突し、音もなく霧散した鏡像と共に威力を殺がれる。
「なっ……!?」
その一瞬の隙を、真は逃さなかった。
「行くぞ!」
地を蹴る真の姿が残像となり、痩せ型の男の間合いへ――
鋭く振るわれた拳が、腹部に炸裂する。
「ぐっ……!」
痩せ型の男の身体が横倒しに吹き飛ぶ。転がった先で地面に片膝をつき、咳き込みながらも立ち上がろうとする。
(細身の方……あれは、攻撃力よりも拘束メインのノア。鎖を自在に操って、相手の動きを封じるタイプだ)
「氷縛陣!」
凪が地面に手をついた瞬間、冷気が走る。
痩せ型の男の足元を中心に、一帯の地面が凍結し、足首を絡め取るように氷が立ち上がった。
「っ……こんなもんで!」
痩せ型の男は舌打ちとともに、鎖を地面に打ち込む。
数本の鎖が円を描き、瞬間的に氷を砕くように炸裂。
拘束を無理やり断ち切るようにして、再び身を起こす。
一方その頃、短髪の男も再び前へ出ようとしていた。
拳にノアの力を溜め、今度こそ仕留めると言わんばかりに気迫をみなぎらせる。
(こっちは……ノアを一点に集中させて、一撃でぶち抜くタイプ。あの動き、正面からは危ないな)
「させない」
凪がすっと手を掲げる。
「凍縛鎖!」
その言葉と同時に、氷の鎖が地面から伸び上がり、短髪の男の片腕と脚を絡め取った。
完全拘束とまではいかないが、動きを一瞬止めるには十分。
隙を見逃さず、隼人が踏み込む。
「おうッ!」
強化された拳を振りかぶり、短髪の男の腹部へ――
鈍い衝撃音と共に、敵の身体が後方に吹き飛ぶ。
「ぐあっ……!」
瓦礫の山に叩きつけられ、呻き声を上げる男。
その様子を、背後の物陰から澪が見つめていた。
――目の前で繰り広げられる、命のぶつかり合い。
自分はただ立ち尽くすことしかできない。
(私だけ、何もできない……)
その胸の奥に、焦りと恐怖、そして苛立ちがわずかに膨らみ始めていた――。
放たれた一撃が、確かに敵を捉えた。
一瞬の隙を生み、仲間たちが繋いだ連携の勝利。
しかしその裏で、ひとりの少女はまだ“何もできない自分”に立ちすくんでいた。
焦りの影が、静かに心を蝕んでいく――。




