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オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
その手で、守るために
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section1『はじまりの違和感』

崩壊した街に降り立った6人。そのうちのひとり、天川澪は、初めてこの異世界《ルヴァ=ヘレイス》に転写されたばかりだった。

初めての恐怖と不安――だが、仲間とともに、一歩を踏み出す時が来る。

瓦礫に覆われた地面を、6人の足音が慎重に進んでいく。

 風が吹くたび、錆びた金属片がカラカラと鳴り、崩れたビルの隙間から灰色の光が差し込んでいた。


 三國見 真、白鐘 鳴、白倉 凪、獅堂 隼人、鏡月 レイラ――そして、天川 澪。


 天川 澪。高校2年生。

 人懐っこく、天然な笑顔を浮かべる少女だが、今はその顔からいつもの柔らかさが消えていた。

 転写直後の混乱と動揺をまだ引きずったまま、彼女はぎこちない足取りで皆の後ろをついていく。

 視線は定まらず、時折小さく息を呑むような仕草を見せていた。


 これまでも転写のたびに、“初めて来た者”が混じることはあった。

 だが、今回は違う。すでに経験を積んだ5人の中に、たった1人――

 澪だけが、完全な“新人”として取り残されていた。


 「……澪、大丈夫か?」


 そう声をかけたのは真だった。歩調を緩め、彼女の隣に並ぶ。


 「う、うん……たぶん……」


 澪はかろうじて返事を返すが、その声はかすかに震えていた。

 無理もない――何の前触れもなく“こんな場所”に来させられて、平静を保てる方が異常だ。


 「無理しなくていい。焦らなくていい。……最初の時、俺も怖かったから」


 真の声は静かだったが、はっきりとした温度があった。

 その言葉に、澪はほんの少しだけ表情を和らげる。


 一方その頃、鳴はひとり立ち止まり、周囲をじっと見渡していた。

 識刻眼が、かすかな違和感を捉えている。


 (……やっぱり、反応が濃い。はっきりと“痕跡”が残ってる)


 彼の視界には、数値の波が地層のように重なり合って映っていた。

 かつてここで“何か”があった――それだけは確かだ。


 「……何かあったのか?」


 真が隣に立ち、問いかける。


 「うん。ノアの痕跡が異常に濃い感じ。かなり最近の反応だと思う」


 「ここに来たのは、偶然じゃないかもしれないな」


 そう呟く真の声には、かすかな確信が滲んでいた。


 (俺たちはなぜ、何度も転写される?)

 (この世界は、何を伝えようとしている?)


 足元に転がる、崩れた標識や骨のような残骸が、その問いに答えることはない。

 ただ、風だけが冷たく吹き抜けていく。


 6人は再び歩き出す。

 崩れた建物を回り込み、先へと進む。

 その先に、何が待ち受けているのかを知らぬまま――。

何かがこの世界にいる。

澪の歩みと、鳴の直感がそれを告げていた。

世界が語ろうとする“何か”へ向けて、6人は静かに歩みを進める――その意味をまだ知らぬまま。

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