section7『勝利なき終焉』
打ち込んだ拳が、ついに敵を揺るがした。
初めて見えた、わずかな隙。
4人の意思が揃い、勝機を掴もうとした――
だがその刹那、現れたのは“異質”だった。
空気を変え、戦場を終わらせる男。
それは、勝利ではない。
戦いの幕が、ただ静かに下りただけだった。
真の拳が、男の顎をとらえた。
鋭く、重く。たしかな手応えがあった。
男の身体が一歩、後退する。
それは、この戦いで初めての“明確な後退”だった。
「今の……入った……!」
レイラが息を呑む。
凪も、氷の刃を再び構え直す。
「全員で……押し切る!」
隼人が叫び、仲間たちが前へと踏み出そうとした――その直後。
カウンターを受けた男が、わずかに体勢を崩す。
その瞳が、静かに揺れていた。
――そして、次の瞬間。
「……よう、間に合ったか?」
飄々とした声が、路地裏に響く。
姿を現したのは、白髪の男――神瀬 匡だった。
どこか軽薄な雰囲気をまといながらも、その場の“空気”を一変させる異質さを纏っている。
敵の視線が神瀬に向けられる。
その瞳の奥で、何かを思い出したような反応。
(……白髪、細身、軽口。特徴は一致。あいつが……)
かつて“指示された存在”――
戦ってはならない、“特異な対象”。
(――交戦は禁止。遭遇時は、即時撤退)
男は、これ以上の戦闘を放棄する。
「……これ以上は不要」
短く呟くと、身を翻し、一瞬で街に姿を消す。
「待て……!」
真が追おうと一歩を踏み出す――
「やめときな」
神瀬が、軽く右手を上げて制止した。
「まだ“時期”じゃない。……今のお前たちじゃ、あいつを追っても意味がない」
「……でも!」
隼人が悔しげに拳を握る。
――あいつは、本当に強い。
「くそ……逃げ足まで一級かよ」
隼人が小さく吐き捨てる。
レイラも、鏡像を解除しながらつぶやいた。
「一人残って、あそこまで……」
凪は何も言わず、氷の粒を握りつぶした。
その中で、鳴がぽつりと呟いた。
「……何者なの、あいつ……」
戦いは終わった。だが、それは“勝利”ではなかった。
不穏な予感と、正体の見えない敵。
ただの“ノア使い”ではないことは、誰の目にも明らかだった。
戦いは終わった。けれど、勝てたわけじゃない。
敵は確かな力を持ったまま、去っていった。
その背中に追いつけない現実が、胸を刺す。
そして残されたのは、正体不明の恐怖と、
神瀬匡という男。




