section3『潜在ノ兆し』
街の喧騒に紛れて、異変は静かに忍び寄っていた。
白鐘 鳴が察知した微かな“数値の揺らぎ”――それは、ただの違和感では終わらなかった。
潜む脅威がその姿を現すとき、彼らは再び“戦い”という選択を迫られる。
「――鳴!」
背後から聞こえた声に、鳴は振り返った。
駆け寄ってきたのは、真、凪、レイラ、隼人の四人。
それぞれの顔に、警戒と緊張の色が滲んでいる。
「無事か? ノア反応って……」
真が問いかけ、鳴は頷きながら前方を見やった。
「いる。あそこ、男女二人組。今のところ攻撃とかはしてないけど……識刻眼が反応してる。
特に、女。スマホ越しに通行人を見て、何か仕掛けてる感じ」
「視覚干渉か……?」
凪が眉をひそめる。
鳴は答えを濁すように首を振った。
「わからない。でも、ただの画面操作には見えなかった。
……識刻眼の数値が、すれ違う人に反応するたびに、少しずつ揺れてる。
でも、決定的な証拠はない」
「じゃあ、尾行しながら様子を見るしかないな」
真が静かに言い、全員がうなずいた。
――その時だった。
「おい、ちょっと待てよ!」
通行人の列から、柄の悪い数人の男が現れた。
女に向かって指をさしながら詰め寄っていく。
「今、おれの顔撮ってただろ? おい、ふざけんなよ。消せよ、それ!」
「は? なに言ってんの?」
女は肩をすくめ、スマホを胸元に引いた。
「なに撮ってたか見せろって言ってんだよ、コラ」
男たちは完全にスイッチが入っており、女の返答を聞く耳を持たない。
一人がスマホを奪い取ろうと手を伸ばすと、女が冷たく睨んだ。
だが、抵抗することなく――男たちのうちの一人が、彼女の腕を掴む。
「ちょっと、やめてくれる?」
「うるせえ、ついてこいよ。人通りあるとこじゃ騒がれるからな」
そう言って、女と隣にいた男は、半ば強引に人通りの少ない裏路地へと連れ込まれていった。
「……どうする、真?」
隼人が低く問う。
「尾けるしかない。ノアの使用を見逃すわけにはいかない」
そう答えて、真たちは慎重に後を追う。
裏通りに入ると、わずかに開けた空き地のようなスペースが広がっていた。
「さっさと見せろ。撮ってないなら、堂々と見せりゃいいだろ?」
「マジでウゼェな、こいつ……!」
男たちが怒鳴る中――
静かに、もう一人の“敵”――男が動いた。
何かを口にすることもなく、ただ視線を合わせただけで、目の前の不良が一瞬ひるむ。
「……なんだ、てめ……?」
その問いが終わるより早く、空気が震えた。
“バシッ”という乾いた音とともに、一人の不良が吹き飛んだ。
地面を転がり、唸り声を上げる。
見えなかった――だが、確かに“何か”が放たれた。
「っ、この感じ……!」
鳴の識刻眼が一気に警報を上げる。
敵の男の身体に、シグマ数値が急上昇する波が立った。
「ノアだ。今、発動した……!」
「な、なんだこいつ……! やべぇって、逃げるぞ!」
他の不良たちが顔色を変え、叫びながら裏通りの出口へと駆け出していく。
一瞬で場に残されたのは、敵の男女と、物陰から覗く真たちだけだった。
「……やるしかねぇな」
隼人が拳を握り、真は静かに言い放つ。
「――行くぞ。全員、戦闘態勢!」
ごく普通の街角で、初めて交錯した“敵”の存在。
予測不能なノアの力が、日常を切り裂きはじめる。




