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オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
灰の足音
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section2『街に潜むもの』

朝の街は、いつもと変わらない賑わいに包まれていた。

けれど、白鐘鳴の目だけには──その“歪み”が、はっきりと映っていた。

視えた数値。揺れた空気。広がる灰色の膜。

それはただの偶然か、それとも──

確かに、街の中で“何か”が動き始めている。

翌朝。

昨日の“あの数字”が、頭から離れないまま鳴は街に出ていた。

アーケード街は、穏やかな騒がしさに包まれていた。

けれど白鐘鳴の目に映っていたのは、その中にぽっかりと空いた“穴”だった。


違和感。

明確に言葉にはできないが、視線の先にいた男女に対して、胸の奥がざわついていた。



識刻眼が、2人のノア反応をはっきりと映し出している。


「……なんで……」


鳴はごくりと唾を飲み込んだ。

街中に、堂々とノアの数値を持つ人間が2人。しかも、どちらも高い。


男は無表情で周囲をじっと見渡していた。

女はスマホを手に、笑いながら人波の中に視線を滑らせている。


(こんな場所で……何してるの?)


意味も目的もわからない。

けれど、ノアが動いた“気配”だけは確かに鳴の識刻眼に映っていた。


---


そのとき、女がスマホを操作し、ふいに視界が“揺れた”。


鳴の識刻眼には、うっすらと灰色がかった“膜”のようなものが見えていた。

空間が歪んだわけではない。けれど確かに――そこに“何か”が広がった。


「ノア……使った……?」


不安が喉元までせり上がる。

でも、逃げるわけにはいかなかった。


鳴はスマホを取り出し、手が震えるのを抑えながらグループチャットを開く。


《駅前のアーケードでノア反応》

《俺以外は気づいてないかも》

《一応、座標送る》

《接触は……まだしてない》


打ち終えた指先に汗が滲んでいた。


---


視線を戻すと、女がすれ違う人にスマホを向けていた。

それと同時に、ある若者が急に立ち止まり、きょろきょろと周囲を見回す。


何かに驚いたような反応。でも、すぐに何事もなかったかのように歩き出す。


(今の……なに?)


識刻眼の数値が、一瞬だけピクリと跳ねた。

それは、ほんのわずかな“ノアとの接触”を意味していた。


「どういうこと……? 一体、何が……」


鳴の中で、思考と感情がぐるぐると渦を巻く。

けれど、今はまだ何も断言できなかった。ただ――


目の前で、ノアを使って“何か”が起きている。


それだけは確かだった。


---


男がその若者に視線を向けた。

ただそれだけで、背筋がひやりとする。


何をしているのかもわからない。

けれど――彼らは確実に“危険”だった。


鳴は小さく息を吸い直す。


「……はやく、来てくれ……」


それは、震えを押し込めながら絞り出した本音だった。

人々の流れの中に、確かに混じり込んでいた異物。

識刻眼が映し出したものは、鳴一人にしか見えない現実だった。

怖さもある。確信も持てない。

けれど今、彼の“視える目”だけが、最初の警鐘を鳴らしていた。

──誰かが来るまでに、事態が動かないことを祈りながら。

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