section8『覚悟の再確認』
放課後の静かな教室で、真はただ外を見ていた。
変わってしまった世界、手に入れた力。
これは、そんな彼の小さな“覚悟”の始まり。
放課後の旧校舎は、ひっそりと静まり返っていた。
教室の窓辺に腰を下ろして、俺はぼんやりと外を眺めていた。
夕陽が校舎を斜めに照らしていて、窓ガラスの反射が柔らかく揺れている。
遠くから、運動部の掛け声やボールの音が聞こえる。
でも、それもまるで“遠い世界”の出来事のようだった。
この数日で、世界が大きく変わった。
いや——正確には、“俺の見ている世界”が変わってしまった。
力を手にした。
《ノア》。
その個性。
そして俺自身のもの《ミロク》。
世界がほんの少し、遅れて動いて見える。
危険が、色で教えてくれる。
先を読むように、反射が働く。
それはまるで、ゲームのチートみたいな感覚だった。
けれど、実際の戦いは、まったく楽しくなんてなかった。
白倉 凪との模擬戦。
俺の攻撃は何一つ通らなかった。
でも、視えた。わかった。
少しだけ、確かに“届く感覚”があった。
(……本当に、行くんだな。異世界に)
異世界《ルヴァ=ヘレイス》。
いつ、どんな形で“転写”されるかはわからない。
明日かもしれないし、一週間後かもしれない。
それどころか、突然、今この瞬間かもしれない。
予告も前触れもなく、気づいたときにはもう“そこ”にいる。
そんな不確かな運命を前にして、普通なら恐れるだろう。
でも——
俺の中には、確かに“覚悟”の種が芽生えていた。
神瀬の言葉、凪の戦い。
そして何より、俺自身の感覚。
(戻れない。……戻りたくない)
一度知ってしまった“先の景色”を、俺はもう手放せない。
怖いし、わからないことだらけだ。
でも、それでも俺は、前に進みたいと思ってしまっている。
もう、知らなかった頃の俺には戻れない。
ならば、進むしかない。
ゆっくりと教室を出る。
校舎の中はもう薄暗く、人の気配もほとんどない。
夕暮れの街は、思ったよりも賑やかだった。
制服姿の学生たち、帰宅途中の会社員、スーパーの袋を提げた主婦たち。
どれも“いつもの日常”。
けれど、それらすべてが、どこか違って見える。
俺の中に生まれた力と、それに付随する運命の重さのせいだ。
(……俺は、逃げない)
その決意が、心の底から浮かんできた。
何かが変わったわけじゃない。
だけど、確かに“歩く足”は、昨日までとは違っている。
見慣れた景色を背に、俺は静かに歩き出した。
どこに辿り着くかわからなくても。
その先に何が待っていても——
覚悟だけは、もうできていた。
まだ何もはじまっていないようで、少しずつ動き出してる。
真はもう、知らなかった頃の自分には戻れない。
だから前に進む。怖くても、それでも。




