表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
ノアの胎動
11/57

section2『神瀬 匡(かんせ・きょう)』

異世界の痕跡が残るまま、日常へ戻ってきたまこと

そんな彼の前に現れたのは、神瀬 かんせ・きょうと名乗る謎の男。

その男は、真の“異変”をすでに知っていたかのように語りかける──

これは「ただの偶然」か、それとも「選ばれた者」への必然か。

夕焼けが廊下を赤く染めていた。


放課後の校舎は、人の気配が薄れて静かだった。




教室を出て歩き出す。




(……今日は、早く帰ろう。ちゃんと寝て、全部夢ってことにしよう)




そんな逃げ道を頭の中で組み立てながら、下駄箱に向かう。


靴箱の前に立ったとき、妙な違和感に足が止まった。




──背後に、気配。




不自然なほど静かで、空気の温度が変わるような気配。




振り返ると、廊下の奥に、ひとりの男が立っていた。




白いワイシャツに黒いジャケット。


年齢は──二十代後半くらいか。どこか軽薄そうで、それでいて、見ているだけで呼吸を浅くしてしまうような、圧。




まるで、異物がこの世界に混ざり込んでいるような──そんな存在感。




「……ようやく、会えた」




男が、笑った。


軽やかに。それでいて、どこか諦めたように。




「……誰ですか」




警戒を隠さずに問いかけると、男はゆっくりと歩み寄りながら言った。




「俺の名前は──神瀬 かんせ・きょう。お前を“見に来た”者さ」




不思議だった。


初めて聞いた名前なのに、どこか懐かしくて、冷たい水のように心の奥に染み込んでくる響きだった。




「お前、最近“視えて”きてるだろ?」




その一言に、心臓が一瞬止まりかけた。




「……なんの話ですか」




「たとえば、誰かの動きが先にわかる。


音が、届く前に聞こえてくる気がする。


世界が、“一歩遅れて動いてる”ような──そんな感覚、あるだろ?」




(……こいつは、知ってる。俺が“視えてる”ことを)




「俺も、かつてはそうだったよ」




神瀬と名乗った男は、まるで昔話のように語り始める。




「最初はただの違和感さ。でも気づく。


世界のほうが“ズレてる”んじゃなくて、自分のほうが“先に進み始めてる”んだって」




飄々としているのに、言葉の奥には底なしの重みがある。


その軽さと深さが、異様な説得力を生んでいた。




「信じるかどうかは、君次第だ。


けど……お前はもう、“戻れない場所”を見てきたんだよ、三國見 みくにみ・まこと




──なぜ、俺の名前を?




「お前は、“選ばれてしまった”。それだけのことさ」




神瀬 匡はポケットから飴玉を取り出して口に放り込む。




「さあ、行こうか。……話すことは山ほどある」




その背に伸びる影が、夕焼けの中に溶けていく。




まるで、異世界への“入り口”が、すでに開かれているような──そんな錯覚だった。

名前を呼ばれた瞬間、真の中で何かが音を立てて崩れた。

自分の異常に気づいている者が、世界の片隅に確かに存在していた。

神瀬 匡──すでに“かつて異世界にいた者”。

その背に続く道の先には、“まだ語られていない世界”が口を開けて待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ