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「こ、困ります……わたし。朝からそんな大胆な……ぴっ! 破廉恥ですよ。でっ、でもでもでも! もし香織さんが契約外でわたしとそういう触れ合いをお望みなのでしたら……わたし頑張ぶぶぶ!?」
「誰が破廉恥か」
ヘタレの癖にすぐヒートアップする美夢さんの口を、私は枕でぐいぐいと塞ぐ。人のお尻で失礼な反応してくれちゃって……破廉恥なのは美夢さんの頭だっての。
「ぷはっ!……いえ、決して香織さんを批難するつもりではないんです。むしろわたしとしては嬉しいと言いますか……後頭部に乗せられ僅かに弛んだお尻の感触があまりに胸を打ち……! そう、香織さんのお尻は破廉恥は破廉恥でも良き破廉恥なんです! 具体的に言うと小ぶりで愛らしくありながらもうっすらとした肉がぼぶっ!?」
「いいから黙って飯作れーーーーーーッ!!」
執念すら感じる美夢さんの喋りを、私は枕の殴打で強制終了した。こんな朝の風景、人に見られたら私はとんだDV女だよ。冗談じゃない。
(朝の風景……か。これが美夢さんと迎える朝。これから毎日。そう、少なくとも実家との件が解決するまでは毎日ずっと……)
朝起きて一番にその人の顔を見て、他愛もない冗談やじゃれ合いに興じて、ちょっぴりえっちな戯れもあったりして、その人が朝ごはんを作ってくれるのを嬉々として待つ……そんなシチュエーションが、メメちゃんに借りた小説にそっくりそのままあった気がする。少なくとも、私が思い描いていた理想の一つだ。
(実際にやってみると……ろ、ろくでもねえええええ~~~~~~~~~~~っ!!!!!)
長らく抱いていた幻想が崩れ去る音、そしてこれから当分は血圧の乱高下する寝起きが続きそうな予感に震えながら、私はひとまずパサパサに乾いた口をうがいで潤したのだった。
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因みに、今朝の献立は中華出汁にショウガを利かせたかき玉あんかけ丼。スプーンで豪快にかき込めばずるずるした食感が気持ちよくて、ちょっと豪華な玉子かけごはんを食べてるみたい。付け合わせのお新香を一緒に食べると、爽やかに味変されて尚良し。当然のように米一合分のどんぶり飯が盛られていたのが癪に障ったけど、実際おいしいから機嫌は直してやるとしよう。
「いっぱい食べて大きくなってくださいね。例え月餅みたいな姿になってもわたしは側に居ますから」
「だからそういう言い方だっての!」
美夢さんは自分が飛びぬけてスタイル良いのに無自覚だから、そうやって平気で人の体型に色々言えるんだろう。さっきのお尻にしたってそうだ。私みたいに腰からストンと落ちたつまらん尻じゃなくて、ちゃんと下半身を鍛えてる美夢さんのヒップの方が……キュッと上がってどれだけ綺麗なことか。
「……香織さん?」
「はっ!」
おかわりをよそうために膝立ちになった美夢さんのヒップラインを、私はついつい凝視していたらしい。流石に視線が露骨すぎたので、美夢さんもストンと腰を下ろしてはにかんだ表情を見せる。
「香織さん……やらしいですよ」
「ど・の・く・ち・が!!」
今日この時の美夢さんにだけは絶対に言われたくない。やっぱり機嫌直すの中止!
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朝食と身支度を終え、何だかんだで8時前。私と美夢さんは静かに寮を出て、学校の敷地から少し離れた堤防沿いを歩いていた。平日だとこの辺りも学校の生徒がたくさん行き交っているんだろうけど、休日とあっては流石に朝っぱらからこんな所を歩く人はそう居ない。時折すれ違うジョギングの人や、犬の散歩中な人に会釈をしながら二人で歩くこと約20分。ほぼ他人に等しい仲でも、雑談がぽつぽつ出始めるぐらいの距離だ。
《つづく》




