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私、兼道香織が通っている高校は地元からかなり遠い。ざっくり言うと、飛行機を使うのはむしろ手間だけど新幹線を使うにしても乗り継ぎが必要なぐらい……地理的にも心理的にも遠い場所だ。それなりに歴史のある学校だけど、当然ながら生徒は九割がた地元の子。創立時に建てられた生徒寮が辛うじて存続していたおかげで私も通うことができているけど、それにしたって部屋は半分も埋まっていない。私はかなりのレアケースなのだ。
それなのに、何故私がこの学校を選んだか。もっと言えば何故この土地で高校生をやることを選んだか。実家を出たいだけならどこでもいい筈だけど、そこには当然理由があるわけで。今日は美夢さんにその辺りをちょっぴり教えてあげようと思ってたんだけど。
「……おい」
スマホのアラームで目を覚まし、ベッドの上で体を起こした私の目に入ったのは……昨夜、寝ずの番を頼んでおいた美夢さんが座禅を組んだままいびきをかいて爆睡している姿だった。
「……寝てるなーーーーーッ!!」
カチカチのそばがら枕が私の手で擲たれ、美夢さんの側頭部を直撃する。無防備に見えて実は気を張り詰めてるとかそんなことは一切ない。多分、完全にノーガードだったんだろう。
「んがっ!?」
素っ頓狂な声を上げ、美夢さんが跳ねるように起立する。いや、そこを機敏にされてもしょうがないから。私が敵だったらあんた今頃頭に風穴空いてるから。てか守れよ私を。そういう契約だろ。
「お、おはようございます香織さん……あはは、良い朝ですねぇ……」
「やる気ないなら出てって貰って構わないんだけど?」
「すみません寝落ちしてました!! 以後気を付けます!!」
「本当だな?」
睨みを利かせる私に対し、美夢さんは床に這いつくばって赤べこみたいに首をコクコク振っている。全く情けない……なんで大人に向かってこんな安い恫喝をしなきゃいけないんだ私は。
「……まあ私の命はちゃんとあるから、今回は許したげる。次から気を付けてね」
次は枕じゃ済まさないけどね。
「うう……面目ないです」
枯れ木のようにヨロヨロ立ち上がり、美夢さんは朝食の支度に向かう。私は溜息をつき、カーテンを開けて日の光を取り入れる。さっきの美夢さんじゃないけど、確かに良い朝だ。空は青々として快晴に近く、気温も不快でない程度にぽかぽかとして、今日の予定に丁度いいくらい。
(あっでも、こういう時って窓際に立ってると矢とか飛んで来て殺られるんだっけ? 私もちょっと危機感足りてないかな……?)
そんな不安にふと駆られた私は、窓の開口部から離れるように後ずさりをする。その拍子に、バッグの中を漁っていた美夢さんの背中につまずいた。
「どえっ!?」
そのまま体勢を崩し、私は美夢さんの後頭部に思い切り尻餅をついてしまった。
「あっ……」
ごめん。お尻をどけると同時に、素直な謝罪の言葉が喉の奥から上がって来る。が、それが私の口が出ることはなかった。
「ぴっ!」
何故なら、それより早く美夢さんの口の端から変な鳴き声が漏れたから。ぴっ!って言ったかお前。
「か、かおりひゃん……」
美夢さんの声は震えている。私が恐る恐る彼女の顔を覗き込むと、それはもう見事な茹でダコ状態。ま〜た変なスイッチ入ってるよこの人。
《つづく》




