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不定愁訴の塊、存在を消された病弱公爵令嬢奮闘記! ~エキナセアの繋がる輪~  作者: 悠木 源基


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66 双子の誕生秘話

「つまり、お見合いだったというわけですか?」

 

 リッカルドが尋ねると、叔父夫婦ではなくペルクスが頷いた。 

 

「ユーゴがいつまでたっても結婚しないので、義両親やエドモントさんに、いい人を紹介して欲しいと前々から頼まれていたんだよ。

 ユーゴは女性に全く興味を示さないので、周りの者達はヤキモキしていたんでね。」

 

「それって、母のせいですよね?」

 

 リッカルドが苦虫を潰したように言うと、ディルがなるほどという顔をした。身近かにあんな女性がいたら、結婚に希望は抱かないだろう。

 ペルクスは苦笑いをしながらもそれには答えず、話を続けた。

 

「そんな時、偶然、ケヴィン君からカミーユさんの話を聞いて、二人を会わせてみようかな、という事になってね。」

 

「ケヴィン義伯父さんはなんて言ったのですか?」

 

 ディルが身を乗り出すと、今度はペルクスではなく、母本人がこう言った。

 

「勉強ばかりしていて、結婚どころか異性に全く興味がない妹が心配だ。どこかにこんな変わり者の妹の貰い手はいないかな? って感じでしょうか?」

 

 するとペルクスは笑ってそれを否定した。

 

「ケヴィンは口は悪かったが、本当はたった一人の妹を溺愛していたんだよ。それに彼は男尊女卑の考えなど全くなかったから、カミーユさんが勉強好きな事も喜んでいたくらいなんだ。

 ただ、いつも家族や他人の事ばかり考えて、自分の事をかえりもみない妹が不憫だ、もっと、己の幸せを探して欲しいと言っていた。

 だからユーゴに会わせたのも、絶対に結婚をさせようというのではなく、視野を広げるきっかけになればいい、という気持ちからだったんだよ。」

 

 カミーユ夫人は少し驚いた顔をしてペルクスを見た。そして、意外な兄の思いを知って、少し頬を赤らめた。

 

「ケヴィンと同様に、私もユーゴに対して同じ思いを抱いていた。私自身の結婚のせいで、ユーゴが結婚に対して消極的になってしまったと。

 結婚とは相手次第で幸福になれるのだから、是非とも一度きちんと女性に向かい合って欲しいと思ったんだ。」

 

 ペルクスの言葉を聞いて、ディルがこう尋ねた。誰しもが尋ねたくて尋ねられずにいた事を。

 

「貴方はご自分の結婚を後悔していらっしゃるのですか?」 

 

 みんなが一斉にディルを見た。そして、ペルクスを。一様に驚きと困惑の表情を浮かべて。

 

 ペルクスはその不躾な質問に対して腹をたてる事も、表情も変える事もせず、じっと考えるようにディルの顔を見ていた。そして、こう口を開いた。

 

「それは、とても難しい質問だね。ただはっきり言えるのは、巷で噂されている私の結婚エピソードはデマだ。」

 

 それはそうだろうと、息子達は思った。

 両親は水と油だ。人は自分とは違う者に興味を抱くものだとよく言われるが、両親の場合混じり合う接点が全くない。そんな二人が大恋愛で結ばれたとは到底信じられない。

 息子は二人とも父に対して好意は持っていなかったが、父の能力や偉大性は理解していたので、何故あの母を選んだのかはずっと疑問だった。

 

「お前達も、私の父親、つまり、お前達の祖父の事は覚えているだろう?」

 

 息子二人は苦々しい顔で頷いた。つい先日エキナセアから彼の話を聞いたばかりだったので。

 

「私自身が早く相手を見つけなければ、父親好みの女性をあてがわれてしまう。それを回避するために、絶対に父の好みではない女性を選んだんだ。」

 

 父の言葉に二人は納得した。そうだろう。そうでもなければただ美人というだけで、派手好きで、教養や優しさ慈愛の欠片もないあの母と結婚するわけがない。

 

「すまない。あの時、私がもっと強く反対していれば良かったんだ。姉の事は私が一番よくわかっていたのだから。」

 

 ユーゴが申し訳なさそうに言った。彼はずっと親友に罪悪感を持っていた。自分が幸せな結婚生活を送るようになると、なお一層強く。

 

「そんな事言わないでくれ。サチと結婚したから、愛する五人の子供とかわいい四人の孫達に会えたのだから。」

 

 ペルクスの言葉に、ユーゴと二人の息子はそれこそ雷を打たれたような衝撃を受けた。

 

「ただ、正直な事を言えば、二度、サチと結婚した事を死にたくなる程悔やんだ。」

 

「二度?」

 

 リッカルドが思わず問うと、ペルクスは両手を組み、その上に額を乗せ、小刻みに肩を震わせながら、苦しげに呟いた。

 

「十六年前に妊娠したとわかった彼女が、私には何も知らせず、もう子供はいらないからと、堕胎目的でと勝手にフィリアへ行ってしまった時。」

 

「エキナセアの食物アレルギーを隠していた事がわかった時。」

 

 ユーゴとカミーユは息子達の前で何を言い出すのかと慌てたが、彼らはもう知っていたかのように平然としていた。

 

「あの人が僕達を産みたくなかった事は何となく気付いていました。それに、エキナセアは幼い頃に、はっきりあの人にそう言われたそうです。」

 

 ディルの告白に、ペルクスは勢いよく顔を上げて驚愕の表情を浮かべた。それはユーゴ夫妻も同様だった。

 

 母親にはお前を産むつもりはなったと、父親からはお前が死ねば良かったのに、と言われた娘。

 エキナセアの苦しみを改めて思いを知って、ペルクスの胸は抉られるように傷み、嗚咽を洩らした。

 

「あの人は、あの人は、自分の子供になんて事を。わかっていたよ。

 あの人はカミーユから生まれた子供は自分が育てるから産んで欲しい、と懇願されたから仕方なく産んだんだ。それと夫に見捨てられたくないから。

 しかし、流石に子供の顔を見れば少しは愛情を抱くと信じていたのに。」

 

 普段穏やかなユーゴが怒りに体を震わせた。

 

「あの時、やはり二人一緒に私達の籍に入れれば良かった。」

 

「君の言う通りだ。すまない。私はどうしてもせめて片方だけでも手元に残しておきたかったんだ。しかし、子供自身の事を考えれば、ユーゴにお願いするべきだった。すまない。」

 

 深々と頭を下げる父親を見ながら、ディルは自分は少なくとも父親からは望まれて生まれてきたのだ、と実感した。

 そして、今の両親からも。自分は十分に幸せ者だ。でも、エキナセアは・・・・・

 

「お話が聞けて良かったです。ただ、エキナセアにもきちんと話をしてあげて下さい。僕はフィリアで幸せでした。でも、エキナセアは僕の何十倍も辛い思いをしていますから。」

 

 すっかり大人になったディルの態度に、みんなは正直驚いていた。

 そう、人は誰でも自分が皆に愛されている、それがわかってようやく大人になれるのだろう。年を重ねても、心に隙間が空いたままでは、真の大人には成りきれない。

 

「ディル、本当にすまなかった。私はお前達を愛していたが、それを伝える努力を怠ってしまった。」

 

 ペルクスが謝罪すると、ディルはもういいよと頭を振った。すると、リッカルドが言った。

 

「お前、急に大人になったな。私はこちらに来る途中、さんざん父上にコミュニケーション能力の低さを責め、文句を言っていたよ。」

 

 苦笑いをしながらこう言った兄に、ディルは目を丸くした。

 

「一緒に暮らしていたのに、父上の気持ちを昨日初めて知ったんだ。情けない事に。私はかなり鈍いらしい。だから、エキナセアにも何度も酷い事を言ってしまった。」

 

 すると、ずっと黙って事の成り行きを見守っていたエドモントが口を挟んだ。

 

「流石、ご兄弟でございますね。よく似ていらっしゃいます。ご自分がどれほど周りの人間に愛され、大切にされているかを今まで気付かなかったとは。

 きっと、お二方ともお父上様に似たのでございましょう。」

 

 その場に居た者が皆笑った。そして全員がこうも思った。

 

 もしかしたら、ベネフィット家で一番鈍いのはエキナセアではないのかと。あれだけみんなから宝物のように愛され、必要とされ、尊敬されているのに、本人は全くその事に気付いていないのだから。

 でも、その原因を作ったのは、ベネフィット公爵である。この際、きちんと後始末をして頂こうと。

 

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