62 サポーターの親子
62 英雄との朝練は、63に変更となりました。
サポーターの親子の一章分を抜かしてしまいました。
本当に申し訳ありません。62章と63章をまた読んで頂けると幸いです。
しかし、取り敢えず自分の事は差し置いて、客観的に父の事を鑑みた。ただ悔いているだけでは、以前アリーチェにも言った通り、それはただの自己満足にすぎず、エキナセアのためには全くなっていない。いや寧ろマイナスである。
「父上は本当にエキナセアの事を何もわかっていらっしゃらないのですね。」
「・・・・・」
ペルクスは下を向いて項垂れた。その通りだからだ。実の娘だというのに、会話らしい会話をした覚えがない。
エキナセアと会うのはいつも夜中、寝ている時だけだった。いくら超多忙だったとはいえ、何故もっと娘の気持ちや考えを聞いてやれなかったのか。当時の自分が恨めしい。
「あの子はどんなに酷い目にあっても、相手を憎んだりはしない。自分が悪いからだと思ってしまう。
だから、貴方の事だって、恨んでも憎んでもいないんですよ。だから、貴方がエキナセアのためを思って距離をとっていた事が、かえってあの子を苦しめていたんです。自分が悪いから無視されるんだと。」
リッカルドの言葉にペルクスは驚愕した。自分が良かれと思っていた事が、全て裏目に出ていた事に。
自分は今まで娘への思いを必死に抑えてきたが、それが逆に娘を苦しめていたとは。
「私は年に二度、エキナセアの顔を見るためにフィリアへ行っていた。名目上、銀色のカードの更新の為だとユーゴには言い訳して。」
「・・・・・」
「ユーゴには、エキナセアと顔を合わせて、きちんと話をすべきだと何度も言われた。だが、痩せ細ったあの子の寝顔を見ていると、合わせる顔がなかった。
それにようやく落ち着いてきたのに、私の顔を見てまた具合いが悪くでもなったら、と思うとその勇気が出なかった。ずっと私はあの子の寝顔ばかり見ていた。」
「あの子はもう達観してしまって、人にとって大切なのは血ではない、そう思っていますよ。とは言え、実の親に愛されていない、自分は不要なんだと思っているので、あの子は自己肯定感がとても低いんです。そして、この私も。」
リッカルドは父の顔を真っ直ぐに見た。
「自分でも気付かなかったのですが、自分も自己肯定感が低いらしいです。昨日、そう姉上に言われました。
周りの人達には確かに誉められていたかもしれませんが、エキナセア以外の家族に誉められた覚えがありません。母からも兄からも、無愛想で可愛げがない、と言われ続けていたし、貴方とは、そもそも会話らしい会話をした事がなかったので。」
英雄伝説の本にその名を連ねているあの父親が、情けない顔で自分を見つめている事に、リッカルドは少し可笑しくなった。
父はアリーチェや姉が言っていた通り、本当は心優しい人で、自分達子供の事も愛してくれていたのだろう。
しかし、その表し方を知らなかっただけなのだ。こんなに優秀な人なのに、人として最も大切な愛情の情報伝達能力が欠如していたなんて。笑える。
「でも父上、今回私を誘ってくれたのは、こうしてコミュニケーションをとろうとしたからなんでしょ。それからエキナセアとも。」
「ああ。チャールズとキアラに教わったんだよ。人の話を聞く事、自分の思いを伝える事の大切さを。そしてそれを彼らに教えたのがエキナセアだって事を。だから遅すぎるかも知れないが、私もこれから実践してみようと思った。」
「ね、言ったでしょう。エキナセアには人の輪を大きくする特殊能力があるんですよ。私も、父上同様、勇気を振り絞ってエキナセアにあやまりに行きますよ。」
リッカルドはすっかり吹っ切れて、明るい顔をして父親に微笑んだ。
その後、リッカルドとペルクスは美しい月明かりの下を、川沿いに歩きながら、色々な話をした。
「金色のカードの持ち主は、主様の意志を継ぐ者なのでしょう? そして主様の意志とは、分裂した大陸をまた一つにしたいと願われていたアニー様とエミィ様の願いでもあるのでしょう?」
「よく知っているね。」
「エドモントさんがそうおっしゃつていました。」
とリッカルドはそう言ったが、彼が無国籍主義者である事は伏せた。人の信条を本人の承諾無しに話すのはいけないと思ったからだ。
「それにしても、仲裁人様達はずいぶんと気の長い方々がですよね。凄いです。私なら気が遠くなってとっくに諦めてしまいそうです。」
「どういうことだね?」
「だってサポーター探しを少なくとも四十年以上前からしていたわけでしょう?」
「四十年前とは?」
ペルクスは息子の言っている意味がわからなかった。
「エドモントさんの事ですよ。大学を卒業してこの国から逃げ出すとき、銀色のカードをもらって、仲裁人様から
『善き仲間を増やしなさい、そして待ちなさい』
と言われたそうですよ。父上やユーゴ叔父上と同じように。」
「なんと!」
「父上達が三十年くらい前ですよね。そして、カミーユ叔母上とアリーチェさん、それにレアム先生達が二十年くらい前。アディール様、エキナセアの先輩のアリステアさん、それと私が五年くらい前。残りは今回もらった者達です。」
今回もらった者というのは、ディル、ジョージ、アメリア、そしてクリスの事だ。
「なるほど。最初からもっと詳しい情報を提示してくれればよかったのにと、一見考えてしまうところだが、これにも何か意味があるんだろうね。」
ペルクスは考えながら言った。
「考えですか?」
「金色のカードの持ち主は、我々が知っている限りでは、最初がアーノルドだよね?」
「そうですね。次はリアム様、それからリュカ様、そして、今回、エキナセアとノア君が見つかりました。もっとも、探せば他にもまだいるかもしれませんが。」
「いや、私もお前達と同意見だ。リーダーがそれほど多いとは考えづらい。故に、サポーターをこの長きに渡って見つけていたのには、金色のカードの持ち主を見つける為の布石だったのではないかね?」
「布石ですか?」
「今回、最後のカードの持ち主と思われる二人が見つかるきっかけは何かね?」
「四国会議の開催計画ですかね。」
リッカルドがそう答えると、ペルクスは頷いた。
「そもそも、何故四国会議か開催される運びになったのかね?」
「それは、アディール様とリアム様の婚約破棄によるゴタゴタの対策のために開いたフィリア会議で… あっ!」
リッカルドは何かに思い当たったのか、声をあげた。フィリア・・・全ての事に対してフィリアがキーポイントになっている。金色、銀色のカードの持ち主は、アーノルド以外皆フィリアで繋がっている。
「そう、フィリアにみんな引き寄せられている。その直接の原因はレアム先生だったり、ユーゴの力なのだろうが、そもそも、エドモントさんがフィリア家の執事になっていなければ、あの家はとうの昔に没落していただろうからね。」
ペルクスの言葉にリッカルドも頷いた。そして、こう言ったのだった。
「ディルも同じ事を言ってましたよ。と言う事は、結局のところ今回みんながこうして集まれたのは、全てシャーリーさんのおかげだったという事なんですね。」
「シャーリーさん?」
「エドモントさんの奥様です。旅の途中で奥様に一目惚れしたので、エドモントさんはフィリア家の執事になったんです。当時、シャーリーさんがフィリア家で、ユーゴ叔父上の家庭教師をなさっていたので。」
「・・・・・」
希有の秀才、エドモント=トーマス=バーム子爵が、何故没落フィリア辺境伯爵家の執事になったのか・・・それは都の七不思議の一つであった。
次期伯爵の将来性を見越していたからだ、と言うのが最も信憑性の高い噂だと思われていたが、どうやら違っていたようである。




