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不定愁訴の塊、存在を消された病弱公爵令嬢奮闘記! ~エキナセアの繋がる輪~  作者: 悠木 源基


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48 幻の金色のカード

エキナセアの一番辛い過去が、ようやく少しずつ明らかになってきます。

「ええと、話を元に戻すと、金色のカードの持ち主を、仮に少なくとも各国一人とすると、とりあえずアグリ連邦共和国から一人見つける事が先決だって事ですかね。」

 

 リッカルドが言った。

 

「そういう事になるね。全ては仮定の話の上での事だが。」

 

 リアムが答えた。その時、フィリア家の騎士であるギーが、恐る恐る手をあげた。

 

「なんだい、ギーさん?」

 

「実は、先程金色のカードを見せて頂いた時思い出したのですが、以前同じ金色のカードを見たような気がするのです。」

 

 エキナセアの胸がドキッとした。

 ギーは元々はベネフィット家の騎士だった。五年前にエキナセアの護衛として共にフィリア家に来て、そのままフィリア家に仕えるようになった。

 エキナセアにとっては、アリーチェ同様に長い付き合いの、もっとも信頼できる人物の一人である。

 もしかしたら、彼の見た金色のカードとは、自分が見たものは同じではないのか? エキナセアはふとそう思った。

 

「それは誰のカードで、どこで見たのですか?」

 

 リッカルドが尋ねた。しかし、ギーは困った顔をしてこう言った。

 

「自分で言っておいて申し訳ないないのですが、大分昔の事なので記憶が定かではないんです。

 当時ベネフィット家に仕えていたのですが、主人の命で人を迎えに行ったのですが、そのお子様が持っていた気がするんですよね。

 ちょうど南トールキャッスルから出てきたところだったので、手に持っていたのだと思います。あまりに綺麗な珍しいカードだったので記憶に残ったのだと思いますが。

 南トールキャッスルから出てきたという事は、アグリ国からいらっしゃったのではないですかね。」

 

「そのお子様? その客人は子供だったのですか? 一体誰なんですか?」

 

 リッカルドが尋ねた。

 

「すみません。お名前は存じておりません。確か、先代様から今のご当主様に代替わりされたばかりの頃だったと思います。

 その子のお迎えに、ご当主様が自ら行かれていたので、大切な方だったとは思うのですが。それはそれはお綺麗な男のお子様でしたよ。」

 

「いつ頃の事ですか?」

 

「そうですね、多分二十年くらい前だったと思います。当時七歳くらいでしたから、今ならそう、レアム先生くらいになっていらっしゃるんじゃないですかね。」

 

 ギーの今なら、という言葉にエキナセアの心臓が激しく反応した。エキナセアは苦しくなって胸を掴み、テーブルに顔を伏せた。

 

「エキナセア! どうしたの。」

 

 リュカ王子が声をあげた。アメリアがエキナセアの背中をさすり始めた。そしてリッカルドが飛んできてエキナセアの脈をとろうとした時、彼女がこう呟やいた。

 

「アーノルド叔父様。」

 

「!」

 

 リッカルドが驚愕の表情をした。

 

「エキナセア、ギーさんが見た子供というのは、アーノルドさんの事かい?」 

 

「・・・・・」

 

 エキナセアは無言で頷いた。ずっと忘れていた。しかし、今はっきりと思い出した。

 ああ、そうだ。金色のカードは叔父のものだった。私が叔父が落としたカードを拾って、それを手渡した。そしてその瞬間・・・・・

 

「アーノルドとは、アーノルド=フィッシャー君の事か?」

 

 レアムが叫んだ。

 

「そうです!」

 

 リッカルドが厳しい、悲しい顔で叫び返した。そしてリュカ王子からエキナセアを奪いとり、右手で強く妹を抱くと、左手で優しく頭を撫でた。

 

「エキナセア、落ち着いて。さぁ、ゆっくり呼吸をして。はい、吐いて、そして吸って。そう、いいよ。もう一度吐いて、吸って。」

 

 静まり返った部屋の中で、リッカルドとエキナセアの呼吸の音だけがしばらく響き渡った。

 みんな何が起きたのかわからずに青ざめていた。特にギーが一番青ざめていた。

 やがてエキナセアの呼吸は穏やかになっていき、顔色も少しずつもとに戻ってきた。リッカルドは安心したようにほうっ!とため息をつくと、ギーの方を見て言った。

 

「ギーさんのせいじゃないから気にしないで。エキナセアはもう大丈夫だから。」

 

「兄上、エキナセアはどうしたんですか。アーノルドって誰の事ですか?」

 

 ディルの問いに、リッカルドは辛そうな顔を向けた。

 

「ディル、すまない。お前には隠していたのだが、アーノルドさんとは父上の末の弟で、私達の叔父だ。」

 

「「えっ!」」

 

 ディルとレアム先生が、信じられないという顔をした。

 

「アーノルド君は今どこにいるんですか? 私達は高等学院時代に突然いなくなった彼を、ずっと探していたんです。」

 

 アーノルドは、レアム先生と、アリーチェさんの息子であるフランシスの同級生で、そして親友だった。

 

「彼は亡くなりました。六年前のあの戦いの時に。」

 

「フランシスだけでなく、アーノルドも戦死していたというのか?」

 

 レアム先生はとても納得できなかった。十五歳で行方不明になり、二十歳で戦死だと? それではその間の五年間はいったいどこで何をしていたというのだ。

 

「戦死じゃありません。でも、死因はわかりません。私もあの時戦場にいたので、詳しい事はわからないのです。というより、アーノルドさんが叔父だったことも、亡くなっていた事も、成人してから知ったのです。」

 

 リッカルドはまた呼吸の荒くなってきたエキナセアに言った。

 

「興奮してはだめだよ。心を落ち着かせて。ゆっくり、ゆっくり呼吸をして。」

 

「レアム先生もどうか冷静にお願いします。」

 

 リュカ王子がレアム先生に懇願した。レアム先生もエキナセアを見てハッとしたようにその場に座り込んだ。リアムが駆け寄り、レアム先生の肩を抱いた。

 

 リアムは、レアム先生が親友を二人失った事に、ひどく心を痛めている事を知っている。だからこそ自分が困っていた時、彼は全てを投げ捨てでも助けてくれようとしたのだ。

 フランシスの事はともかく、アーノルドに関しては、まだ微かな希望も持っていたので、ショックは計り知れないだろう。

 

 エキナセアは兄に言われるまま深呼吸を繰り返しながら、小さな声で呟やいた。

 

「私のせい、私のせいです。

 私があの金色のカードを渡さなかったら、叔父様は連れて行かれずにすんだかもしれないのに。私を庇おうとしなかったら、あんなことにならなかったのに!」

 

「一体誰に連れて行かれたの?」

 

「レッドドラゴン・・・・・」

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 

 会議室の中は静寂が広がっていた。


 泣き疲れたエキナセアをリッカルドが抱きしめ、その二人を守るようにディルが立っていた。改めて二人は過去の自分を責めていた。


 戦場のトラウマの苦しみは誰にもわかるまい、とリッカルドはずっと心を閉ざしていたが、その間、エキナセアは自分の体調だけではなく、まさか、自分と同様に魔物とも対峙していたとは。まだたった九つだったというのに。

 しかも叔父の死を自分のせいだとずっと責め続けていたなんて。

 エキナセアはいつもいつも自分を卑下し、そして人のために尽くしてばかりいた。それは罪悪感からだったのだろうか。自分は本当に愚か者だ。何故気付いてやれなかったのだろう。

 

 ディルも兄と同じ事を思っていた。

 人より何倍も優秀だったのに、いつも自信無げで、まずは自分を犠牲にしようとするエキナセアに違和感を覚えていた。

 しかし、それが何故なのかを考えもしなかった。甘えるだけではなく、もっと寄り添ってやれば良かった。

 

 リュカ王子は自分がエキナセアを抱きしめてやりたかったが、兄弟から奪うことはできなかった。

 何故エキナセアばかり辛い目にあうのか。その理不尽な世の中を恨めしく思った。他の者達も思いは同じだったろう。

 

 そして、やがて落ち着いたエキナセアが語り始めた過去話は、皆の想像を遥かに超え、アメリアはジョージの腕の中で、レアム先生はリアムに肩を支えられて、その衝撃に耐えた。

 

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