46 長年の疑問の解消
ノアの事情と、皆の長年のモヤモヤの訳が、ようやくわかります。
「なんで僕に黙ってたんだよ!」
ディルが、ノアとエキナセアに怒ったように言った。二人は困った顔をした。
特にノアは、金色のカードがそれほどレアなモノだとは、今さっき聞くまで知らなかったのだ。無茶を言うなだろう。
「金色のカードって、顔で選定してるんですかね?」
「なに馬鹿な事言ってるのよ。」
「もし、顔で選んでいるなら、私じゃなくて、ジョージさんとアメリアさんが選ばれているわよ。」
ジョージとアメリアとエキナセアのやり取りの後、ディルがそれに乗った。
「それじゃ、頭か?」
「それなら、リッカルド様、ディル様、それにレアム先生も入ってないとおかしいんじゃないですか?」
すると、今度は息子に続いて父親のクリスが言った。
「なら、家柄か? いや、それなら、リッカルド様が貰えないのは変だな。」
「いや、その前に俺が貰っている時点でおかしいでしょ。」
ずっと黙っていたノアがここで初めて口を開いた。しかし、クリスは平然とした顔でこう言った。
「いや、それはおかしくないだろ。お前は元々立派な血筋の出なんだからな。ねぇ、エドモントさん。」
「そうですね。血筋に関しては。ただそれが基準になっているかは定かではないですけれどね。」
エドモントがクリスにふられてこう答えたので、みんなが『えっ?』という顔をした。
「それはどういうことですか?」
と、レアム先生が尋ねた。
「だからよ、ノアの父親は確かに俺と同様平民でフィリア家の使用人だったよ。貿易関係を任されてて、かなり頭のいい奴だった。」
ノアの父親は、二年前に病気で亡くなっていた。
「でもお袋さんは、元々カミーユ奥様の侍女で、ストリームラインから一緒に来た人だったが、それはそれは美しい人だったよ。
隣国では王制が廃止されてて、もう貴族様はいないが、家柄というもんは残るだろう。ノアのお袋さんも奥様同様、落ちぶれていたとはいえ、立派な家柄の出だった。
だから、奴は結婚を申し込むのに躊躇して、一年以上かかったんだ。それでよそ者に拐われそうになって、慌てて申し込んだんだ。奴は誰よりも何よりも奥さんを大事にしてた。それなのに。」
話の途中でクリスは涙ぐんだ。
「あいつの大事な、絶世の美しい薔薇の花は、美しいまま散ってしまった。
あいつは自分と結婚したせいだって、泣いて、荒れて。あいつが早死にしたのも、あん時、体壊したせいだ。
一人残されたノアが可愛そうで、可愛そうで。あの馬鹿野郎。」
クリスは親友を思い出し、顔を真っ赤にし、涙を溢れさせた。二年経っても大事な友を失くした悲しみは、消えるものではない。
リアムとレアム先生も同じ思いをしているので、胸を締め付けられた。
二人がフィリア家にお世話になり始めた頃は既に、ノアの父親は体を壊していた。
しかし、家の中で出来る、帳簿つけなどの事務作業をしていた。頬が痩せこけ、とても静かな男だった。
そして、時折、それはそれはいとおしそうに、勉強をしているノアの姿を眺めていた。
あれは息子の姿に、亡き美しい妻の姿を投影していたのかもしれない。ノアは咲き誇る薔薇のように気品があり、中性的な美しさを持っている。多分、母親によく似ているのだろう。
たった一人の肉親であった父親を失くした事は、ノアにとってかなりショックで、辛い事だった。
しかし、母を失くしてからの父の深い悲しみを知っていたので、父があの世とやらで母と幸せに暮らせるならば、その方が良かったと、リアリストのはずのノアでさえそう思っている。
「ノアは大丈夫だよ、クリスさん。ノアには僕が、そして仲間がいるからさ。」
ディルがノアの肩にそっと手をやり、今までにない優しい声で、顔を泣き張らしているクリスにそう言った。仲間達も頷いた。
側で見ていたリュカ王子は、彼らの絆の強さを羨ましく思った。
「ノア君の出自については私も知りませんでした。しかしこれで、我々が立てた仮説の信憑性が高くなりました。」
リッカルドがこう言うと、レアム先生が尋ねた。
「皆さんが立てた仮説とは一体どういうものなんですか?」
「リュカ様がおっしゃっるには、金色のカードの持ち主とは、アニー=ガーディアン様とエミィ=アービトレイト様の遺伝子を持ち、それが表に表れている方ではないかと。」
リッカルドは先程屋上で立てた仮説の説明をした。
聞いていた者達は、驚く事に慣れて、もういちいち声をあげることもなく、ただ黙って聞いていた。
しかし、説明が終わった後で、みんなが思っていた疑問を、ディルが代表する形で質問した。
「そう言われれば確かにリュカ殿下、リアム様、エキナセアはわかりますよ。大分はっきりしてますものね。
でも、ノアはどうなんですか? どの辺りが二人の遺伝子の表れなんですかね? この並外れた美貌ですか?」
「ディル様・・・・・」
真顔で質問するディルにノアは完全に引いた。しかし、周りの者達はそうかもしれないと素直に思った。
「ノア君の事はおいおいわかるでしょう。今、我々が注目しなければならないのは、このメンバー以外の金色のカードの持ち主を、いかに探し出すかという事です。」
「リッカルド様、どうして他の方を探す必要があるのですか?
大体、四国会議の出席者が当日参加出来るかどうか、確認するために認定審査をしているのでしょう? カードの色に何の意味があるのですか?」
エドモントが不思議そうに尋ねた。
全くもってその通りだ。確かにカードの色分けの仮定話は興味深いが、それほど重要な事とは皆思えなかった。
「まあそうなんですが、そもそも四国会議の最終目的は、四国の安定というか、友好とかでしょう。
しかし、その為には金色のカードの持ち主が大事なのではないか、と思うのですよ。」
「それはどういった根拠で?」
エドモントの質問に、今度はリアムが言った。
「ねぇレアム。初めて僕達が会った時の事覚えているかい? トールキャッスルの事を調べる為に、直接南トールキャッスルへ行ったよね。」
「ああ、もちろん覚えているとも。君の大胆さに胆をつぶしたよ。」
レアム先生が懐かしげに答えた。
「その時に、仲裁人様に言われた言葉を覚えているかい?」
「ああ、もちろんだとも。君は、『ようやく会えた、嬉しい、ずっと待っていた』
と言われたよね。それで僕は
『貴方達の力が必要です。しかし、貴方方二人だけではまだ無理です。どうか仲間を集めて下さい』
って。あっ!」
リアム先生は自分で口にして、初めて昔言われた言葉の意味を理解した。
「アニー様とエミィ様は分裂した大陸をまた一つにしたいと願われていた。
そして、金色のカードの持ち主が彼らの子孫だという事なら、彼らが皆集結し、その彼らを援助する者、つまり銀色のカードを持つ者達がたくさん集えば、この大陸をまた一つにできるという事なのか?」
「ああ、そうだと思う。」
リアムが大きく頷いた。
「僕以外の金色のカードの持ち主も、皆、同じ台詞を言われているんだよ。そして、銀色のカードの持ち主も、君と似ている言葉を聞いている。ねえ、エドモントさん。」
「はい。」
「確かに、遠い昔のことですが、善き仲間を増やしなさい、そして待ちなさい、と私も言われましたね。まさか、三十年以上経ってその意味がわかるとは、思ってもおりませんでしたが。
やれやれ。この年で、こんな大層な事に巻き込まれるとは。」
エドモントが大きなため息をついた。すると、ディルがそれに対してこう言った。
「というか、エドモントさんはこの為にフィリア家の執事になったんじゃないんですか?」
「どういう意味なの、ディル?」
「え? エキナセアもそう思わないのかい? 天の思し召しとでも考えなけりゃ、エドモントさんほどの優秀な人が、こんな片田舎の落ち目の伯爵家の執事になんか、なるわけないじゃないか。」
「うっ!」
確かにそうだわ。でも、ここでその発言は不味いんじゃないの? クリスさんに益々嫌われるわよ、とエキナセアは思わず下を向いた。
そして当のエドモントは、心の中でこう呟いていた。
『私がフィリア家の執事になったのは、旅の途中で寄った喫茶店で、一目惚れした女性(現在の妻シャーリー)が、フィリア家の家庭教師だったからなんですけどね。』
もっとも、それも主様の思し召しだった、と言われたらそれまでなのだが。




