44 金色と銀色のカード
食事が終わると、リアムが自ら仕切って話し始めた。補佐はリッカルドだ。
「エドモントさん、フィリア家の皆さんは今日で全員認可申請が済んだんですよね。」
「はい。」
「それでは、認可された人数、割合、そしてカードの色を教えて頂けないでしょうか。個人情報ですし、外国人である私がお聞きしていい事ではないと、重々わかっていますが、後程お話させて頂きますが、これは、四国全てにとって重大な事なのです。」
いつになく真剣な面持ちでリアムが懇願すると、エドモントは頷いた。
「今更でございますが、当然リアム様も認定パスをお持ちですよね。いつも着の身気のまま、ご自由に我が屋敷においでになりますものね。」
リュカ王子以外の者達がクスリと笑った。
「しかも、その都度認定証を申請しているのではなく、フリーパスなのではありませんか?」
「フリーパス?」
フィリア組がエドモントの発した聞き慣れない言葉に、疑問符を浮かべた。
「はい、そうです。」
リアムは頷くと金色のカードを示した。
「「「「わぁ、金色だ!」」」
大きなざわめきが起きたが、それをリアムが視線で大人しくさせた。
すると、エドモントがまた続けた。
「噂には聞いていましたが、本当にあったのですね、金色のカードが。初めて見ました。
それはともかく、リアム様がそのカードをお持ちということは、仲裁人様によって、身元のみならず、人間性まで保証されているという事ですよね。ですから、私はリアム様を疑ったり、隠し事をする必要がありません。
まあ、そのようカードなどなくても、元々私は貴方様を信用しておりますがね。」
リアムは大きく目を見開き、エドモントを見た。
リアムがフィリア家を訪れる度に、少し冷ややかに、少し邪険に自分に接してきたエドモント。
自国では陰口は叩かれてはいても、目の前ではおべっか使いばかりだったのに、はっきりと厳しい言葉を投げ掛けてきたエドモント。
自分には父親はいないのも同然でわからなかった。しかし、エドモントは本当の父親のように、自分を思ってくれていたからこそ、忌憚のない意見をしてくれていたのではないか。
初めてその事に気が付いたリアムは、目頭が熱くなるのを感じた。
リアムの心の内を察したのか、リッカルドが代わりに尋ねた。
「先程のカードの件ですが、伺ってもよろしいですか?」
「はい。結論から申し上げると、フィリア家の者は全員認定パスを頂けました。」
「それは凄いですね。」
「そうですか?」
エドモントが小首を傾げた。
本来は使用人が全員認可申請をする必要はなかったのだが、何人パスするのか予測がつかないし、領土が東トールキャッスルに一番近いということで、もしかしたら国から手伝いの要請が有るかもしれないので、とりあえず全員で申請をした。その結果、領主一家、使用人の全員がパスをしたのだ。
「まだ八割くらいの集計結果なんですが、貴族とその関係者の三割か四割弱しかパスしていないんですよ。一族全員駄目だった家もいくつかあるようです。」
リッカルドが国家の秘密事項をあっさり暴露した。
「ほぉう。」
エドモントは目を細めた。多少どこの貴族なのか予測がつくのだろう。
「ベネフィット家はいかがだったのか、お聞きしてもよろしいですか?」
「両親は兄に爵位を譲って引退すると宣言し、認定を受けませんでした。兄は赤いカードで、義理姉はパスしませんでした。そもそも義理姉は四国会議が実務会議だという認識がなく、社交パーティーに参加したくて申請していたようなので、まあ、パスしなくても不都合はないのですが。」
リッカルドが真面目な顔でこう言ったので、その場にいた者が全員下を向いて、笑いを堪えた。
「私は以前に銀色のカードを頂いています。あと、アリーチェさんが銀色のカードで、その他使用人六人が赤いカードでした。統計通り四割弱というところでしょうか。」
「それは意外ですね。筆頭公爵家が・・・・・で、エキナセアお嬢様は?」
フィリア組の代表として、エドモントが尋ねたが、リッカルドもリアムもそれは後で、とスルーした。
勘のいいエドモントはわかりましたと小さく頷きながら、フィリア家の話を始めた。
「リッカルド様同様、当主様ご夫妻は以前より銀色のカードをお持ちでした。
それからレアム先生と私、そして貿易を担当しております者四人も元々銀色のカードを持っておりました。
そして今回の認定で、ディル様、それから今日認定申請をした者達は、こちらにいる者達の報告はまだ受けてはいませんが、残った者達が赤いカードでした。」
「つまり、全員パスされたと言うことですね?」
リアムの言葉にエドモントが部下達の方に顔を向けた。すると、クリスとジョージの親子、そしてアメリアが頷いた。しかし、ノアが俯いて少し震えていたので、エドモントは訝しげに愛弟子を見つめた。
「予想はしていたが、流石フィリア家ですよね。元々王家とは親族同然で、こちらが王家になっていてもおかしくはなかったほどの、由緒正しい名家ですからね。リュカ様には失礼ですが。」
レアム先生のこの言葉に、ディル他、フィリア組が驚いた表情をしたが、エキナセアもリュカも平然としていた。
「その事は知っています。歴史書で読みました。」
リュカ王子が言った。
心の中でリュカ王子は、フィリア家が王位を継いでいたら、この国は今とは違っていたかもしれないと思ったが、流石がにそれは口にしなかった。
この国の王座は時の権力者が陰謀、謀略、策略、暴力によってもぎ取ってきたものだ。しかし、今の世と違い、綺麗事では国は治められなかった事も、リュカ王子にはわかっていた。
「まあ、家柄云々というより、当主であるユーゴ様と奥様のカミーユ様のお人柄によって、良い人達が集まってくるせいなのでしょう。それとエドモントさんのお力のおかげですね。」
リアムの言葉に、エドモント以外の者達が大きく頷いた。
『フィリア家の陰にエドモント有り。』
の諺は都でも囁かれる程有名なのである。しかし、エドモントはとんでもない、という顔をして言った。
「私ではなく、レアム先生の名声のお陰でございましょう。」
いえいえ、当主ご夫妻と、エドモントさん、そしてレアム先生のお陰です、とフィリア組は思った。
「まあそれはさておいて、私までこちらに呼ばれた訳をそろそろ教えていただいても構いませんか? 素晴らしいニュースがあるとお聞きしたので、私はずっと楽しみしておるのですが。」
リアム先生が、親友の顔を見つめながら尋ねた。すると、リアムは満面の笑顔を浮かべ、大きく頷いたのだった。




