31 善悪の基準
この章では、人間の思い込みが、いかに視野を狭くするか、というお話です。
自分がそうなので、綴りながら、自分でも少々情けなくなりました!
そして、その後の話し合いでは、エンチャントの貴族達用に、まず常備薬と予防薬、サプリメント、そして女性が喜ぶ化粧品などのサンプルを作って、宣伝しよう! という事になった。
だが、それらのサンプルをどうやって運ぶかが問題になった。
各国の法律改正を待ってからでは時間がかかりすぎる。かといって、このまま密貿易のような形態のままで行うという訳にもいかないと。
しかし、エドモントが、淡々とこう言った。
「今までと同様に、委託した業者に荷馬車で運んでもらうのが、何故いけないのでしょうか? 今更商人の方の仕事を取ったら、彼らも生活に困るでしょ。」
「だから、それでは密貿易のままじゃないですか!」
リアムがイライラしたように言うと、エドモントはきょとんとして、首を捻った。
「それのどこが不味いんですか?」
「どこがって、我が国とこちらでは薬の貿易は禁止されているからでしょう。法律改正に時間がかかるからといって、法律違反のまま荷を運ぶのは不味い。だから先程から、それをどうするかについて話し合っていたんじゃないですか」
何を今まで聞いていたんだ、という多少苛立ちのこもった口調でリアムが言った。
しかし、エドモントは相変わらず飄々とした感じでこう言った。
「確かに四国の間の法律では禁止それていますが、そもそも、
『四国の法は全てトールキャッスルの決まり事の傘下に入る!』
とされているわけですから、なんら問題はないのでは?」
「「「? ? ?」」」
「では、リアム様に伺いますが、薬の貿易が禁止なら、何故今まで商人達が普通に両国を往き来できているのでしょう。
先程も、まるで我々が悪事をしているかのごとくおっしゃっていましたが、医薬品貿易が密貿易で悪い事なら、そもそも、商人達はトールキャッスルを通過できていないでしょ。」
「「「 ! ! ! 」」」
「まさか、彼らが魔の森や大河、大山脈を越えて、荷馬車で運んでいたと思っていらした訳じゃありませんよね。いくらお金や人の為とはいえ、自分の命を犠牲にする商人はいませんよ。」
リアム、リッカルド、リュカ王子はポカンとした。確かにそうだ。何故今まで気が付かなかったのだろう。
詫び状でさえ、悪意が含まれていればトールキャッスルを通過できないのだ。それが違法な密貿易だとしたら、当然通過できるわけがないし、直ちに捕獲されてしまう案件だ。
「でも、何故だ? どうして密貿易が許されるんだ? というか、四国の法律に違反していても、これは密貿易ではないと、トールキャッスルが見なしている、という事なのか?」
リッカルドが唸った。すると、リュカ王子が呟いた。
「つまり、トールキャッスルと四国とでは、善悪の基準が違う事もある、という事ですかね。」
「そうだと思います。しかし、リアム様、貴方には少々がっかりしました。確かに貴方は天才のカテゴリーに入っていられる方なのでしょうが、どちらかというと、ディル様タイプの天才だったんですね。ぬけているところがあって。」
エドモントのセリフに、フィリア組が吹き出した。
しかし、これは不敬罪にはならないのかと、彼らは心配になった。
「四年前、リアム様はトールキャッスルを通らず我が国に出入りして、薬を持ち帰りましたよね。つまりは密入国。この罪は密貿易より大きいですよ。
でも、その後は、普通にトールキャッスルを通過して遊びにいらしてたじゃないですか。
もし、国の法を破る事が万国共通の罪なら、あなたは罪人となっているわけですから、それ以降トールキャッスルを通過できなかったはずですよね。それなのに、当たり前のように通れた事をおかしい!とは思わなかったんですか?
我々は、リアム様があの後普通に現れた時、すぐに薬の貿易は、トールキャッスルの基準では悪ではない! と判断したのですよ。
もしそうでなければ、いくら人の命の為だとはいえ、貿易は続けませんでしたよ。だってそうでしょう。医薬品貿易が主様が考える本当の犯罪だ!とはっきりした上で、なおそれを続けたとしたら、エキナセアお嬢様のお心が壊れてしまうでしよ。」
エキナセアは、今回の会議で、フィリアではいかに自分がみんなに大切にされ、心配されていたのかを改めて思い知った。それはリッカルドとリュカ王子も同じだった。
エドモントの説明を聞いて、リアムは深いため息をついた。
「ディル殿と同一視されるのは甚だ不本意ですが、こうやって指摘されると、否定できないのが情けないですね。
私は以前からずっと、トールキャッスルについて調べてきたのに、通過許可の基準は、四国と違う事がありえる、などという発想は全くありませんでした。」
「いくら天才だって、一人の人間が考えられる事なんて、所詮たかが知れてる。だからこうやって会議が開かれるんだろう?
まあ、メンバーによっては、無駄な集まりも多いんだろうから、あんたは今までその面子に恵まれてなかったんだな。
でも、今回はあんた自身が発起人の会議なんだろう。成果が出て良かったな。」
店長クリスの言葉に、リアムは大きく瞳を見開いた。
ノアは意外そうな顔で、ジョージに小さな声で話しかけた。
「なあ、今日の親父さんどうしたんだ。やたらリアム様に甘いな。」
「ああ、親父屈折してるからな。判官贔屓なんだ。」
「なるほど。でも、ナイスフォローだよな。俺達みたいな年下がやっても余計傷口広げそうだし。」
「特にお前がやるとな。」
二人のやり取りをエキナセアは笑いをこらえながら聞いていた。
エドモントさん、凄い!
自分で作ったキャラなのに、思わず自画自賛してしまいます。
ああいうタイプの人間になりたいです。




