26 執事の経歴
スーパー執事さんの紹介です!
休憩後、みんなはまた一堂に会した。そこで口火を切ったのはリアムだった。
「ノア君、フィリアからの方々はお疲れの事だろうから、今日は早目にお開きにしたいと思うが、どうだろう。」
「そうして頂ければ、正直ありがたいです。リアム様としては、一番の緊急課題はなんだと考えていらっしゃるのてすか?」
「こちらの国の方々にもお考えがあるとは思うのですが、僕としては、エキナセア様の名誉回復が一番だと思います。」
「それは先程もお話があったように、リッカルド殿のお陰で、城内ではもう周知されていますよ。」
リュカ王子がそう言うと、リアムは首を振った。
「いいえ、ユニフォーミティ王国だけではなく、我がエンチャント皇国にも、そしてストリームライン共和国の国家議長殿にも、真実を伝えなければいけないと思っています。」
「でもそんな事をしたら、エンチャント皇国、いえ、リアム様のお立場が悪くのるのではありませんか。」
リッカルドが言った。
さっきまではどうやってエンチャント皇国をぎゃふんと言わせてやろうか、と考えていた。
しかし、リアムの人となりを知ると、彼以外にエンチャント皇国を再建出来る人物はいない、と思えてきた。
そうなると、彼が皇帝になる妨げになるような事はしたくない。
「エンチャント皇国は早くこちらに謝罪に訪れたかったはず。それなのに来られなかったということは、恐らくはトールキャッスルを通過できなかったということでしょう。つまりは心から謝罪するつもりなどはない。ただ上辺だけで誤魔化そうとしている証拠です。やっと届いたという書簡には何と書かれていたのでしょう。リッカルド殿はご存知ですか?」
リアムの問いに、リッカルドは躊躇する素振りを見せた。
「ああ、国の機密をむやみに話せませんよね。特に敵国の人間がいるのに。」
「いえ、そうではありません。この場にいる者の事は皆信頼しています。そうでなければ、そもそもこの集まりに参加しません。そうではなくて、書簡の中身を知ったら、貴方がその、お辛いかなと思ったものですから。」
リッカルドの言葉にリアムは少し自虐的に笑いながら言った。
「つまり、それだけ酷い内容だったという事ですね。謝罪文にもなっていないような。」
「そうです。それで城内は余計に荒れてしまって。特に長老方をなだめるのに、今少々手こずっています。」
リッカルドは上手く言葉を濁したが、つまるところ、長老方は戦争まで視野に入れているということを暗示していた。
その場にいた全員が顔を曇らせた。
「長老方の怒りを収めるには、事実を公にし、我が国の長老達が自ら非を認めざるを得ないようにしなければなりません。いくらプライドを守りたくとも、ストリームライン共和国を怒らせては、我が国はやっていけません。隣国にご協力願うしかないと思っています。」
リアムの言葉にリッカルドが思案顔でこう提案した。
「隣国には正直に話した方が良いとは思います。しかし、何もエンチャント皇国を悪者にしなくてもよのではないですか? 」
「アディール様がエンチャント皇国のご招待を受けて向かう途中で、議長のご母堂様と出会われたが、今はユニフォーミティ王国に帰国されていると、ただそうお伝えすれば良いのではないかと。大鉈を払わないといけないと、先程おっしゃっていましたが、やはり急激な改革は避けた方がよろしいのではないですか?」
「しかし、それだけはこの国の長老の方々の不満は解消されないでしょう?」
「ですから、もちろん穏便に済ます為の詫びはしていただきますよ。」
リッカルドはエドモントに目をやりながら言った。
「どのようなお詫びをすれば許して頂けるのでしょう。」
「詫びというより、分かりやすく言えば見返り?ですかね。」
リッカルドに代わりエドモントが答えた。
「見返りですか。」
「城内の方々ですがね、誇りだとか何とか言っていますが、所詮それは建て前なんです。あの方々は自分に得があればなんの問題はないんです。」
エドモントの明け透けな物言いに、リアムもリュカ王子も驚いた表情をした。
それは話の中身ではなく、発言した人物が意外だったので。
フィリア伯爵家にこの人有り、と言われている、執事のエドモント。
彼自身も子爵家の出身で、元々都に住んでいた。
彼は、王族や名高い貴族にも請われていたにもかかわらず、それらを全てお断りをし、何故か自ら望んで辺境伯爵の執事になった人物である。
エドモントをよく知っているフィリアの者とリッカルドは、彼の発言に別段驚きはしなかった。
それは、彼の過去を知っているからである。
エドモントは、今、長老方と称される人達とは顔見知りである。
というより、初等学院から大学までずっと一緒であった。それ故、その苦労といったら並大抵ではなかった。
彼がなまじ優秀であったために、幼い頃からずっと、高位貴族の出来の悪い御子息達の面倒を見させられたからである。
その上、彼の成果は全て彼らによって奪われた。
高位貴族の御子息達は絶えず誰が彼を支配下に置けるかと争っていた。
しかし、エドモントはこれ以上人に利用される人生はまっぴらだったので、飛び級を繰り返し、十八で大学を卒業すると、旅に出ると言って、さっさと都を出て行ったのだ。
そして、その後紆余曲折があって、フィリア伯爵家の執事となったのである。
三年前にアディール王女が十七歳で卒業する前まで、エドモントが最年少大学卒業記録保持者だったのだ。
愚かな貴族の為に、ユニフォーミティ王国は貴重な人材を失くしたのだが、傾きかけていたフィリア家にとっては、涙が出る程有難い事であった。
等の本人がどう思っているかは定かではないが。
「ええと、それでは皆様。ご長老方にとって旨味のある話とは何か、それを明朝までの課題とさせて頂いて、今日はお開きにさせて頂きます。本日は大変お疲れ様でした。」
その美しい顔から吐き出されるとは、誰も想像できないような露骨な表現で、最後をビシッと締めたのはノアだった。
エキナセアとジョージは微笑み、他の者達は苦笑いをした。
「なんか、ノアの毒舌、一段と威力増したんじゃないか?」
と、ジョージ。
「エドモントさんの元で修行しているんですもの、当然じゃないの?」
と、エキナセア。
するとノアがにっこり笑った。
「何二人でこそこそ話してるの? 怪しいな。アメリアに言いつけてやろうかな。あっ、リュカ王子様にもかな。」
エキナセアとジョージは顔を見合わせると、同時に肩をすぼめた。
そこへリッカルドがリュカ王子と共に近づいてきて、こう告げた。
「私はこれからリュカ様を王城までお送りするので、申し訳ないが、ジョージ君、エキナセアをベネフィット家の屋敷まで送ってもらえないだろうか。」
「ええ、もちろんで・・・」
ジョージが返事をする途中で、ノアが言葉をはさんだ。
「僕達はこれから宿に向かいますので、ついでと言ってはなんですが、お嬢様をお送りします。」
「そうか、ありがとう。よろしく頼む。ジョージ君、今日は色々大変だったね、助かったよ。それと、ノア君、遠い所をありがとう。それに君の進行ぶりは見事だったよ。明日もよろしく頼むね。」
リッカルドは二人に礼を言って、先に部屋を出て言った。
リュカ王子も彼らに軽く会釈をしてから、エキナセアに向かって、
「それではまた明朝会いましょう。」
と言って優しく微笑むと、リッカルドの後を追って行った。
残った三人はその後ろ姿を暫くじっと見送っていたが、まず最初にジョージが深いため息をついた。
「今朝は本当にびっくりしたよ。お嬢様の事と、リュカ様の事。」
「ごめんなさい、心配をかけてしまって。」
「いや、リュカ王子様がお嬢様を抱き止めたのを見た時、腰が抜けそうになった。二重の意味で。偶然あんな所に現れるなんて、愛の力って凄い。」
「まったくだ。」
「やめてください、二人とも。」
エキナセアは真っ赤な顔を両手で隠した。
エキナセアとリュカ王子の事はマル秘のはずだったが、フィリア家の者は皆知っている。それはもちろんディルがしゃべったからだ。
ディルは昔からリュカ王子を毛嫌いしていたが、五年前の事があってからは、まるで天敵ように嫌って悪口を言っていた。
伯爵夫妻やエキナセアに嗜められてからは、流石に口にはしなくなったと思っていた。
しかし、先日、キアラ達が婚約話を知っている事に驚いたのだが、それはきっとディルから聞いたに違いない。
フィリアの人達がしゃべる訳がない。彼らはみな良識人なのだから。
「それにさ、噂には聞いていたけど、リュカ王子様、本当に綺麗で、それにもびっくりしたよ。この世にあんな綺麗な男がいるなんてさ。」
「まったくだ。」
またもやノアも同意した。
しかし、エキナセアはきょとんとして二人を見てからこう言った。
「そうですか?」
「そうですか、って、お嬢様はリュカ王子様を綺麗だとは思わないんですか?」
ジョージが驚いて尋ねると、エキナセアはいつもの台詞を言った。
「お嬢様呼びは禁止です。仲間内では、エキナセア、外ではブルブレアです。」
それからこう続けた。
「もちろん、リュカ様はお綺麗ですよ。そんな事は当たり前です。でも、ノアさんも同じくらいお綺麗だし、ジョージさんも、凄くかっこいいですわ。アメリアさんも飛びっきりの美人ですし。私一人こんなで、なんか少し、あれですわ。」
「あれ?」
「不公平な気がします。」
エキナセアが大真面目にこう言ったので、二人は大笑いをした。
我々の大切なお嬢様は、本当に自分の事をわかっていらっしゃらないなあ、と。
こんなに可愛らしくて、愛らしい女の子は他にいないのに。
何故か笑われて、少し臍を曲げたエキナセアであった。
スーパー執事さんが、どうやって フィリア家を再建させたのかは、後々、またご紹介します!




