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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第2話 盗賊ケムリ
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12. Bランクの仕事は身体に堪える

 警備兵は俺を地下牢に入れると、鉄格子の鍵をかけて去っていった。地下牢に入るのは初めての経験で、ダニだらけ、ネズミの糞だらけ、カビだらけの環境を想像していたが、かび臭いだけで、そこまで劣悪ではなく、これよりもっと酷いダンジョンで過ごしたことは、何度もあった。まぁ、上の階には領主が居住しているので当然かも知れない。汚い木の板がベッド替わりで、鉄のバケツがトイレのようだ。

(パラゴ、地下牢に先客はいるか?)と訊くと、(4人います。先ほどの野盗です)と、パラゴが野盗たちの位置を示した。牢の奥に、4人が別々に入っていた。(この家の間取りを示してくれ)と言うと、頭の中に地図が現れた。領主宅は地下のある平屋で、地下から1階に上がる階段は1箇所だけ。脱走するのは簡単だったが、それでは身の潔白を証明できないので、しばらく囚人生活を続けなければならない。木の板の上に横になり、休むことにした。

 食事はそこそこの物が出され、このまま5日間、待っているのも悪くないかと思っていたら、2日目の午後、動きがあった。いきなり警備兵がやってきて、俺の両手を縛り、地下牢から出した。そして、同じフロアの別室に連れて行かれた。そこは明らかに拷問道具とわかるものが並ぶ、趣味の悪い部屋だった。

 髪も髭も金色で、目の青い、30歳くらいの男が待っていて、俺を見るなり「この者がコソ泥か」と言った。身なりは立派だが、痩せて、色白で、ネズミみたいな顔をしていた。ネズミ男が不機嫌な顔で「まだ若いな、いくつだ?」と訊くので、「17です」と答えると、「首飾りを盗んだと、認めるか?」と言ってきた。「認めません。見たこともありません」と答えると、ネズミ男は片方の口元をゆがめ。「嘘はいかんなぁ、吊り上げろ!」と警備兵に命じた。

 俺を縛る縄に金属のフックが掛けられ、フックがつながる鎖が巻き上げられた。両腕を伸ばした状態で吊り上げられ、つま先立ちになった。ネズミ男が近づき、「罪を認めて楽になるか、一生、腕が使えなくなるか選べ。首飾りを盗んだと認めるか?」と言うので、答えないでいると、ネズミ男は不愉快そうな顔をし、「どこまで頑張れるか、見ものだ。重りをつけよ」と警備兵に命じ、両足に20㎏くらいの重りをつけられた。

 鎖を巻き上げる歯車が回り、全身が伸び切った状態で吊られた。身体がちぎれそうだ。パラゴの力も借りてマナを両肩に集中させ、身体の負担を減らしたが、きつく縛られた手首が痛かった。ネズミ男がニヤニヤしながら、「一晩、こうしていたら、肩の腱が伸び切って、二度と腕は上がらないだろうな」と言った。人をいたぶるのを楽しんでいるのかよ、このサディストめ。

「さあ、認めろ。首飾りを盗んだのはお前だな!」と決めつけてきたが、認めれば死罪なので、「違う」と声を張り上げた。「冒険者は廃業だな。痛めつけろ!」と言い、警備兵が手にした木の板で俺の背中を殴った。『重軽装』平服のおかげで、ほとんどダメージがなかったが、わざと苦痛の表情を浮かべ、呻いた。

 しばらく打撃を続けたところでネズミ男が、「服の上からでなく、直接、叩け。皮膚が破れて、血が出れば、考えが変わるかも知れん」と言い、吊られた状態でシャツをまくられ、ズボンを脱がされた。そして容赦なく、木の棒でバシバシ殴られた。パラゴが痛みを遮断し、耐えることは出来たが、ダメージを消せるわけではない。痛めつけられながら、どうやって復讐してやろうか考え、気を紛らわせた。

「さっさと白状しろ。足が膨れ上がって立てなくなるぞ」と言うのを無視していると、やがて打擲(ちょうちゃく)が止んだ。そして、ネズミ男が、「しぶといな。手間のかかる平民だ。鞭にしろ」と命じ、警備兵が鞭で俺を叩いた。皮膚が裂けて血が出たが、パラゴのおかげで痛みを耐えることができた。

 叩かれている俺を見ながら、ネズミ男が、「犯人だと認めれば楽になれるぞ」と言うので、皮肉っぽい笑みを浮かべ、「犯人に仕立て上げるための拷問かよ…」と呟くと、「黙れ!」と激高し、いきなり俺の頬を殴った。あまりにも力が弱いので思わず苦笑すると、「何がおかしい!」と叫んでもう一発、殴ってきたので、首を振って額で拳を受けてやった。今のでネズミ男は指を骨折し、その痛みを隠すように手を押さえ、「拷問を続けろ!」と叫んだ。しばらく殴られ続けたが、俺が泣きも騒ぎもしないので、飽きたようだ。「今日はここまでだ。まともな身体でいるうちに、白状するんだな!」と言ってネズミ男は去っていった。


 身体中の腱が伸びきった状態で歩くことができず、警備兵に引きずられて地下牢に戻った。警備兵が去ったのを見届けて、なんとか手印を組み、【回復】魔法を発動した。そして、(感覚を戻してくれ)とパラゴに命じると、遮断していた痛覚を戻り、身体中の痛みが一気に押し寄せた。痛みで息が詰まり、深呼吸を繰り返して、ようやく落ち着いた。

(パラゴ、痛みは徐々に戻してくれ。いきなりは辛い)と文句を言うと、(承知しました、宿主様)といつも通りの答えが返ってきた。その夜は腹が立ったので、牢屋を抜け出し、食堂で適当に美味いものを食べた。どんなときでも身体が資本だ。


 3日目の朝、連れて行かれた拷問室で、ネズミ男はサディスティックな笑みを浮かべて待っていた。うんざりしたが、右手に包帯が巻かれているのを見て、溜飲が下がる思いだった。俺は全裸にされ、昨日と同じように吊り上げられ、さらに頭から袋を被せられた。

「知っているかね。突然の痛みは、たいしたことはない。痛みが来るとわかっている方が痛みは強いのだ。さあ、背中に鞭を入れようか」という声と、ヒュンと空気を切る音が重なり、背中を鞭打たれた。腹立たしいことに警備兵の鞭の扱いは、昨日よりも上手くなっていた。

「もっと痛いのは、これから痛みが来るとわかっているのに、どこにその痛みが来るかわからないときだ。さあ、行くぞ」と、身体を鞭で打たれた。

「意地を張って、この先の人生を無駄にする気かね。自分が犯人だと白状しろ。泣いて許しを請えば、命は助けるように兄上に言ってやるぞ」と言われ、「兄上って誰のことだ?」と訊いたが、答えはなく、また鞭で打たれた。パラゴのおかげで痛みは感じなかったが、あちこちの皮膚が裂け、血も流れ、身体が心配だった。ダメージが大きすぎると【回復】魔法でも治しきれない可能性がある。魔法を発動して脱出しようかと考えていると、鞭打ちが止まり、乱暴に地面に落とされた。

「バカな奴だ。連れて行け。続きは明日だ」と声が聞こえ、警備兵2人が俺を引きずり、地下牢に放り込んだ。


 4日目の昼頃、地下牢から出されたので、また拷問かと思ったら、連れていかれたのは大きな応接室だった。ポニー、ネイト、そして冒険者ギルド本部の職員2人と、アルター卿と子爵夫人、スン執事、そして拷問していたネズミ男がテーブルについていた。ポニーは、魔術師が着るような黒いローブに身を包んでいた。普段は肉体労働者にしか見えないが、こうして見るとギルドマスターとしての風格があり、ちょっと見直してしまった。

 上着やズボンが血で黒ずんでいた俺を見るなり、冒険者ギルド職員のスーツを着たネイトが立ち上がり、「マリシ様!」と叫び、そのままこちらに駆け寄りそうだったので、縛られた手を挙げ、「大丈夫だ。たいしたことはない」と言った。ネイトは柳眉を逆立て、アルター卿を睨み、「無抵抗の冒険者を拷問するとは、それでも貴族か! 恥を知れ!」と怒鳴った。部屋の中がシーンとし、一気に空気が緊張した。

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