11-2. 運び屋稼業も甘くはない
ネイトが盗賊からダガーを抜き、おかしらの首筋に刃を当て、「誰に頼まれた?」と言った。「知らねえよ!」と言った瞬間、ネイトは躊躇なく、脇腹を斬りつけた。傷は浅いが、身動きが取れないと、余計に痛みを感じるだろう。「ぐあぁー。や、やめろ」と叫ぶおかしらに、「誰に頼まれた?」と同じ質問をした。「や、やめろ。知らないんだ」と言った瞬間、ネイトは再び脇腹を斬りつけた。
「や、やめてくれ! 頼む。本当に知らない。相手の詮索なんてしねえよ!」と言っても、ネイトは脇腹を斬った。おかしらは泣き声で、「やめろ、やめてくれ。頼むー!」と叫んだ。
ネイトは質問を変え、「なにを頼まれた?」と訊くと、観念したおかしらは、「3人組が来るから、そいつらから黒い箱を奪えって頼まれた」と必死に言った。ネイトは今度は斬りつけず、「どこで頼まれた?」と言うと、「ザークの南門の近くだ。それで朝から待ち伏せしてたんだ」と答えた。「報酬はいくらだ?」と言うと、「30万イェン…」と言う。俺たちも随分、安く見られたものだ。
ネイトが立ち上がり、「どうしますか。とどめを刺し、埋めてしまうのが手っ取り早いと思います」と本気で言い、野盗たちは青ざめていた。「そうだなぁ…。追っ手は、こいつらだけに限らないから、眠らせて連れて行こう」と言って、【雷走】の魔法を発動すると雷に打たれ、野盗たちは失神した。
「クロートー、手を貸してくれ。こいつらを積み込もう」と言うと、クロートーは「マジで? 4人とも乗せるの? ここに置いていけばいいじゃない」と言うので、「こいつらが捜していたのは3人組だ。幌馬車にこの4人を寝かせておけば、俺たちは7人組になる」と言うと、ネイトが手をポンと打ち、「なるほど。追っ手をかく乱するんですね」と納得した。それでもクロートーは、「この4人と一緒に乗るわけ? チョー嫌なんですけれど」と嫌がった。幌馬車の中で、むさくるしい野盗4人といるのは、地獄だろう。
「じゃあ、御者台に乗るか?」と言うと、とたんにクロートーが喜色満面になり、「そうする! 乗りたかったのよね、御者台に」と喜び、ネイトも「むっ、私もマリシ様の隣に座る」と言い出した。「ネイト先輩はお邪魔よ。ちょっとは空気を読んでよ」と言うクロートーに、ネイトは冷静に「私は仕事で同行している。マリシ様の弟子なら、クロートー殿は野盗の見張りでもしているべきだ」と言うと、「うぐぐぐ!」とクロートーが唸った。言い争いはしばらく続いたが、結局、3人で御者台に乗ることになった。クロートーは気を失っている男たちを軽々と持ち上げ、幌馬車に寝そべらせた。
のんびり30分くらいゴーレム馬を走らせると、荒野にぽつんと大きな街が見えてきたので、「あれがボベッドの町だな」と言うと、左隣のクロートーが、「案外、すんなり着いたじゃない?」と言った。
「すんなりかどうかは、これからわかる。待ち伏せするなら、どこがいいと思う?」と質問すると、「えー、どこだろう?」と答えが返ってきそうにないので、「出発点の近くと終着点の近くだ。ターゲットがどういうコースを取るかわからないから、途中を見張る奴なんていない。追跡されている場合は別だけれどな。運送の仕事を引き受けたら、出発したときと目的地に近づいたときは要注意だ」と教えてやった。「なるほどねぇ」とクロートーは納得した。
心配していたような襲撃はなく、無事に街の南門に到着した。街の周りは、荒野に住む獣対策に木で作られた外壁に覆われ、街に入る門には、衛兵が2人立っていた。この規模の町だというのに、警備はしっかりしているようだ。門のところで馬車を停めると、衛兵に「お前たち、3人か?」と訊かれ、「違います。7人です」と答えた。「7人?」と衛兵が疑うような目を向けたので、「おかしらたちは幌馬車で寝てます。けが人もいるので、起こさないでくださいよ」と言うと、衛兵は幌馬車の中を覗き、4人が寝ているのを確認した。
「けが人がいるのか?」と訊くので、「ええ。害獣駆除専門のハンターです。兄貴がキバジカに突かれました」と答えると衛兵は納得し、「どこから来たんだ?」と言うので、「ケイスの村です」と答えた。衛兵は、「全部で7人、害獣駆除のハンター、ケイスの村から、だな」と、俺の嘘を信じ、帳簿に書き留め、「通っていいぞ!」と言った。
街の道路は馬車がすれ違える程度の幅で、雨が降って道がぬかるまないように石畳になっていた。街の中は歴史がありそうな建物が並び、八百屋、雑貨屋、パン屋など、生活に必要な店が並んでいた。地図を頼りに領主宅に向かい、街に入って15分くらいで領主宅に到着した。屋敷の前でゴーレム馬車から降り、門兵に近寄り、「すみません。依頼されていた品物を届けに来ました」と声をかけると、門兵は胡散臭そうに、俺たちを見た。
「依頼されていた品物? 聞いておらんぞ」と門兵が言う。「運送の依頼があったんです」と言うと、「では、こちらで預かろう」と言うので、「それはできません。領主殿に直接お渡しします」と答えた。「バカを言うな。見ず知らずの者を領主殿に会わすわけがないだろう」とぶっきらぼうに言うので、ネイトが「依頼をキャンセルということであれば、このまま引き取ろう。ただし、ここまで着てのキャンセルだ。報酬30万イェンは請求させてもらう。貴公の権限で決められることかどうか、確認した方が良いのではないか?」と怒気を含んで言うと、門兵は「誰を通すかは俺に任されている。帰れ、帰れ!」と騒ぎ出した。
元々、胡散臭い依頼だったうえに、さっきの野盗のこともある。無理せず、中止したほうが良いだろう。そう考えて、「それじゃあ、帰ります」と言った時、屋敷の方から中年が走ってきた。「お待ちくだされ、お待ちくだされ!」と、50歳くらいの、スーツを着た中年男性が、息を切らしながらやってきた。
「申し訳ございません。アルター卿の執事をしているスンと申します」と挨拶し、「冒険者の方ですね?」と確認してきた。「そうです」と答えると、「お待ちしておりました。門兵が無礼を働き、申し訳ございませんでした。今回のことは門兵にも伝えていなかったので…」と言い、「ご無事に到着なさって良かったです。ご領主は首を長くしてお待ちです。例の品はございますな?」と訊かれ、「もちろんです」と答えると、「では、どうぞ屋敷にお入りください」と言われた。
ゴーレム馬車から降り、スン執事に、「後ろの幌馬車の中に4人の野盗が眠っています。例の品を狙っていたようです。こちらで裁いていただけませんか?」と言うと、「野盗ですと! 例の荷物は無事ですか?」と血相を変えた。よほど大事な物なのか、俺たちより品物が無事かを確認してきた。「大丈夫です。指一本触れさせていません」と答えると、スン執事は安堵の表情を浮かべた。




