第四話 出会い
「綺麗だ…。」
天井の穴からは光の線が池に差し込み、風が通ると水面が揺れ、キラキラと輝く神秘的な光景を見てフィオルは圧倒された。
「明かりを一旦消そう。」
松明を消しても周囲が見える程明るく、微かに外の川の流れる音も聞こえた。
グオォウ!
光翠の広場の入り口に最後であろう1匹のダークウルフ。
仲間が殺されて怒り、涎を垂らし睨みつけてきている。
「僕に…!」
ダークウルフの出現に反応したフィオル。
ダダダッと走り寄り高く飛んだ。
「ふんっ!」
フィオルの素早い動きに反応が出来ないダークウルフ。
頭上から落とされた剣は首を通り抜け地面に叩きつけられる。
「おお…。」
隊員達がフィオルの剣技に圧倒される。
「よし!これで20匹目だな。アヴェニール洞窟はここの広場で行き止まりだ。警戒は解かずにひとまず洞窟の入り口に戻ろうか…。ん?」
「どうしたんですか?」
「あれが見えるか?」
ジールは反対岸に指を差した。
「白い服…。人みたいだ。行こう。」
隊員達は倒れる人物の元へと向かった。
反対岸に倒れている人物を見つけ、駆け寄る隊員達。
「子供だ…。君と同じくらいだな。」
「そう…ですね。」
そこにはフィオルと同じ位の歳の少女が池に脚が入っている状態で倒れていた。
少し緑がかった金色で腰の辺りまでの長髪、白のワンピースを着ていた。
「おい、大丈夫か?皆、この子は村で見た事あるか?」
揺さぶり声を掛けるが反応はなく、隊員達の中には少女を知る者は居なかった。
「息はあるみたいだが、気を失っている様だ…。このままではいかんな。村で保護しよう。近くに調査団の馬小屋があるはずだ。馬を使って帰るとなると大回りになるが仕方ない…。迂回して帰ろう。ん?あれは何だ?」
少女が倒れていた先の池の底に何かを見つけ指を差すジール。
「木?の枝でしょうか…。生物では無さそうですね。」
目を凝らし呟くフィオル。
「枝か…。生物かと思った。この辺りの水辺には動物の血を吸う生物がいるから気をつけねばな…。よし…!行こう。」
そしてジールは少女をおぶり、一行は光翠の広場を後にした。
残った獣達がいないか警戒しながら、再び背を向かい合わせ、ゆっくり進む。
「もうすぐ出口だ。ダークウルフは全て討伐出来たみたいだな。依頼は完了だ。怪我人もいない!皆よくやった!」
先に入り口の光が見えるとジールは大きく声を掛けた。
「よっしゃー!」「早く帰りてぇー。」
ジールの言葉に安心し緊張が解れた隊員達。
無事に依頼をこなし、フィオルも笑顔になる。
そして一行は洞窟の外に出たが、空は曇っていて霧雨が降っていた。
「嫌な天気だな…。」
空を見上げながらジールは呟く。
黒く厚い雲がすぐ近くにあり、こちらに向かってきていた。
「あの黒い雲が来たら土砂降りになりそうだ。氾濫したら終わりだ。帰れなくなる前に馬小屋に急ぐぞ!」
霧雨が降る中、隊員達は下流にある馬小屋へ向かい走り出した。
「フィオル。装備を着用したまま雨の中大変だろうが、頑張って付いてくるんだ。」
「はい…!」
装備を着用すると普段より10kg程重くなる体重。
雨の中で装備を着用しながら走るという機会があまり無いフィオルは必死について行く。
「くそう。強くなってきたな…。」
霧雨だった雨は粒へと変わりだんだん強くなる。
ジールは少女に衝撃をなるべく与えないようにすり足で走る。
黒い雲は次第に迫りさらに大きくなり、遂に空一面を覆うようになった。
一行の後方は豪雨に変わり、白い太い雨の線が勢いよく近づいてくる。
「皆!見えてきたぞ。」
馬小屋が見え加速する隊員達ら全速力で雨から逃げる。
「うぉぉ!」
ここまでの道のりやダークウルフとの戦闘で体力がかなり削られていたが、フィオルも置いていかれないように必死に付いていく。
先頭の隊員が扉に向かって勢いよく飛び、ドーンと言う音と共に扉を突き抜け、次々になだれ込むように入っていく。
豪雨がフィオルを飲み込むかと思ったが間一髪で馬小屋に
入る事が出来た。
突然勢い良く入ってきた隊員達に驚きビクッとなる馬達。
フィオルは仰向けに倒れ隊員達は膝に手を付く。
チラッとジールを見ると息を切らす事もなく少女をおぶったまま立っていた。
(おぶったまま全速力だったはずなのに…。息すら切れていない…。なんて人だ。)
「はぁ…はぁ…はぁ…。」「ギリギリだったな…。」
「この雨の強さ、これから川が増水したら危険だ。休みながら、なるべく早く身支度を済ませて帰ろう。雨の中すまないがよろしく頼むぞ。」
ジールは馬を撫でながら言った。
「「はい…。」」
ダークウルフとの戦闘は慣れている隊員達だが、死と隣り合わせの戦いである為、終わった後はどっと疲れるようだった。
馬小屋からオラディ村への最短ルートは険しい為、馬を乗って来た道を使うことはできない。
「フィオル。雨で大変だけど馬に乗れば少しは身体は楽になる。もう少し頑張ろう。……まだこの少女は起きないみたいだ…。この子の為にも急いで帰ろう。」
「はい。頑張ります。その子…何も問題無ければいいですね。」
少女は息はあるものの未だ起きる気配は無く、眠っているようだった。
息を切らしていた隊員達はだんだんと息を整え、身支度を済ませた者から馬に跨る。
「よし。皆準備は整ったな。行くぞ。」
「「はい!」」
フィオルはファリートという隊員と一頭の馬に乗ることになり、ジールは少女を前に座らせ、落ちないよう紐で自分と少女を繋ぎ、馬に乗った。
馬小屋を出ると先程の豪雨は少し収まっていたが川が増水し、底が見える程透き通っていた川は、渡ることが不可能なほど流れが強い濁流へと姿を変えていた。
隊員達は雨で身体が濡れて体力が奪われるのを軽減する為、馬小屋にあった麻袋を加工してマントのようにして羽織った。
川沿いは崖になっており一列で隊を組み馬小屋を後にした。
ゴォー
轟音を鳴らしながら濁流は勢い良く流れる。
飲み込まれ流されたら死が確実に待っている。
「もうしばらくで橋が掛かってるはずだ!それを渡れば道は広くなる!渡ったら隊を組み直すぞ!」
ジールが先に微かに見える橋を指差す。
「「はい!」」
「しかし強いなーフィオル。初めての依頼でダークウルフを倒してよー。俺のデビュー戦なんて全然ダメでよー。」
ファリートが羨ましそうに笑いながら話しかけてきた。
「いえ…。そんなことないです。」
苦笑いをしながらフィオルは返す。
「しかしジール副隊長は凄い人だろう。俺もいつかあんな風になりてぇなぁ。今は自分で精一杯だよ。」
「本当に凄い人です!隊員一人ひとりを常に見ていて僕の事も凄い気に掛けてくれました。地理も頭に入っていて、隊列の組み方も地形に合わせて的確に指示して隊を動かして…僕もジール副隊長みたいな人間になりたいです!皆さんの連携にも驚きました。ダークウルフとの戦闘では声を掛け合って助け合いながら倒していて…本当に凄い隊ですね!」
「ジール副隊長の日々の訓練のお陰だな。あの人の言う通りに動けば死人…いや怪我すらほぼ無いからなあ!」
フィオルは目を輝かせながら話を聞き、自分も剣撃隊に入る事が出来た喜びを噛み締めていた。
「そういえば隊長はどこに出掛けているんでしょうか?僕、一度も会った事ないんですが…。」
「ああ、アイザム隊長か…。俺もほとんど会わないよ。あの人は一人で行動するからな。」
「え!?それって危険すぎじゃ…。」
衝撃の事実に目を丸くし返す。
「危険だが、あの人はな…強すぎるんだ。俺達剣撃隊員、副隊長も全然敵わない…。隊長は強さを求めてしょっちゅう他の大陸へ行くんだ。今はアンティカル大陸らしいがな。ソウルガーディアンズの総拠点はコール大陸だが各大陸にあるソウルガーディアンズの拠点を行ったり来たりしてるから滅多に会わないさ。」
「…。」
初めて聞いた隊長の話しだが、自分の今の依頼とはかけ離れていて返す言葉が見つからなかった。
「だがな…本当に強いだけだ。隊長ってのは肩書きだけだと俺は思う。今回の依頼…ジール副隊長と行動してみてどう思った?俺はあの人こそ隊長に相応しいと思うんだ。ああいう人の元で一緒に依頼をこなして、ラヴィエルや人々を守って生きてくのが一番幸せだ。隊長は会って声を掛けても素っ気ないし…隊をまとめるのも結局ジール副隊長に任せて突っ走ってくんだぜ?」
「そうなんですか…。」
フィオルは少しショックだった。
話を聞く限りでは間違いなくジールが隊長であるべきだと思ったのだ。
「まぁ今は依頼を達成出来た事を喜ぼうな。」
「そうですね!」
そしてこの時フィオルは隊長になることが目標だったが、誰もが認める強さも兼ね備えたジールの様な存在になるんだと決心したのだった。
話しをしながらしばらく進むと木造の橋に着いた。
濁流と化した川は橋のすぐ真下まで迫ってきている。
「流されてなくて良かった…この橋は脆い。一頭ずつ渡り、渡ったら隊を組み直すぞ。」
洞窟から最寄りのこの橋は古く、崩れる可能性がある為一頭ずつしか渡れない。
次の橋までは半日程進まなければ無い為ここを渡るしかないのである。
一頭ずつ渡り最後はジールの番になった。
「ゆっくり頼むぞ。」
ジールは馬に優しく声を掛けながら撫でた。
馬はそれに応じる様にヒヒィンと鳴き、ゆっくりと橋を進む。
「…イ…ル。」
半分を渡った所で気を失っていた少女は何かを口にし、目がゆっくり開く。
「ん?起きたかな。怖がらなくて大丈夫だ。」
優しくにっこりと笑顔を向け、橋を渡り切るとジールの指示通り、隊を2列に組み直す。
ここから村までは森になっており、一日以上掛かる。
「少女が起きたようだ。この子の話しを聞きたい。ここはまだ氾濫の恐れがある。しばらく進んだ所に広い草地がある。そこで野宿しよう。」
「「はい。」」
「今、混乱されては困ってしまう。皆いい人達だから、怖がらなくて大丈夫さ。野宿の時に話しを聞かせてくれるかな。」
「…。」
何が起こっているのか今の状況が全く分からず、少女は目をパチパチとさせた。
「気を失っていたから落ちない様に紐で括ってしまった。とりあえず解こう。そしたら落ちない様にこの手綱を掴むんだ。」
優しい声で促し少女は何も言わずにジールの指示に従った。
そして再び隊は進み、森へと入っていった。




