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第十五話 剣戟

「もうすぐアイベルが出てくるはずだ。」


エヴァルに荷物を乗せ終え待っていると、施設の扉が開き、クラルとアイベルが出てきた。


「フィオル。アイベルを頼んだぞ?」


「はい!」


アイベルは再びクラルに礼をするとフィオルから差し伸べられた手に向かい、二人を乗せたエヴァルはフィオルの家に向け走り出した。


 

上り坂をかけ上り、階段に差し掛かると二人を降ろし、歩いて家に向かう。

 

「エヴァルありがとう。あなたのおかげで随分楽だったわ。」

 

 

そした家に着くと、アイベルはエヴァルから荷物を降ろし、フィオルは荷物を受け取った。


「エヴァルを一度、厩舎に連れて行ってくれるか?」


「はーい。」


フィオルは荷物を置きに家に入っていく。


「行こうエヴァル…。」


アイベルは手綱を引きエヴァルと厩舎に向かった。


 

「よし。とりあえずここでいいか。」


荷物を部屋に置くとアイベルと新たな生活が始まるという喜びを噛み締め深呼吸する。


すると、玄関が開きアイベルが戻ってきた。


「お邪魔します…。」


「…もうそんな言葉は言う必要無いよ。」


無意識に発したものだったがフィオルの言葉に二人は笑い合う。


「これからお互い支え合って生活していこう。」


「うん!」


「よし。帰ってきてから荷物の整理や家の事を教えるよ。準備をしたら行こうか…。あの場所へ。」


「うん!あ、そうだ。これを付けて…。」


アイベルは荷物の中から、チェーンに吊り下がる宝石のような物を二つ取り出した。


「ペンダント?」


「そう。いつ渡そうかなって、いつかフィオルに渡せるかなって思って。ずっと持ってたんだ。一緒に住むことになれたし今渡すね!」


ペンダントを手渡すとフィオルはそれをまじまじと見た。

 

「あ、ありがとう。この色…。」


チェーンに吊り下がる、角を丸く取った長方形の形をしている宝石。


半分は翠色、もう半分は藍色になっていた。


「翠色はアヴェニール洞窟の光翠の広場の池から取れたヤーデルーチェ鉱石を加工した物で、藍色は…」


「まさか藍色の竜の?」


「そう。よくわかったね。施設で暮らし始めて5年位経った時だったかな?たまたま来たサーチさんに、あの時研究してた藍色の竜の鱗はありますかって聞いてね。あるって言われたから、なんとかお願いして…それで色んな人に当たってくれて加工して作ってくれたの。」


「そうだったのか…。」


ペンダントを持ち、窓の方へ歩くフィオル。


ペンダントを陽光を通すと床には綺麗な翠と藍色の光が映った。


「綺麗だ…。」


「一つはフィオルに…もう一つは私。翡翠って安定とか幸福って意味を持つみたいでね…。いつかフィオルと一緒に暮らせたら良いなってその時から思ってたのかも。」


「ホントに待たせてしまったね。ごめんな。」


お互い成長するまで忙しかった毎日…。


フィオルは心のどこかでアイベルを思う時はあったが言い出せずに来てしまった事を悔やむ。


「でも、叶ったよ…。少し時間は経ちすぎたかもだけど、そんな事もう気にならないくらい昨日から幸せよ?」


「必ずこの愛を生涯を通して君に届け続けるよ。」


「うん…!」


これからは声に出し愛を伝えると誓ったフィオル。


 

そして、ペンダントを首に掛け、準備を整えた二人は家を出る。


「あ、ごめん。忘れ物しちゃった。」


そう言うとアイベルは一度家に戻り、麻で作られた袋を肩に掛け出てきた。


「準備はいいかな?」


「うん!」


「ラヴィエルは最後に寄ろうか。ジール副隊長と皆に色々報告しなきゃな。」


「そうね!」


「じゃあ行こうか!」


そして、二人はエヴァルと共に家を出発した。


あの日からフィオルはこの世界の地理、生物の生息地、歴史を猛勉強し、今では危険とされるペールデニーズに食料調達へ訪れる程にもなった。


フィオルは剣撃隊の隊長になって初めてあの地へ訪れる。


「隊長になって初めてだもんね。緊張する?」


「そうだな…。隊長としてちゃんと役割を果たせてるかな…?」


少し俯きながら出た言葉。

 

「誰が見ても、フィオルは立派な剣撃隊の隊長よ?」

 

(隊長になってあれから強くなれただろうか…。あの時は全く歯が立たなかったな…。)


フィオルは自分の掌を見ながら心の中で思う。



――フィオルとアイベルが療養施設から出て三日後。


陽が山に隠れそうになり西陽が強く辺りを照らす。

 

ブルクの手紙によりジールの死を知った前隊長であったアイザムは、この時一度オラディ村に戻っていた。

 

 

フィオルは依頼をこなせる程回復し、この日は依頼を終え、村へ繋がる林道を村に向かい歩いて帰っていた。


すると村の方から話し声が聞こえる。


遠目で見ると村の入口の門でガルディン、スターキイ、そして、もう一人の顔は見えないが口論している様子が見えた。


「アイザム!待て!」「この後どうすれば良いのだ…!」


(アイザム…?あれが隊長か…!ブルク長老の手紙を読んで帰ってきたのか。今後の剣撃隊の事も聞きたい。会ってみよう…!)


フィオルは駆け出そうとしたが三人の空気が重くなった感じがし、歩みを遅める。

 

「知らん…。お前達でどうにかしてくれ。人はいつか必ず死ぬ……」


"死"という言葉からジールの話をしていると感じ、近づくのを一旦止め、木陰に隠れて話を聞くことにした。


「隊が弱いから死んだのだ。弱い隊員の事を考えながら戦い、死んだ。あいつ一人なら逃げる事も出来たはずだ…。守るなんて変な考えを起こすからそうなるんだ。仲良しごっこ…死なないように庇いながら戦う?そんな事しながら戦った所でこの世に生きる竜種や自然には勝てないのだ。」


(ジール副隊長がやっていた事が仲良しごっこ…?何を言っているんだあの人は…!)


フィオルは怒りに歯をギリギリと噛み、今にも木陰から飛び出しそうになる。


ガルディンとスターキイを見ると拳を握り、その拳が怒りに震えているのが分かる。


「お前達も庇いながら戦うなんて考えないことだな。いつか死ぬ命を早く失う。ジールの様な無駄死にに…」

 

無駄死にという言葉に遂にフィオルの怒りは最大になり木陰を飛び出し走って三人の元へ駆け出した。


涙を目に溜め駆け出すその手にはジールの剣が握られていた。


「貴様ーッ!!」


三人は猛スピードで近づいてきていたフィオルの存在に気付くのが遅れる。


フィオルは後ろを向くアイザムの首目掛けて剣を振り下ろした。


ガキィィン


火花が散り、剣と剣がぶつかる音が辺りに響いた。

 

とてつもない剣速で振り下ろした攻撃だったが、アイザムの首元ギリギリで防がれる。


「なんだ…?このガキィ…!」


アイザムは攻撃を受け流した勢いでフィオルに回し蹴りを放った。


走ってきた林道の方まで吹っ飛ぶフィオル。


直ぐに立ち上がるが、受けた蹴りで頬が切れてしまい流血してしまう。


ガルディンとスターキイはこの一瞬の出来事に何が起きたか分からず立ち尽くしていた。


「「フィオル!!」」


だが直ぐに奇襲した者がフィオルだと気付き声を上げる。

 

「ん?こいつが…?」


フィオルはキッとアイザムを睨む。


アイザムはフィオルという名前を聞き、ニヤッと笑った。


「お前がフィオル……」


「黙れぇぇ!ジール副隊長達が無駄死にだと…?」


アイザムの言葉を制すフィオル。


「ああ、そうだ。こんなお前みたいな弱い奴を守るなんて考えなきゃ良かったんだ。弱いお前と副隊長のジール。どっちに価値がある?無駄死にだろ。」


アイザムは両手を広げながら吐き捨てるようにフィオルに言い放つ。


(確かに俺は弱い…!だけど、俺とアイベルを命を懸けて守ったんだ!無駄死になんて…)


そして、再び言い放たれた無駄死にという言葉にフィオルの眉はピクっと動き、殺気を纏った眼に変わり、再び剣を強く握った。


「何だ?やるのか?来いッ!!」


貶す様な表情で話していたアイザムだったが殺気を放ち、瞳孔がグワッと開いた。


二人の殺気を肌で強く感じるスターキイとガルディンは一歩たりともその場から動けなかった。


少しの間、陽が山に隠れ始めたと同時にフィオルはアイザムに飛び掛ろうと地面を力強く蹴った。


アイザムは剣を両手で握りフィオルに迎撃の体勢を取る。


((どちらかが死ぬ…!))


ガルディンとスターキイはそう感じるが二人の気迫に尚も動けずに立ち尽くす。


 

「止めんかぁぁ!!」


杖を地面にドンと突き、突然大きな声が響き渡る。


その声にフィオルの動きが止まり、アイザムは剣を握る手の力を緩めた。


「ちっ。」


舌打ちをし、アイザムは剣を納める。


「止めだ止めだ。せっかく良い眼になってたのによ…。邪魔が入っちゃ仕方ねぇ。常にその眼で剣を握れ…。お前は期待外れだ…。」


肩を落としながら言うと村の門を潜りフィオルに近づいていく。


「もっと強くなったら邪魔が入らない所で戦ってやる。じゃあな。」

 

動かずに剣を握ったままのフィオルにすれ違いざま吐き捨てる。


「アイザム!」


ブルクが村を離れていくアイザムに声を掛けるが歩みを止めずに森へと入って行く。


「じいさん。俺は隊を抜ける。そこの二人の隊長達と話してなんとかしてくれ。」


(隊を抜ける…?聞き間違いか?)


フィオルは衝撃的な発言に、遠くなっていくアイザムを目で追う事しか出来なかった。


そしてアイザムは後ろ向きで手を挙げそのまま森の奥へと消えていった。


「「フィオル!」」


駆け寄ってくる隊長達。


「大丈夫か!?ダメだ…。血が止まら――」


(目眩が…する。目の前がボヤけていく…力が…入らな――)


「待て…。」


(俺が絶対隊長に…なってみせる…。あんたを見返してみせる…。)


消えていったアイザムに手を伸ばすが、出血が止まらず、また蹴りによる脳震盪でその場に倒れてしまった。


そして、隊長達に担がれ療養施設に運ばれたのだった。


――現在


「フィオル?どうしたの?」


「ん?ああ、考え事だ。頬に大ケガをしたの覚えているかい?」


真っ直ぐ前を見ながら頬の傷痕を触りながら言う。


「もちろん!突然血だらけで運ばれてきたんだもん。まだ心願をいつでも使える様になってなかったから大変だった。クラルさんと必死になって治療したなあ。そういえば、その後隊長はどこに行っちゃったの?」


「ふふっ。あの時は悪かったな…。」


頭を掻き笑いながら話す。


「ああ、アイザム隊長は亡くなったって聞いたよ。」


「え…?」


既に剣技の才を認められていたフィオルと対峙し、一太刀も浴びずにフィオルを退けたアイザム。


その強さはまさに最強と言えた。

 

だが、そんな人間が亡くなったという衝撃的な事実にアイベルは固まった。

 

固まるアイベルとは裏腹にエヴァルの歩みは進み、村の門を潜り森へと入っていった。

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