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第十四話 感謝の心

演説が行われた広場にはブルクが留まり、人々が日常に戻るのを見送っていた。


フィオルとアイベルはブルクの元に向かう。


「ブルク長老、おはようございます。」


「おお、アイベル。おはよう。二人一緒とは久しく見る…珍しいのう。」


挨拶を交わすとブルクは笑顔を送る。


「長老。あのお話が。」


「何じゃ?」


フィオルが話し始めるとクラルもやってきた。


「あ、クラルさん。丁度良かった。」


二人は今回の話しを受けて一緒に暮らす事を二人に話した。


「良い事じゃないか。心から愛し、守るべき者がいればお互い安心じゃろう。」


フィオルとアイベルは顔を合わせ喜ぶ。


「施設からフィオルの家もそう遠くない…。問題ないじゃろう。じゃが、施設が少し寂しくなるのう…。アイベル、喧嘩した時はいつでも戻ってきて良いからの?」


クラルはニヤッとしながら冗談交じりにアイベルに向かって笑顔を向ける。


「はい!ありがとうございました。お世話になりました。この後、自分の荷物を取りに行きますね。それと…」


「今日から引越し等で忙しくなると思い最低限の事はしますが、お互い少しの間休もうかと…。」


アイベルの代わりにフィオルが伝える。


「新たな生活は最初が肝心じゃな?」「うむ、ブルク長老の言う通りじゃ。」


二人は笑顔で承諾してくれた。


「ではワシらはまた会議に行くからの。新しい生活を満喫するんじゃぞ。」


二人は深々と礼をし感謝の言葉の言うとその場を後にする。



「俺は剣撃隊の所に行って皆のスケジュールを確認して来るよ。家に戻ってエヴァルと施設に向かってくれるか?エヴァルにも手伝って貰おう。」


「うん、わかった。」


そして、二人は一度別れ、フィオルは剣撃隊が集まる場所へ駆け足で向かった。



剣撃隊が集まる家屋に着き、中に入ると既に隊員達がフィオルを待っていた。


隊員達の年齢は様々で15歳から50代が所属している。


数はフィオルを含めると30人程で構成されていて、フィオルよりも所属歴が長い者も多くいる。

 

「隊長おはようございます。」「フィオル、おはよう。」


隊員達からの挨拶を受け、フィオルは話を始めた。


「皆さんおはようございます。今朝はお疲れ様でした。演説でも話があった通り、恐らく訪れるであろう脅威に私達は全力を尽くさなければいけません。もちろん、他の隊と協力してです。まだ日程は決まっていませんが、ソウルガーディアンズの今後についての会議を開くそうです。」

 

隊員達一人ひとりの顔を見渡し話すフィオル。


隊員達は頷き、真剣に話を聞く。


「本日もいつも通り依頼も含め、個々に与えられている依頼、訓練、巡回を気をつけて行って下さい。」

 

「はい!」「了解だ。」


話しが終わるとフィオルは隊員達それぞれのスケジュールを確認する。


「それと最後に…申し訳ないのですが少しの間ですが僕は休ませて頂きます…。」


「どうしたんだ?」


一人の隊員が返すとエディウスが前に出てきた。


「隊長は……今日からアイベルさんと一緒に暮らす事になって……」


「何ー!?」「えー!!」


エディウスの話しをかき消す大きな声。


その声は隊員達が集まる家屋の外まで響いた。


「皆のアイベルちゃんが……。」「嘘だ嘘だ…。」


肩を落とし、現実を受け止められないと、隊員達の表情は一気に暗くなり、フィオルは隊員達からの冷たい視線を感じた。


この瞬間、エディウスの言った通り隊員達は、フィオルを剣撃隊の長ではなく敵としてみなす。

  

隊員達に優しく接し、笑顔を振り撒き、傷を癒し続けてきたアイベル。


隊員達にとってはアイドルの様な存在だったのだ。


無言の冷たい視線の攻撃にフィオルは震える。


「う…、痛い……。」


その視線はビリビリと身体を攻撃し、隊員達に囲まれるフィオルは顔を上げれなかった。


「おい、お前達。」


すると最年長者のベテランである、アルドが声を上げる。


「フィオルには守るべき者が見つかったんだ。恐らく演説での話しがきっかけ……じゃないか?」


「まぁ、そうですね…。」


それでも尚も続く無言の攻撃。

 

フィオルの人生の倍以上生きているアルドにはフィオルの心境が何となくだが分かっていた。


「お前達も知っているだろう。演説でもあった話しを…。当時、俺の同僚だったジールの率いる剣撃隊を倒した竜と戦い、二人で生きて村に帰還した。俺達には想像もできない程の深い絆が二人にはあるんだ…。」

 

厳つく気迫があるアルドの言葉に隊員達は黙り込む。


「それにフィオルはこの隊の隊長だ。色々抱えてる…。俺達以上にな。俺やお前達が隊長なら重圧に押し潰されているだろう。」


「アルドさん…。ありがとうございます。」


フィオルはアルドの言葉に心から感謝した。


「そうだ。隊長には少しだけでも気を緩めて休んで貰いたいんだ。」


エディウスが続けて隊員達に声を掛ける。


「そうだな。お前は気を張りすぎだ。俺にだって分かる。隊員一人ひとりのスケジュール管理、他の隊長達とのミーティング、個人の訓練、依頼。そして、村人や弱い立場の人を守るという使命を常に心に留めている…。俺にはそんなことできない。俺達フィオルの下に付く者は隊長へ感謝の心を忘れてはならないのだ。」


続けてアルドの言った言葉に、フィオルへ向けられた冷たい視線による攻撃は次第に、フィオルに感謝をするという暖かい物に変わっていった。


「今日から一緒に暮らすって事はこれから引越しか?」


「その予定です。」

 

「じゃあ、この集まりが終わったら俺達隊員はいつも通り、自分に与えられた仕事を全力でこなそう!」


「「はい!」」


アルドの声掛けに大きく返事をした隊員達。


 

フィオルは最後に、緊急があった際には伝書鳥を使うよう隊員達に指示をした。

 

そしてそれぞれの仕事を再確認し、身支度を済ませる隊員達。


一番最初に準備を済ませたアルドは、依頼に向かおうと扉の前に立った。

 

「よーし!依頼の途中で花を見つけたらアイベルちゃんに持って行ってあげよー!」


一瞬固まる隊員達。


「アルドさんが一番悔しがってるじゃないですか…!」


その言葉にフィオル含む隊員達は大爆笑したのだった。


「では皆さん、よろしくお願いします。」


フィオルが笑いながら家屋の扉を開けると、家屋の前にはエヴァルに乗ったアイベルがキョトンとした顔をして待っていた。


「遅いなーって思って来ちゃった。それより、何の騒ぎ?すっごい大きな笑い声が外まで漏れてるよ?」


「おー、アイベル…!何でもないさ。急いで行こう。」


フィオルはアイベルを急かすが隊員達がドドドッと流れ出てきた。


地面に倒れ込みながらもアイベルを見つめる隊員達。


「何…でしょうか?」


隊員達からの強い視線に固まり困惑するアイベル。


「困った顔も可愛いなあ。」


アルドがニンマリして言うと他の隊員も同じ顔を並べた。

 

「感動したと思ったらこれかっ!変態オヤジっ!」


すかさずフィオルはアルドに手刀をする。


そのままの顔で手刀を受けたが、アルドは真剣な表情に変わった。


「幸せにな。隊長を頼んだよ。」


そして優しい顔になりそう告げる。


「ほら行った行った!」


そして、手でシッシッと払われるとフィオルはアイベルの後ろに乗った。


「さあ行こう。エヴァル!」


手綱を握り脚で合図をするとエヴァルは走り出す。


「あの状況……大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫さ。俺の自慢の隊員達だからな。」


ニヤッと笑いながらフィオルは言う。

 

後ろを振り返ると隊員達は手を振っていた。


「こっちは任せとけー!」「隊長ー!ゆっくり休んで下さいねー!」


その中でもエディウスは人一倍大きく手を振っていた。


フィオルはその光景を見て空を見る。

 

(ジール副隊長!皆さん!見てますか?今の剣撃隊は俺を信じてくれています。皆バカみたいな事もするけど、とっても暖かいんです!後でアイベルとエヴァルと会いに行きます。待っててください!)




それからエヴァルは快速を飛ばし、二人はあっという間に療養施設に着いた。


中に入ると朝方依頼から村に帰還し、傷を負った隊員達や村人が何人かおり、診察や治療を受けるのを待っており、

クラルは村人の診察をしている所だった。

 

「アイベルちゃんおはよう。」「この傷を頼む。」


村人からは挨拶、隊員達からは傷を癒して欲しいと言われるとアイベルはすぐに治療の準備を始めた。


「クラルさんはもう一人の方をお願いします。隊員さん達は私が診ますので。フィオル。私の荷物が奥の部屋にまとまってるから持って行っておいてくれる?」


フィオルは頷くと奥の部屋からアイベルの荷物を外に持って行く。


クラルは一人目の村人の診察を終え、次の診察に進む。


「こちらへ寝そべって貰えるかの…。」


アイベルは隊員達をまとめ、心願を行った。



外に出たフィオルは荷物をエヴァルに乗せ、待っていた。


しばらくすると施設の中から白い光が一瞬溢れると感謝の言葉が聞こえた。



「治りましたか?一度動きを確かめて貰えますか?」


優しく隊員に問いかけ、治った様子の隊員達を見て笑顔を送った。


「また何かあったらよろしくね。」「ありがとう。」


隊員達は治療費をクラルに渡すと外に出ていった。


 

「クラルさんいつもありがとう。」

 

クラルから診察を受けていた村人も続いて出ていく。


そして、施設にはクラルとアイベルの二人だけになった。


静かな部屋にカチャンカチャンと器具を片付ける音が響く。


アイベルは器具を片付けているクラルに話し掛けた。

 

「クラルさん…。ここの施設では生活出来るスペースを提供して下さりありがとうございました。私が生活出来たのはこの施設と、施設で会う患者の人達…そして、クラルさんのおかげです…。今日これから少しの間休んだらまた毎日通いますので、よろしくお願いします。お世話になりました。」


深々とお辞儀をし少し涙ぐんでいる様子のアイベル。


クラルはそんな顔を見て微笑み、口を開いた。


「何を泣いておるのじゃ。顔をあげてごらん。…想い入れのあるこの施設での生活…。この施設ではただただ生きる為だけの生活じゃったが、これからは幸せになる為の生活になる。あの日から君は素晴らしい女性になった。村には欠かせぬほどのな。ワシは心から君に感謝しておる…。新しい生活で幸せになるんじゃぞ?」


「はい…。」


涙ぐんでいた目からは涙が溢れる。


「これからは自分で飯を作らねばならなくなるのう…。たまにはワシにも作って持ってきておくれ。」


「はい…!わかりました…!」


施設での生活はクラルとの生活でもあったアイベル。


初めは器具の名前から覚え、次に村人の名前を覚え…何もかもが初めての経験で、混乱するアイベルに寄り添い治療の仕方、薬物の扱い方を教え続けてきたクラル。


「行ってきなさい…。」


アイベルを笑顔で送ると、泣き顔は笑顔に変わりクラルとの施設での生活は終わったのだった。

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