第十三話 大演説
再びエディウスを見送り、戯れるアイベルとエヴァル。
「傷で無くなってた部分も綺麗に生え変わって、良くなったね…。」
エヴァルを撫でながらアイベルは呟いた。
エヴァルは、フィオルとアイベルを乗せ村に帰還している途中に、フィオルが受け切れなかった獣達の攻撃をアイベルから守り、傷を多く負った。
二人の回復を待ち、フィオルが歩けるまで回復し外に出て再会すると、抱き合いながら皆で泣き、その時に傷ついていた身体はアイベルの心願によって癒やされた。
茶色い体毛のエヴァルだが、癒された箇所は元々茶色だった毛とは違い、白い毛に生え変わり、月光に当たるその毛並みは輝きを放っていた。
「明日から一緒なんて……ホント幸せ!」
「そうだな。明日は三人で行こうな。」
「やったぁ!」
アイベルはエヴァルに飛び付き、ハグをした。
それから小さな厩舎に移動し、エヴァルに餌を与えると家に戻った。
家に入ると先に戻っていたアイベルは、玄関で立ち止まり、先程の笑顔は消え不安げな表情を浮かべていた。
「フィオル…。」
小さな声で名を呼び、アイベルはフィオルに顔を向ける。
「どうしたんだ?」
「私…やっぱり怖い…。」
エヴァルやエディウスの前では顔に出さず話しを聞いていたアイベルだったが、二人きりになった途端、恐怖が押し寄せてきたかの様に声を震わせた。
「顔には出てなかったけど分かってたさ。大丈夫。何があっても君から離れないし、その時が来ても必ずこの家に戻る。」
アイベルの肩に手を置き、目をしっかりと見つめ言う。
「うん…。」
「明日は忙しくなる…。今日は早く寝よう。」
そして、肩に置いてあった手を頭に持っていき、そっと置いた。
それから二人は寝に入る準備を済ませるとベッドに入った。
天井を見つめる二人。
「今日はよく眠れるかな?」
「うん…。」
小さく返事をするアイベルは、天井から目線をフィオルに向けた。
「次は私が守るって言ったの覚えてる?私もあの時よりは役に立てるから…。頼ってね?あの時、気を失ってフィオルとエヴァルに助けてもらったんだから…。」
「ああ、もちろんだ。」
お互いを守り合うと誓い、手を握り合いしばらくすると二人は眠りについたのだった。
朝になると二人が寝ている部屋に光が差し込み、家畜の動物達が鳴き声をあげる。
厩舎からエヴァルが出てきて居間の窓ガラスをトントンと優しく叩いた。
「ん…。」
居間から聞こえる音にアイベルが目を覚ます。
「あれ…フィオル?」
隣に寝ていたはずのフィオルの姿は無く、アイベルはガバッと布団を剥いで起き上がった。
急いで居間に行き部屋中を探すがフィオルの姿は無い。
「何で…?エヴァル、フィオルを知らない?」
ガラスの窓越しにエヴァルはヒヒィンと返したが理解出来ず不安になるアイベル。
慌ててうろうろしているとテーブルに置き手紙があった。
『トレーニングをしてきます……』
ハァと肩を撫で下ろし溜息を漏らすアイベル。
するとそーっと玄関が開き汗を流すフィオルが現れた。
「ただい…」
「もう!居なくてびっくりしたじゃない!起こしてくれもいいのに!」
居間の真ん中で叫ぶアイベルにフィオルの表情は固まり後退る。
「ごめん…!」
「今日は休むって言ったから…居なくて怖かった…。」
「ごめーん!」
急いで駆け寄り謝るフィオル。
アイベルはそれからしばらく口をあまり聞いてくれなかったのだった。
機嫌を何とか取り戻し、朝食を済ませ、庭の野菜、家畜の世話をし家を出た。
外に出ると陽の光が気持ちよく、厩舎の方からエヴァルが駆け寄ってくる。
「また後でな。」
二人はエヴァルを撫でると村人達が集まる広場に向かった。
雲ひとつない空から光を受けゆっくりと階段を降りる。
伸びをしながら歩くアイベルは、昨日の足取りとは裏腹に息を切らすことも無く歩いていた。
さらに道を下り中央通りに出ると、いくつもあった水溜りは乾き、心地良い風が通り抜ける。
既にオラディ村の一日は始まっていた。
ブルクの話しを聞く前に中央通りには露店の準備を進める村人達の姿があった。
「おはようございますー。あらアイベルちゃん。フィオル君、おはよう。」
「「おはようございます。」」
準備をする村人達と挨拶を交わすと広場に向かう村人達も多くいた。
今回のブルクによる話しは緊急の物で、その便りは村人の家一軒一軒の扉に夜中のうちに貼られた。
「緊急とは何事だろう。」「何じゃろうな。」
歩く人々は疑問に思いながら広場へ向かう。
その広場は村の中心にあり、祝い事や祭りの際には多くの人々が集まる。
「おはようございます。隊長。」「おはよう。フィオル。」
進むに連れてソウルガーディアンズの隊員達も増えてくる。
「皆どんな反応をするだろう。」
「想像も出来ない事だからびっくりしちゃうんじゃないかな…。」
小さな子供と手を繋ぐ親子、ゆっくりと同じスピードで並んで歩く老夫婦、露店の準備に取り掛かる人々。
周りの人々を見ると平和な日々を送る幸せそうな顔がたくさんあった。
(この人達を必ず脅威から守るんだ…。)
村人達を横目にフィオルは心の中で強く誓う。
「まぁブルク長老の事だから、真実は間違いなく伝えるはず…。でも…皆を怖がらせる様な言い方はしないと思うよ。」
「そうね…。」
そんな会話をしながら歩いていると大きな人集りがあり駆け足で二人は向かった。
広場に着くと中央のステージには既にブルクが立っており、その左右には守備隊長のデュール、弓撃隊長のノワルヴェールの姿もあった。
ブルクは辺りを見回し、フィオルと目が合うと手招きをする。
「アイベル。君はここで待っていてくれ。」
「うん。」
フィオルはブルク、そして隊長達がいるステージに上がった。
「さて、集まったかのう。では…皆おはよう。」
挨拶から始まり、静まり返るのを見るとブルクの話しが始まった。
集まった人々は私語をせず静かに真剣な表情で話しを聞く。
そして、真の脅威が伝えられると村人、そしてノワルヴェールの顔は青ざめ始めた。
「その脅威は間違いなく訪れるじゃろう…。」
ピタリと話しを切ると、話しを聞いていた親の、青ざめた顔を見た子供が泣き始め広場に響き渡る。
周りの大人達は子供をあやし、泣き止むと沈黙が訪れた。
風が止み、音は無くなり静寂になる広場。
すると、ダンッと杖を床に突き、大きく息を吸うブルク。
そして、陽の光が広場に集まる者達を照らし出す。
「じゃが!ここにおるソウルガーディアンズの隊長達…。隊を広く見渡し、後ろから支援し指揮するノワルヴェール。隊の盾となり硬い守りを誇るデュール。そして、ソウルガーディアンズ最大の攻撃力を有するフィオル。彼らは歴代にない強さを持ち脅威に立ち向かう!」
沈黙を破った芯のある声が響き渡る。
観衆を一周見渡しフィオルはアイベルを見つめた。
「歴代最高の戦力が今ここにある。皆で協力し合い、今と同じ幸せな平和な日々を守ろう……ソウルガーディアンズは来たる日に備え、我々は彼らを信じ!そして、支えるのじゃ!今ある命を、絶やす事なく未来へと繋げて行こうぞ!!」
杖を持つ腕を高く揚げ、小さな身体から放たれる力強い演説に村人は圧倒され、声を上げた。
それはステージに立つ三人の隊長も同じで、ブルクの言葉は三人の心を奮い立たせた。
先程まで青ざめていたノワルヴェールは立ち向かう事を決心した勇ましい顔つきに変わる。
ブルクの横に並ぶ三人は隊長である事を誇り、堂々と胸を張った。
するとノワルヴェールが一歩前に出て口を開いた。
「脅威との戦い…それは死と隣り合わせの命の取り合い…。隊員達の中には、もちろん愛する家族を持つ者も多くいる…。過去には竜種や獣達との戦いの末、愛する家族をこの世に残し、命を落とした者もいる。10年前の今日、私の父がそうだった…。」
『ノワルヴェール!次の遠征、お前が指揮を執ると決まったみたいだなぁ!父親として誇りに思う…!お前の活躍を楽しみにしているぞ!じゃあ、またな。依頼から戻ったらまた話そう…。』
父親ジールとの最後の会話を思い出し胸に手を当てた。
奮い立った心を落ち着かせ、静まり返る広場。
ノワルヴェールは深呼吸し続けた。
「死を迎える間際、その者達がどの様な事を感じ、考え、そして残された愛する人達に何を願ったか…皆一度目を閉じて考えて欲しい。」
その言葉に、広場に集まる人々は皆、目を閉じた。
静寂な会場からはしばらくするとシクシクと啜り泣く音が響き渡る。
目を閉じ歯を食いしばるノワルヴェール。
目を開けると再び口を開いた。
「後悔、謝罪、そして愛する者へ愛の言葉…。様々な想いや言葉が駆け巡ったであろう…。」
フィオルとアイベルは静かに涙を流し胸に手を当てていた。
「私はあの死を無駄にしない…!あの時、あの者達が繋いだ命は今!ここにソウルガーディアンズ剣撃隊長として大きく育ち、人々の日常を守り続けている!そして、私は指揮を執る者として、隊員達を決して死なせはしない…!!真の脅威に屈すること無く戦い続ける…!それが私の使命だ!!」
轟く魂の叫びは村中に響き渡った。
その気迫に集まった者達からは大きな歓声が上がると、ノワルヴェールは拳を空に向かい突き上げる。
「フィオル、デュール。共に頑張ろう……!」
二人に向かって言うとそれぞれにハグをした。
「それぞれの隊が落ち着いたら早速、ソウルガーディアンズで会議を開催し、今後について話し合おう。」
「了解だ。」「わかりました。」
歓声が鳴り止み各隊長はステージを降りる。
「クラル含む他の年長者には、後でまた詳しく話しをする…。ワシの家に来て貰えるかの。」
そう言いブルクもステージを降りた。
フィオルはアイベルの元に戻ると手を差し伸べる。
「ブルク長老の所に話をしに行こう。」
「うん!」
この大演説は村の情報屋、商人によって記録され、すぐに各大陸にあるソウルガーディアンズの支部に渡っていった。
そして、緊急で行われた演説が終わると村人や隊員達は日常に戻って行ったのだった。




