第1章ー2 世界は残酷だ
信じたくない気持ちで、村へと向かう。あの惨劇は見間違えで、またいつもの様に楽しく、幸せな生活が送れる。ありもしないことを期待しながら、村へと戻る。
「これは…」
校長先生であるエペさんは村を見て、驚いた。それもそうだろう。村は瓦礫や燃え尽きた建物などで足の踏み場がなかったからだ。
「最後の大爆発は村ごと消し去るほどの威力でした…」
僕が逃げて、村を出た瞬間に襲ったあの大爆発で、村はこの様になってしまったのだろう。それよりも、僕が1番心配なのは、先生である。先生は僕の為にティフォーネに立ち向かったのだから。
「沢山の人が死んでる様だが、誰が誰だか分からないな」
歩く度、人が倒れているが、大爆発のせいでどんな人だったのかが分からないほど焦げてしまっていた。
周りを探しに探したが、先生が生きているのか、死んでしまっているかも分からない。
「あんな大爆発があったのに…僕はまだ先生が生きてるって信じてる…受け入れないとなのにね」
涙が溢れ出す。本当は認めないといけないだろう。生きているのなら、きっと先生はまた僕に会いに来ただろう。話に来ただろう。しかし、先生は来ないし、いなかった。全ての人は焦げて、先生の死体も確認できないなんてこれ程悲しくて、辛いことはない。
「この世界は残酷じゃ。起こったことは受け入れないといけない」
「先生は始めて僕におつかいを頼んだんです。いつも先生がおつかいには行ってたから…嬉しかった…頼られてると思って嬉しかった」
あの日おつかいに行っていなければ、僕は死んでいたかもしれない。
「許せない!!絶対僕が!!僕が倒してみせる!!」
「わしもこの光景を見て改めて決めた。アレン!お前を強くする!!修行は厳しいぞ!!ついてこれるか?」
「はい!必ずついて行って見せます!!」
用ももう無いので、山の小屋へと戻ろうとする。しかし戻ろうとする時、何かが空を飛んでいる。それは巨大なハエだった。いいやハエの姿をした人間だった。
「おいおい!!生き残りがいるじゃねぇか!!」
「ティフォーネじゃ…アレン下がれ」
エペさんは僕を守る。エペさんの力がどのくらいなのかは分からないが、安心感があった。
「アレンに今から教えることを実践してやろう」
そう言って、エペさんは近くにあった木の棒を取る。そんなもので戦うというのか。
「ハエだからって舐めんじゃねぇ!!そんな木の棒はおもちゃよりも使えねぇー!!」
ハエ男はエペさんへと飛んでいく。ハエ男は腕が何本もあり、全て鋭く尖っていた。その鋭い腕でエペさんに襲いかかる。
エペさんは木の棒を振り、ハエ男とすれ違う。そんな木の棒で戦えるわけがない。そう思っていた。しかしハエ男が振った腕は綺麗さっぱり斬れていた。
「これがスパーダ術。あらゆるものを剣に変えることが出来る術」
ハエ男の腕から血が吹き出す。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!痛えぇぇぇぇ!!腕がァァァァ!!」
羽をバタバタさせて飛ぶ。
「凄い…」
エペさんの強さに驚いた。この術を必ず自分のものとしてみせると思った。
「まだこんなものでは無いわ」
エペさんは地面に落ちている小石を掴み、力を込める。何をしているのかさっぱり分からない。
「ふざけるなァァァ!!」
ハエ男は凄い怒り顔でエペさんに襲いかかる。
「いけ!!」
エペさんは持っていた小石をハエ男へと投げた。その小石がハエ男へと当たると、残りの腕も綺麗に斬れた。
「ぐあああああああああああ!!!」
ハエ男はじたばたして飛び回る。物凄い痛そうにしている。というか痛いのだろう。
「小さい物から大きいものまで、刀の思念(力ソード)を宿せば剣と同じになる」
「凄い…」
「また1つ上のステージに登ると、カソードを自分の身体へ宿す事も出来る」
ハエ男がまたフラフラとしながら飛ぶ。
「許せねぇ!!許せねぇ!!お前を木っ端微塵にしてやるぅぅぅぅ!!」
ハエ男は物凄いスピードでエペさんへと向かう。エペさんは飛んでくるハエ男の丁度腹の所へとパンチを喰らわせる。しかし距離は遠いところからだ。パンチは腹へと届かない。
「最後の最後で馬鹿だったなぁあ!!」
「それはどうかな」
拳とハエ男には距離があったが、ハエ男の腹は綺麗に丸型にくり抜かれた。いやくり抜かれたの言うよりは切り取られた様に見える。いいやそれだけではない。ハエ男の後ろを見ると、地面が抉り取られている様に切れていた。そしてハエ男は倒れる。
「凄い…なんだ今の」
信じられない。物理で攻撃したら、剣術に変化したのだ。ありえない。
「この様に体にカソードを宿すと、斬撃も飛ばせる。これを今からお前に教える」
「わかりました!!お願いします!!」
そうして、山へと帰って行った。
修行期間は10年だった。早くあいつらを倒したいという気持ちがあったが、10年は絶対に必要らしい。
「ではお前の修行内容を説明する。まぁじゃが、初めの1年だけの説明じゃ」
「分かりました!!」
「まず、1日で、下から山のてっぺんまでダッシュで往復5000回。腕立て伏せ1万回、腹筋1万回、スクワット1万回。拳の素振り1万回。」
すごい内容だ。出来るはずがない。ふざけている。
「い、いや出来るはずが…」
「出来なくても良い、でも1日でこれだけやる気でやるんだ。まずは1年間これを毎日続けて貰う」
納得は出来ないが、するしかないだろう。
「分かりました」
「それと、お前にはこれを着て修行をしてもらう」
そう言って渡されたのは修行の服と重りだ。重りを背負いながら、毎日地獄の特訓をするみたいだ。
「では明日から行う。今日はよく寝るように」
そうして今日の会話は終わった。もう、早く寝ようと即座に思った。明日から地獄の特訓が始まるのだから。
*
修行1日目。
「気合いが入ってるな」
「はい!!頑張ります!!」
気合いが入っていた。しかし簡単にその気合いは崩れ落ちる。
まずは下から山のてっぺんまでダッシュで往復5000回だ。100回を超えた辺りからもう記憶が無い。山から転げ落ちたり、つまづいて転んだり、身体中怪我した。今日1日は1個目の修行内容で終わってしまった。
修行2日目。朝起きて、体が動かない。全身の筋肉がおかしい。しかし、ここで休む訳にはいかない。また山往復で終わった。
日は流れ、修行60日目。
やっと、1日掛けて、山の往復5000回を達成することができた。
「はぁはぁ…はぁはぁ」
「お見事」
「はぁはぁ」
そして、また日は流れ、修行120日目。
半日で山往復5000回が終わるようになる。
「では腕立て伏せ1万回だ」
「はい!!」
腕立て伏せに入る。腕立て伏せはまだ往復よりも辛くはなかった。
修行240日目。
全ての工程を何とかこなせるようにはなった。
「はぁはぁ…ここまで長かった…」
「よし、後はこれを慣れさせていくだけだ」
後の日にちはこの工程にいかに慣れていくかが重要らしい。
そして修行を始めて1年目最終日。
半日で全ての工程を行える所まで行っていた。
「ここまでよく頑張った。では新しいメニューを追加する。」
新しいメニューだと。おかしい。このメニューでもきつかったのに、これに追加されるのはきつい。
「メニューを追加すると言ったが、勘違いはするな。メニューは変わらない。」
ほっとした。いいやぞっとした。
「次の1年はお前にこれを付けて貰う」
やはり予想は的中だ。エペさんが出てきたのは、目隠しだった。
「え、まさか…」
「この目隠しを付けて、修行をこなして貰う」
やはり狂っている。出来るわけがない。
「カソードを体に宿すのは、集中をしていないと駄目だ。体の一部一部に集中することが大切なんだ」
嫌々受け取った。
「では明日からまた頑張ってくれ」
修行2年目1日目。
まずは山往復だ。真っ直ぐ前に走れない。木にぶつかったり、転んだり最悪だ。
普通に生活するのにも目隠しをしているので不便だ。半日で終わっていた工程が、丸一日かかってしまった。
修行2年目5日目。
いつも通り山往復から始まった。しかし、100往復目の時、下まで降りた時に誰かとぶつかる。
「あぁあ!痛ってぇーな!!」
「すみません!!」
誰だか分からないが、謝った。
「よし決めた!お前を殺す」
何でそうなる。
「すみませんが、どこのどなたでしょうか」
恐る恐る聞いてみた。僕の予想は当たる予感がしていた。
「俺はティフォーネ第1部隊トカゲさんの部下の1人ユウリンだ!!」
トカゲと聞いてぞっとする。あの時村を襲ったのはトカゲの様な男だった。ぞっとすると共に、憎悪も湧いてくる。目隠しを取り、重りも外す。体が物凄く軽い。
「あなた達が…」
「あぁん!?聞こえねぇーよ!」
「許さない!!」
僕はユウリンの顔面を殴っていた。ユウリンは物凄い速さで飛んでいく。
「凄い…力がついてる」
「てめぇ!!いきなり何すんだよ!!」
ユウリンも殴りかかってくる。しかし、ユウリンの殴る速さは遅かった。遅いのではなく、修行によって見えるようになっていたのだ。しかしユウリンは中々変身しなかった。
「何故変身しない?」
「あぁん!?誰しもが変身出来るとは思うんじゃねぇ!!」
先生は言っていた。変身しないやつもいると、こういうことか。
ユウリンはまだまだ襲いかかる。しかし、僕は簡単に避ける。ユウリンの足を引っ掛け転ばせる。そして投げ飛ばす。追いかけ顔面を殴る。相手はノックアウトした。
「やった…初めて戦って勝ったぞ!!」
まだまだ修行は続く。