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第六話:キオク

──もうすぐ、もうすぐ来る

 私の胸は高鳴っていた。

「…思い出したのね」

 自然に笑みが零れる。──来た

 村を見下ろす高台の焼け跡、振り返ると、暗く沈む夕日に照らされた男が居た。




 屋敷跡に着くと、毒々しいほどに真っ赤な夕日に照らされた娘が居た。焼け跡の黒の中に佇む真っ赤に染まった彼女は、妖しいほどに美しかった。

「ハルカ──」

 彼女は楽しそうに頷いた。

「全て…」

 僕が言いかけると、ハルカはわかっているというふうに頷いた。そして既に夕日の殆ど沈んでしまった村を指さした。意をはかりかねて目線で問うと、見よ、とだけ彼女は答えた。

 村を見下ろすと、鬼追い祭りの篝火だけが妙に鮮やかに見えた。神社を囲むそれは、集う人々を狙う人魂のように思えて、少し薄気味悪かった。それでもそこから目が離せない。ただ篝火が燃えている、ただそれだけの光景に、不思議に見入ってしまう自分が居た。

 日が、沈む、沈む。

 村は神社以外完全に闇にとっぷりと浸かってしまった。篝火の朱が、いっそう華やぐ。

「何も…」

無いじゃないかと言おうと振り返ると、ハルカの無邪気な笑い声が響いた。

「今日よ。覚えておいでかしら」

言葉に詰まる。

「あの日も、こんな風の強い夜だったわ」

 言葉に反応するかのように辺りを風が駆ける。

「丁度あんな風に炎の朱が闇に鮮やかでねぇ…」

 返す言葉が見つからず呆然としていると、背後から鏡を引っ掻いたかのような鋭利な叫び声が上がった。見ると、大きな、勢いのある炎が神社を包んでいた。きゃらきゃらとハルカが笑う。

「ハルカ…!」

「火葬場の火とそっくりね。見たでしょう?あなたも。母さんが、あなたの母親の友人である神無楓が、殺されて、灰になるところを!」

 ハルカから目をそらす。

「私の両親の死に異を唱えたあなたの御両親も、変死で亡くなったそうね。もっとも、あなたはその後私たちに関する記憶とをなくしてしまった…でも…」

ハルカの強く、まっすぐな視線が痛い。

「私は覚えていたわ」

背後からは逃げまどう人々の叫び声が絶え間なく響いている。

「…弔いとはこのことか」

「えぇ、昨日の夜、この光景が“見えた”の。あまりに朱が美しかったから、墓前に供える花はこれが良いと思ったの」

 ハルカは淡々と語る。

「“見えて”いたのに、助けようとは思わなかったのか」

 ハルカは嘲笑するように薄く笑みを浮かべる。

「思わなかった、微塵もね。それどころか、全て無くなってしまえば良いと思ったわ」

 相変わらずまっすぐに僕を見つめる瞳は悲痛の色を湛えていた。

 今日は風が強い。炎は風に煽られて、背後で僕らの郷土を、着々と焦土へ変えている。火の回りが速すぎて、既に人の手には負えない段階まで来ている。どうして良いかわからず、呆然としていると手に冷たいものが触れた。ハルカの手だった。

「いつだったかしらね、二人でどこかに行ってしまおうなんて言ったのは。…こうして手を繋いで」

 覚えている。たしか、ハルカの母親が亡くなって何日か後の夕暮れ時だったと思う。誰も居ない神社、幼いハルカの顔が蘇る。

「行きましょう。私たちが普通に暮らせる場所を求めて」

「ここに…ここに残る」

「残る?こんな焦土に?」

ハルカは嘲笑した。

「大丈夫、ここを出ても、上手くやっていけるから」

「…それは“見えた”のか?」

ハルカはどちらともとれない笑みを見せる。彼女はおもむろに片隅に咲いていた椿を一枝手折ると、それを下で炎上する村に投げ入れた。




 僕らは村を後にした。



 彼らが去った後、村跡には誰が植えたでもないというのに、鮮やかすぎるほどの緋色の椿の花が咲き誇った。村を見渡せる高台の椿は特に見事で、季節になると近隣の村々から見物人が絶えなかった。

 その場所の片隅に誰が何のために建てたのかはわからないが、小さな祠がある。ただ、そこに一年に一度、椿の花を置いて帰って行く男の姿を見る者があるのだという。

最初考えてた以上に黒いお話になってしまいました(汗)

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