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【さがしもの2】新町 桜

 雨が降りそうだ。空気は生臭い。

 空はグレー一色、遠くの方は既に黒くなっていて、雷音も聞こえていた。

 

 駅には相変わらず誰も居ない。

 ヒールの音を立てて階段を上がり、ホームに立つ。

 ポーチ一つでここに来た。用事は一つだけだ。

 その中には昨日部屋でみつけた赤いハート形の小物入れが入っている。


「こんなもの」

 

 右手にその小物入れを握りしめ、ポーチは力任せに足下に投げつけた。

 ホームの一番先にあるベンチまで歩く。

 人一人いないホームは、不気味だ。


 姿の見えない虫が切なげに鳴く音と、車が通りすぎるタイヤの音しか今のところ聞こえない。


 風はぴたりと止んでいる。

 

 ベンチにどかっと座って脚を組み、ポケットからタバコを出して、火を付けた。


 肺にゆっくりと煙を入れ、時間をかけて吐き出した。


「タバコは体に悪いよ」

 

 後ろから聞こえた声に腹が煮えたぎる。タバコを深く吸って気持ちを落ち着けた。


「桜さん」

 

 桜の横まで来て声をかけ、馴れ馴れしく肩に手をおいた。


「その手、邪魔」

「すいません、つい」

 

 引っ込めた手を胸の前で組んで頭を下げたのは、富多子だ。


「あんたに用事は無いよ」

 

 タバコをホームに投げ、サンダルのつま先部分でじゅっと消す。


「あの……帰った方がいいです」

「帰らない」

「でも、」

「あんたはなんでここにいるわけ?」

「………それは、その」

「来るように言われたんじゃないの?」

「……」

「あの女に言われたんでしょう? あんた、あいつのことが見えるんでしょう? 違う? ほら、あいつにそう言われたんじゃない?」

 

 桜が指さした先には、あざみの姿。

 

 ホームの一番端っこに表情無く立ってこっちを見てている藤が丘あざみがそこにいた。


「あざみ」

 

 名前を呼ぶとベンチから立ち上がり、あざみの方を向く。

 

 誰にも気付かれないように口元に笑みを作り、富多子は1歩下がって下を向く。


「これ、返しに来た」

 

 右手に握りしめた小物入れを目の前に差し出した。


「あんたが探してるもの!これだよね」

 

 蓋を開けて、中身を取りだす。


「ほら」

 

 親指と人指し指でそれを掴み、あざみの方へ向けた。


 いない。


 ホームの先にいたはずのあざみがどこにもいなくなっている。

 

 恐怖よりも怒りが勝っていた。腹の奥がぐっと熱くなる。


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