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長政はつらいよっ!弱小浅井はハードすぎ!!  作者: 山田ひさまさ
~ 朝倉氏、義秋公を奉じ上洛す ~
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朝廷工作の内情


長政の手紙の前に、京の様子を少しだけ……



― 三好 ―


足利義栄を将軍に就けるべく、三好側も画策していた。


公家衆に贈り物をおくり、必死で裏工作をしていた。


「とりあえず従五位下”左馬頭”の任官許可だけでも」



従五位下の官位は、けっして高いものではない。

しかし、”左馬頭”に任ぜられると言うことは、征夷大将軍になることと同義なのである。


そのために、朝廷からの要求をのみながら、あちこちに奔走していたのであった。

なんとか、なりそうだと光明が見えたところでの、朝倉の上洛である。




京より西の、西日本側では、今だ三好家が強い勢力を保っている。


「義栄公を将軍に据えてしまえば、朝倉ごときどうにでもなる」


「先ずは、大義名分を立てねばならないだろう」


「朝倉が推す、義秋が将軍になるのだけは不味いぞ」


「公家に取り入って、義秋の”左馬頭”の任官を妨害させよう」




~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



― 公家衆 ―



摂関家と、いうものをご存じだろうか?

まあ、藤原道長みたいなものと思っていただければ良いのかな。


五摂家と呼ばれる家柄のもののみが、摂政・関白に任じられるのだ。

《近衛家、九条家、一条家、二条家、鷹司家(断絶)である。》


戦国の世で落ちぶれているとはいえ、朝廷内では絶大な影響力を持っております。



二条晴良、近衞前久、一条内基、九条稙通らが当主としてあげられる。



長政が嫁の”綾”をもらったのは、近衛家であります。

(綾姫は、近衛稙家の娘で、”前久”・”義輝公の正室”の妹であります。)


弟の政元の方は、久我晴通の娘をもらっております。

(晴通は早くに出家されました。)

息子の久我通堅が、朝廷に出仕しております。

(ポカをやらかして、没落しそうなところを浅井家が拾い上げました。)



他に影響力があるのは、なんといっても、浅井家では『お公家さん』と親しまれている山科言継卿であろう。


朝廷の財政の最高責任者である内蔵頭として、後奈良・正親町両陛下の下で逼迫した財政の建て直しを図っている御仁でして、多彩な才能、そして人脈の持ち主です。

浅井家とのパイプを持っていて、”朝廷のお財布”であります。



あとは武家とのやりとりをする”武家伝奏”が美味しいのでしょうかね?

勧修寺晴豊で有名な武家伝奏です。


万里小路惟房、広橋国光、勧修寺尹豊、飛鳥井雅教らが武家とのやりとりで影響力を持っております。



とまあ、その他の方もいらっしゃいますが、二条晴良、近衞前久、山科言継の発言力が大きいようです。


(九条さんは、”修行”と称して、山籠もり中でございます。)


そして、二条晴良、近衞前久 この二人は、仲が良くないのであります。


近衛前久は、政略結婚により将軍義輝公と浅井長政の義理の兄弟というわけです。

そのため、 二条晴良の方が三好家に接近する形となったようですね。



お公家さん達の目下の課題は、『いかに金を巻き上げるか』であります。

三好と朝倉の双方によい顔をしながら、朝廷の権威を高く売りつけるのが彼らの手腕の見せ所であります。



本来は三好から金を巻き上げた後、足利義秋を立てるであろう浅井に恩を売る予定でした。


しかし、状況は変わっております。


「はあ~、まさか朝倉義景が、浅井を疎むとはな」

前久が溜息を吐く。


「長政殿は、最近急成長しましたからな、面白くないのでしょう」

言継が答える。


「では、三好の要求をのんでもよかろうかな」

三好推しである、晴良の表情が明るくなる。


「さすがに将軍宣下をしてしまっては、取り返しが付かぬぞ」

そこはそれ、関白前久はすかさず釘を刺した。


「左馬頭の任官だけしておけば良いのではないですかのう」

絶妙な解決案を、言継が提示する。


「おお、それは名案じゃ! どっちに転ぶにせよ角が立たぬわ」

前久が言継の一粒で二度おいしい名案を褒める讃えた。


「ならば、吉報を届けに参るといたしましょう。 では、関白殿。朝倉の小倅の方は任せましたぞ。」

晴良は三好へ吉報を送れる喜びでうきうきしながら、結論をとった。


「心得ておる」



 かくして、朝倉景鏡の参内は困難を極めることとなった。


まず近衛家への取り次ぎに手間取り、前久に会うまでに多額の金と時間を消費してしまった。

武家伝奏の万里小路惟房、飛鳥井雅教が、ちまちまと景鏡をイジメながら宮廷の所作の指導がてらあからさまな引き延ばしにかかりました。



前久に云わせれば、朝倉家など当主.義景であっても所詮、斯波家の元.家人なのである。

その家臣の景鏡など、地下人ほどの感覚でしかない。


朝廷に多額の献金をして貢献するならいざ知らず、最近の朝倉は朝廷献金をしていないのであった。

正親町天皇の即位の時、長政はまだ小身の身でありながら、1000貫を喜んで献金した。

義景と云えば、越前の太守のくせに僅かに100貫しか出してはいない。


(義景もせめて500貫いや1000貫は出すべきであったな)


正月にお年玉をくれない親戚の伯父さんなど、居なくても構わないと思う小学生みたいなものだ。


何某なにがしかの理由を付けて、のらりくらりとお断りしたいる間に、足利義栄の左馬頭の任官が決まっていた。


(さあ、景鏡よいそがんと、もう後がないぞよ!)


今度は、朝倉家から義栄の左馬頭任官の取り消しを受け、義昭の任官を要請させる番だな。

まあ、久しぶりにおいしい商売である。


”将軍宣下”は、朝廷の底力を再確認するとともに、金になる一大行事なのである。


公家衆がお零れにあずかろう期待を込めた目で事態を見守っている。




~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



― 朝倉景鏡の一番憂鬱な日 ―



朝倉景鏡は、京に入ってからいろいろ頑張った。

伝手を頼り、頭を下げ、少しづつ位の高い人物へと接近していた。


武家伝奏の万里小路惟房どのに繋ぎをとり、関白殿へお目通りをお願いしたのだが……。


”公家には公家の作法がある”ということで、

もう一方の飛鳥井雅教殿とともに宮中の作法を仕込まれた。

もちろんこれもタダではない。


毎日必死に習い事に耽る日々が続く中、贈り物を贈ってようやく近衛前久公に目通りが叶うこととなった。


支度を調えようやくの目通りで知らされたのが、無情にも足利義栄の左馬頭の任官が決まったと云うことであった。


「景鏡殿は、少しばかり遅かったようでおじゃる。二条殿の熱心な推薦ゆえ麿も断れなくてのう」


「しかし朝倉家が、義秋様を推戴しているのは、関白殿もご存じではないかと」


「そうよそれ、朝倉以前に三好の方が先に義栄殿を次ぎの将軍へと推挙しておったのでおじゃる。しかしそれではあまりに気の毒であるゆえ朝倉の顔を立て、麿はまだ帝に義栄殿の将軍宣下の要請の奏上を出してはおらんでおじゃる」


「はは、ありがとうございます」

義栄の将軍宣下をチラつかされれば、景鏡は従うしかない。宣下出ようものなら朝倉は不味いことになる。


「が、さすがに麿も朝倉の肩ばかり持つわけにもいかんというか……」


「献金ですか?」


「無粋よのう、力無き者に日の本の行く末をおいそれと預けられようか、三好は内裏修復などで熱意を見せておるぞよ」


「形ある誠意ですね」


「そうともいうでおじゃる」



 ようやく上洛軍の本隊が京に近づくという頃に、足利義栄の左馬頭の任官が決まってしまい、景鏡はすっかり面目を失ってしまった。


景鏡の独断ではこれ以上の金は使えない。

ぶっちゃけてしまえば、大野郡司家はもうすでにオケラ状態であった。


やむなく、景鏡は朝倉義景に泣き付いた。




― こちら亀岡 ―



朝倉義景らは、ようやくの事で亀岡まで来ていた。


「いよいよ京入りである」

山崎吉家、魚住景固、真柄直隆、河合吉統、鳥居景近、高橋景業、富田長繁

居並ぶ配下の者に対して、そう檄を飛ばしているさなか景鏡より使者が来た。


「どれどれ」


書状を読むや、義景の表情が曇った。


朝倉景鏡からの書状では義秋擁立の下準備どころか、足利義栄の左馬頭の任官が決まってしまったというのである。


義景は頭を抱えた。

「このまま入京すれば、朝廷にたいして武力を持って将軍位を脅すことになりかねない」

傍らにいた、側近.鳥居景近に危惧をこぼした。


「ここに来てこれとは、参りましたな~」


「景鏡め~、まるで使えぬではないか」


景鏡の書状のために、義景もまた憂鬱になってしまった。




― 噂 ―


とりあえず、足利義栄の左馬頭の任官についての情報は伏せられたのだが、噂はすぐに拡がっていった。


話は簡単である。

三好側が、足利義栄の左馬頭の任官を吹聴し自身の勢力の正当性を示したのである。


当時の人間の常識にしてみれば……左馬頭の任官=将軍なのである。


朝倉軍の上洛により、一時勢力を低下させていた三好側がこの報に息を吹き返した。



斯くして、洛外での朝倉軍と三好軍の睨み合いが続くことになったのであった。




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