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あの娘は二面性ガール  作者: 紙月三角
※ お嬢様と遊ぼう 05
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モモトーーク

 目を覚ましたとき、千本木百梨は真っ白な光の中にいた。

 開かれた空間、高い天井。その天井からの強力な光が、自分がいる周囲を眩しいくらいに照らしている。


 さっきまで目をつむっていたのに視界が急に光に包まれたものだから、脳が状況を処理できずにいるんだわ…。

 彼女はそう考えて、焦らずにその白い空間をじっと見つめていた。


 やがて、目がなれてくると、段々と周囲の様子が分かるようになってくる。


 天井の光は、光量の強い業務用のライトだ。自分は椅子に座っていて、目の前には飲み物が置かれたテーブル、周囲は色とりどりの装飾が施されたカラフルな壁が立ち並んでいる。それに、少し離れた場所に、まるで階段のように段差になった床が見える。その床の各段には、自分のものと同じような椅子がいくつか並んでいる。

 ライトが照らしているのは自分がいる周りだけで、部屋の反対側は真っ黒な闇が支配している。そしてその闇の中から、大きなカメラのレンズがキラリと光を反射させて、百梨の方を覗いていた。


 ここはどこ?何故自分がこんなところに?

 奇妙な部屋に訳もわからずいるというのに、そのときの百梨の頭にはそんな当たり前の疑問は浮かんでいなかった。


 部屋の片側だけでなく、全体を照らすようにライトを配置出来ないものかしら…。片側だけが明るくて、反対側が暗くなってしまっているのは、なんだか嫌だわ…。

 いっそ、自分が暗い方に行く?そうすれば、少なくとも私の視界には明るい部分しか入って来ないものね…。


 そんなことを、とりとめもなく考えていた。


 起き抜けでよく働かない頭では、目が覚める前の事をよく思い出すことができなかったが、カラフルな壁に大きな文字で、彼女の好きな『桃』という漢字が書いてあるお陰で、不思議と今の彼女に不安な気持ちがわいてくることはなかった。



 突然、派手な壁の隙間から二人の少女が現れた。七五三木イクと二十六木ヨツハだ。


 その瞬間に百梨は全てを理解したようで、「はぁー…」とため息をついて言った。

「また貴女たちなの!?何なのよこれはっ!いつまでもこんなバカなことをしてないで…」

 だが、その台詞はどこからか聞こえてきた大音量のロック音楽によって遮られた。



 突然のことに百梨がたじろいでいる間に、室内には次々と別の少女たちが入ってくる。ロック音楽を打ち消すように、盛大な拍手の音が室内を埋め尽くす。

 やがてその少女たち、澪湖、音遠、かなた、詩歌の四人が、最初の二人が一段目、残り二人が二段目になるように、段差になっている床の前に並ぶと、タイミングをはかったように拍手の音も消えた。


「みんなは、何の括りなんすかー?」

 いつの間にか百梨の隣の椅子に腰かけていたヨツハが、よく通る声で言った。


「せーのっ…私たちは!」澪湖の掛け声に合わせて…。

「『お嬢様大好き芸人』ですっ!」四人はそう言った。


「っ……!」

 何も考えずに大声を出している澪湖以外は、恥ずかしがって口ごもっていたり、状況が上手く把握できていないようで声が遅れていたりして、その宣言はあまり綺麗に揃ったとは言いがたかったのだが、百梨の耳にはしっかりと届いた。そして彼女はそれを聞いた途端、両手を口に当てて絶句してしまった。


「そ、そんな…、大好き、なんて…み、皆さんいつもなんだかんだ言ってるくせに、心の中では本当はわたしのことを…?う、嬉しいですけれど…、そんな、わたしなんてまだまだで…」

「それでは最初のコーナーは…『お嬢様のここが好き!』。さあ、どなたからお話し頂けますか?」

「ちょっ、ちょーっとイクーっ!貴女何を言ってますのよ!?そ、そういうのはっ、そんな風に皆さんに無理矢理言っていただくんじゃなくって、もっと自然に、いつの間にか皆さんの間で噂になっているようなものなんだからー…」

 嬉しそうにイクの肩をバシィと叩いて、雛壇に座っている四人の方をチラチラと横目で見る百梨。

「で、でもっ、折角だからこの機会におっしゃっていただいても、いいのよっ!も、もちろん本人を前にしてそんなことを言うのはアレかもしれませんけれど、わ、わたしって、そういうの意外と気にしませんのよ!?だから皆さん全然お構いなく………あ、あれ?」

 しかし、その当の四人とも困ったような顔をしながら、お互いに目で牽制しあっているだけで何も言わない。


「…ほ、ほらご覧なさいっ!?皆さん口に出して言うのが照れ臭いものだから、困っているじゃないのっ!おほほほ…」

「おや……?澪湖様、何かありませんか?『お嬢様のここが好き!』、というテーマについて…」

 業を煮やしたように促すイク。しかし澪湖は…。

「特にない、かなぁ…」あっさりと切り捨てた。

「あ、あら、伊美澪湖はそうなの……おほほ……」

「じゃー音遠はなんかあるっすかー?『お嬢様のここが好き!』ー?」

「え、えっ!?わ、わたしいー!?」

 明らかに取り乱す音遠。

「え、えっとねえー…こ、ここが好き、でしょお?百梨ちゃんの好きなとこ、でしょおー?あ、あるよお、勿論んー…、ええっとねえ……う、ううんとお……」

 頭を抱えて必死に考えている音遠。

「あ、ああっとお………、い、一回別の人に聞いてもらってもいいーいー?う、ううーん…。もうほんとお、すーぐ思い付くからねえ……」

「ちょっと……」

 不穏な流れを感じとり、顔がひきつっていく百梨。

「全く…、仕方ありませんね。それでは美河様、この辺りで『お嬢様のここが好き!』について、話して頂けますか?番組の進行的にもこれ以上は……」

「先輩ごめん!あたしこのテーマ、パスしていいかな?ちょっとすぐには思い付かなくて……。別のテーマのときにまた……」

「いや…何なのよ『思い付かない』って…おかしいでしょ…。何かあるでしょ……何か…」


「うーん…、じゃーじゃー、琢己せんせーは…」

「ぱ、ぱ、パスでっ!わ、私も!パスでお願いしますですっ!」

 言い終わる前に、ヨツハたちを恐れている詩歌は先回りして言った。


 ヨツハとイクは顔を見合わせる。

「困りましたね…。最初のテーマから、誰も話すことがないとは……」

「てゆーかー、『お嬢様のここが好き!』っていうテーマが悪いんすかねー?…あっ!もしかしてお嬢様って、いいところが一つもないから……?」

「いい加減にしなさいよっ!何よこれっ!」立ち上がって、百梨は激昂した。「みんな『お嬢様大好き芸人』なんでしょうが!?いいところあるでしょ!?なきゃおかしいでしょ!始めっから馬鹿にするつもりだったのねっ!?」


 イクとヨツハに詰め寄る百梨を、かなたが苦笑する。

「だって…あたしらそもそも、芸人じゃないし…」

 残りも次々と不満をこぼし始める。

「てか私別にぃ、お嬢様のことそれほど好きじゃないんだけどぉ…」

「わ、私もこの前赴任してきたばっかりで、千本木さんの事はほとんど知らなくて…」

「『お金持ってる』…は……百梨ちゃんのいいところとは違うかあ……。お金を……いや、お金に…お金が……お金……」


「もおーっ!何なのよ貴女たちー!こんなの、やってられないわよっ!」

 百梨は一同に背中を向けて、出口に向かって歩き出してしまった。


「はい、ええっとー…」ヨツハはそんな百梨を気にしない。「では、次のテーマはー、『お嬢様に言ってもらいたい台詞』ー!まずは澪湖ちんからー……」

「まだやるの!?これっ!?」


 結局その『番組の体裁をとった百梨いじめ』は、それから一時間近く続いたのだった。

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