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あの娘は二面性ガール  作者: 紙月三角
08章 Here comes a new ………
82/152

06

 五分後。


 床に座り込んで、ノイローゼのようにぶつぶつと何かを呟いている詩歌。かなたと澪湖はそんな彼女を挟んで、いぶかしげに睨みつけていた。


「かなたぁ?結局何なのぉ、このがきぃ?」

 澪湖は苛立たしげに詩歌を指さす。詩歌を挟んで彼女の反対側にいたかなたは、「え、ええと…」と困った表情を浮かべた。



 ロッカーから飛び出したあと、澪湖はとびかかって詩歌を羽交い絞めにした。詩歌の方も短い手足をばたつかせて、必死になってそれに抵抗した。

 そんな風に、二人がまるで子供のケンカのように騒ぎ始めたおかげで事態はうやむやになり、危機的状況だったかなたの唇はなんとか守られたのだった。


「か、かなたちゃんが……忘れてる……私のことを……ぜ、全部……?そんな……嘘…です……嘘だって…言って…」

 頭を抱えてそんなことを繰り返している詩歌を見ていると、かなたは申し訳ない気持ちになった。

「み、澪湖…こ、この人はあたしの、中学のときの先生…?…らしんだけど…」

 だが、どれだけ必死になって思い出そうとしてみても、彼女のような教師が中学時代にいたという記憶が浮かんでくることはないのだった。


「は、はは……、中学の頃のあたしってさ、いろいろと家の中がごたごたしててさ…。だからクラスメイトとか、先生とか…、あんまり関心がなくって……」

「ああーん!関心がないー!」

「ちょ、ちょっと…先生…?」

 泣き出してしまう詩歌。かなたはどうしていいかわからずに、おろおろとうろたえてしまう。

 澪湖の方は、さっきから変わらず、けっ!とガラの悪い態度でそれをにらみつけているだけだった。

「そんでぇ?その先生様がぁ、うちのかなたんに何の用なんですかねぇ?返答次第じゃあ、こっちも出るとこ出させてもらいますけどぉ?」

「いつからお前の物になったんだあたしは…。あと、かなたん止めろ…」

 呆れてるかなた。澪湖はさらに調子に乗る。

「ねえオンちゃぁん、こういうのなんて言うんだっけぇ?す、す、す、ストーカー?あれだよねぇ?犯罪なんだよねぇ!?」

 言いながら音遠の方を振り向く。だが、当の音遠はそれどころではないようだ。


 今日の放課後、誰かに会うために一人で教室に残ると言ったかなた。それを心配した澪湖と音遠の二人は、教室に先回りして掃除用のロッカーに隠れた。

 詩歌が現れるまでの一時間近くの間、二人は狭いロッカーの中でほとんど抱き合うように体を密着させていたということだ。澪湖のにおい、澪湖の体温、澪湖の心拍を至近距離で堪能して、音遠の体温は急上昇し、押さえても押さえても鼻血が止まらず、ロッカーから飛び出したときには、すでに意識を失ってしまっていた。

 だから音遠は今、ロッカーの前の床で寝そべったまま、へらへらと幸せそうな笑顔を浮かべていることしか出来なかった。


「と、とにかくぅ!先生が放課後に生徒を呼び出すなんてダメなんですぅ!子牛近藤…じゃなくて、公私混同なんですぅ!」

「いや、この人は多分そういうつもりじゃあ……」


 詩歌を忘れてしまっていることの罪悪感から、かなたはとりあえず彼女をかばう側につくことにした。

「き、きっと、久しぶりにあたしを見つけて懐かしくなって、一緒に昔の話でもしようかと思ってたんだよ…」

「うそっ!だってさっき、キスがどうのとか言ってた!なんかエロいことしようとしてたっ!」

「い、いやあそれは……」だが、さっきの出来事を思い出すとあまりに言い逃れ出来な過ぎて、すぐにかばい切れなくなった。「て、ってかそんなことより…え、えっと、た、琢己先生…だっけ?あ、貴女は、どうしてあたしと荊のことを知ってたん、です…か?」

 そこで話題を変えて誤魔化す方向に軌道修正するかなた。

「そ、そうですね…ええ……。そ、そう…そうなんですよ!」

 落ち込んでいた詩歌も、かなたに名前を呼ばれて元気が出てきたようだ。


「かなたちゃん!」

 詩歌の小さな両手が、がしっとかなたの手を包み込む。

「そうなんですよ!私たちは、実は運命の糸的なもので、結ばれているっぽい系の関係なんですよっ!かなたちゃんが荊という悪霊に憑りつかれているように、私にも実は、キーちゃんという霊がついていてですねっ…!」

「こんのっ!セクハラきょーしぃ!はっなれろぉー!」

 詩歌の背後から掴みかかった澪湖。両手で首を閉めて彼女の体をぐらんぐらんと揺らして、かなたから引き離そうとする。

「そうだよ、それそれ!ちょっとどういうことだか、あたしにわかるようにちゃんと説明してくれないと!」

 かなたの方も、詩歌の肩をつかんでぐらんぐらんと詩歌を揺らす。

「ああ……、ちょ、か、かなたちゃあああん……」

 前から後ろから揺さぶられて、相乗効果で三半規管を強く刺激され、詩歌は今にも意識を失ってしまう寸前だった。




 しばらくして、なんとか二人の物理的揺さぶりから抜け出せた詩歌は、話しを続けた。

「…というわけでですね、突然私のもとに現れた『キーちゃん』が、全部教えてくれたのですよ。私のかつての教え子であるかなたちゃんにも、同じように荊という悪霊が憑りついている、と。そして、私はかなたちゃんに会うべきだ、と……」


「……どう思う…?」

 独り言のように、自分の頭の中の荊に話しかけるかなた。澪湖の表情はどんどん険しくなっていく。

「なぁんかこじつけくさいなぁ…。こいつぅ、適当なこと言ってストーカーのこと誤魔化そうとしてんじゃないのぉ?」

「ちっ……うるっせえですね……」

「ああん!?」

 澪湖には自分の感情を隠そうとしない詩歌。落ち着く暇もなく、すぐに一触即発の状態になってしまう二人だった。


「うん……そうだな………あたしもそう思うよ……」

 しばらく荊と頭の中で話していたかなたは、何度かうなづいてから言った。

「荊と話したんだけどさ…先生。そ、その…、『キーちゃん』、だっけ…?と、直接話がしたいな…です。ちょっと、入れ替わってもらっていい、ですか?」

 思い出せないといえども、とりあえず先生扱いだけはしようと決めたらしい。慣れない敬語でそう提案した。

「……?」

 しかし、詩歌は目を見開いてキョトンとしている。

 苛立たしそうに肩を小突く澪湖。

「おい、ちびっこ!お前じゃあ話になんないから、その悪霊と替われって言ってんの!さっさとしないと、警察呼からなぉ?」

「か、替わる…?な、何を……?」

 本当に意味が分からない、という風にうろたえる詩歌。かなたはまた少し荊に話しかけてから、呟く。

「…そんなことも、あるのかもな…」

 そしてすぅっと目を瞑った。次の瞬間…。


「俺が荊。出てこいよお前も。……出来るよな?」

 かなたは荊と入れ替わっていた。

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