05
「このままじゃセマフォアが負けちゃうよー!みんなー!『がんばれー』って応援してあげてー!いくよー!せーのっ…」
「がんばれーっ!」
「…んばれー……」
澪湖の全力の掛け声にかき消されることを願いながら、呟くようなか細い声であたしも声援を送る。
「…うーん。まだ足りないみたいだよー、じゃあーもう一回ー!」
恥ずかしさで顔が真っ赤のあたし。多分台本通りなんだろうけど、とどめをさすようにそんなことを言うステージ上の司会進行役のお姉さんに、あたしは軽い殺意を覚えた。
だ、ダメだ……恥ずかしすぎる…。でも、言わないと澪湖が怒るし…。
「がんばれー!」「が…んばれー……」
澪湖の家のリビングで、澪湖の家族に囲まれて……、だったなら、あたしもこれほどまでは恥ずかしさを感じなかったと思う。
ここは近くのショッピングモール。あたしと澪湖は、そのモールの中にあるイベント会場の最前列で、小さな子供たちに混ざって、アニメキャラの着ぐるみたちが演じる寸劇を見ていた。
どうしてこうなった……。
答えは簡単で、澪湖の好きな子供向けアニメ、『二人でセマフォア』のショーが近くのショッピングモールで開催される、ということを美船さんから聞いた澪湖が、あたしと一緒に行きたいとか言い出して、それをあたしが断れなかったからだ。
じゃあどうして断れなかったかというと……。
「もぉーう、かなたぁん!掛け声小さいよぉ!そんなんじゃセマフォア負けちゃうじゃぁん!」
澪湖はさっきまで熱心に送っていた掛け声をやめて、あたしをにらみつける。
「い、いや、多分負けるバージョンの台本は用意して無いから大丈夫だよ…。そ、それにさ…高校生にもなってこれは、ちょっと恥ずかしくて……」
「もぉー!何でそんなこと言うのぉー!?そんなこと言ってるとぉー…お母さんたちにかなたんのこと、『紹介』しちゃうぞぉー?」
「なっ!?」
携帯を取りだし、電話をかける澪湖。
「あ、もしもしお母さんー?確か前に言ってたよねぇー?私に恋人が出来たら、すぐに家に連れてきて紹介しなさい、ってぇ。実はぁ……」
あたしは即座に自分の席から立ち上がり、出せる限りの大声を腹から絞り出した。
「セマフォアー!頑張れーっ!そんな敵早くぶっ倒せーっ!」
いつの間にか澪湖と恋人ってことになってたあたし……。それって実は、ものすごい弱みを握られたのと同じだったんだ……。だってそんなの美船さんたちに知られちゃったら、取り返しのつかない大問題だよ…。家族会議とかになっちゃうだろうし、それで家族仲にヒビでも入ったら…。
考えるだけでも恐ろしいあたしは、澪湖に逆らうことなんてできなかった。
あたしの全力の掛け声を聞いた澪湖はどうにか満足してくれたようで、携帯を切って自分の応援に戻る。
「がんばれー!」
「頑張れー!頼むから!お願いだから!さっさと倒してくれー!」
本当に、頼むから、一刻も早く敵を倒してくれ……。じゃないとあなたたちが世界を救う前に、あたしが何か大切なものを失ってしまいそうだよ……。
「大きなお友だちは席から立たないでねー。後ろのみんなの迷惑になっちゃうよー」
会場に響く司会進行役の声も、その時のあたしにはほとんど聞こえてなかった。




