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村人ですが、勇者が開始五分で死んだので世界を救うことになりました  作者: 藤崎聖子


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第12話 魔王城へ普通に入る

 ミナは目覚めて最初に、水を三杯飲んだ。


 二杯目でむせた。


 三杯目はニールが止めた。


「少しずつ飲め」


「二万年眠っていた気がする」


「二日だ」


「記憶は二万年分あるの」


「本当に全部思い出したのか」


「世界が最初に雨を降らせた日も、最初の魚が陸へ上がって後悔した日も覚えてる」


「魚も後悔するのか」


「すぐ水へ戻ったわ」


「賢いな」


 ミナの話し方は変わらない。


 顔も変わらない。


 パン屋の娘のままだ。


 ただ、時々、誰も知らないはずのことを口にした。


「ニールが七歳のとき、納屋で蜂蜜を一瓶食べたのも覚えてる」


「世界の記憶に入れるな」


「瓶を井戸へ捨てたわね」


「それは忘れてくれ」


「世界は忘れないの」


「急に権限が怖くなった」


 世界樹神殿の修理は、神官と騎士団へ任せた。


 レオンも残された。


「なぜ私だけ!」


「安静にしろ」


 グレンが寝台へ押し戻す。


「傷は治った!」


「二度死んだ」


「その言い方をやめろ!」


「次は死なせん」


 グレンの声が低くなった。


 レオンは反論をやめた。


 師弟のような二人だった。


「……三日で戻れ」


「一日です」


 ニールが言う。


「転移門なら半刻だ」


 セレナが訂正した。


「では半日で戻ります」


「なぜ延びた」


「途中で何か起きるので」


「否定できん」


 魔王城へ戻る者は、ニール、ミナ、セレナ、オルド、村長の五人。


 世界樹書庫で得た記録を、壊れていない水晶施設へ移すためだ。


 魔王城には予備の施設がある。


「八十万枚の施設に予備が?」


「二号棟だ」


「最初からそちらを使えば」


「一号棟のほうが近かった」


「どれくらい」


「七歩」


 ニールは何も言わなかった。


 転移門は神殿の地下にある。


 石の輪へ魔力を流すと、遠方の輪へ移動できる。


 セレナが魔王城の座標を指定した。


「着地場所は?」


「城内転移室」


「安全ですか」


「物置になっていなければ」


「確認してください」


「通信石は水路へ落とした」


「それ、バルド将軍です」


「私も落とした」


「似た者同士ですね」


「言うな」


 転移した。


 暗い。


 狭い。


 何か柔らかいものが顔へ当たる。


 ニールは押しのけた。


 毛布だった。


 部屋いっぱいに毛布が積まれている。


「物置です」


「見ればわかる」


 五人は毛布をかき分けた。


 扉を探す。


 村長だけ見つからない。


「どこだ!」


「ここだ!」


 声は毛布の下からした。


「暖かい! 先に行け!」


「村へ帰ってください」


「家がない!」


「魔王城にも住まないでください」


 扉を開ける。


 廊下は静かだった。


 警備兵がいない。


「おかしい」


 セレナが足を止める。


「転移室の前には常時二名いる」


「休憩では?」


「交代制だ」


 床に白い砂が落ちていた。


 白い兵士の残骸だ。


「先回りされた」


 ミナの額が光る。


「城の中に、百二十七体いる」


「わかるのか」


「世界に触れているものなら」


「白い兵士も世界の一部?」


「外から来た。でも今はここにいるから、足跡は見える」


 セレナが黒い剣を作り出す。


「二号棟へ急ぐ」


 一行は廊下を走った。


 曲がり角。


 階段。


 訓練場。


 敵はいない。


 正面玄関へ着いた。


 扉が開いている。


 白い兵士が一列になって入ってきた。


 門番が一体ずつ確認している。


「所属は?」


 白い兵士は答えない。


「返事がない場合、来訪者扱いです。こちらへ記名を」


 白い兵士は紙へ何も書かない。


「文字が苦手な方は印でも結構です」


 白い手形を押した。


「次の方」


 列が進む。


 セレナが額を押さえた。


「何をしている」


 門番が敬礼した。


「来訪者対応です!」


「敵だ!」


「正門から来ました!」


「正門から来る敵もいる!」


「規定にありません!」


「今日から入れろ!」


「改訂申請をお願いします!」


「今か!」


 白い兵士たちは受付を終え、城内へ散っている。


 来訪者名簿には、白い手形だけでなく、受付係の備考があった。


『会話困難』


『服装規定に問題なし』


『武器らしきものを所持』


『目的――未回答』


『印象――静か』


「武器を持っていると書いてあります」


 ニールが指した。


「書いた」


 門番が答える。


「なぜ取り上げなかった」


「来訪者の武器預かりは任意です」


「制度を直してください」


「申請を」


「今直してください!」


 門番は赤い筆を出した。


 規定書へ追記する。


『世界滅亡を目的とする来訪者の武器は、本人の同意なく預かることができる』


「目的を答えなかったら?」


「来訪理由不明です」


「全部預かってください!」


「横暴では?」


「魔王城です!」


「陛下が横暴はよくないと」


 全員がセレナを見た。


「昔、言った」


「いつです」


「門番を増員したときだ」


「今、困ってます」


「制度は後から敵になるな」


「人間の役所と同じです」


「一緒にするな」


 正門には、白い兵士がまだ五体並んでいた。


 新しい規定に従い、門番が武器を預かる。


 白い兵士は抵抗しない。


「入っていいです」


 五体は城内へ入った。


 武器がないため、二号棟の扉を破れなかった。


「効きました」


「今度こそ申請書を書け」


 門番がニールへ紙を渡した。


「世界を救ってからでも?」


「期限は月末です」


「世界滅亡より後です」


「なら間に合います」


「その考え方をやめてください」


「侵入ではないのか」


 ニールが聞いた。


「普通に入っている」


 ミナが答えた。


「世界滅亡の敵が、受付を通るな」


 半透明の板に表示が出る。


『魔王城侵入作戦』


『侵入判定――なし』


『来訪記録――百二十七名』


「世界まで認めてる!」


 白い兵士の目的は二号棟だった。


 廊下の奥で、扉を破ろうとしている。


 破れない。


 扉には札があった。


『関係者以外立入禁止』


 白い兵士たちは関係者ではない。


 入らずに並んでいる。


「命令に忠実すぎる」


 ニールは言った。


「だから命令を変える」


 札の上へ紙を貼った。


『白い服の来訪者は食堂へ』


 兵士たちが一斉に向きを変えた。


 食堂へ歩き出す。


「効いた」


「どうする気だ」


「集めて閉じ込めます」


 食堂へ百二十七体が入った。


 最後の一体が入る。


 門を閉めた。


 外から閂をかける。


 中の兵士は扉を叩かない。


『白い服の来訪者は食堂へ』


 命令どおり、食堂にいる。


 セレナは長く黙った。


「魔王城が危うい理由がわかった」


「警備が素直ですね」


「敵も素直だ」


「相性が悪い」


 世界修正権限は使わなかった。


 剣も魔法も使わなかった。


 札を一枚、貼り替えただけだった。


『魔王城侵入作戦――失敗』


 空に文字が出る。


「侵入判定はなしでは?」


『作戦名です』


「世界も融通が利かないな」


『暴言を記録しました』


「そこは変わらないのか!」


 二号棟は無事だった。


 だが食堂から鍋を叩く音がした。


 白い兵士ではない。


 中に残っていた料理長だった。


「出せ! 仕込み中だ!」


 ニールたちは顔を見合わせた。


 世界は救った。


 夕食は危機だった。


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