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将門炎舞記 中巻  作者: 浮島太郎


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第三章 物部の祭祀 【2.浮島の棟梁】

【2.浮島の棟梁】


振り返ると、兼遠が立っていた。

「東国の神は優雅な舞など望まぬ。荒ぶる魂を捧げるのだ」

長い髪を風に揺らし、薄く笑った。欠けた指の右手で酒杯を弄んでいる。

男たちは雄叫びを上げ、弓を天に向けて放ち、狂ったように馬を走らせる。

京で育った国豊には、あまりに野蛮で、あまりに生々しい光景だった。


「驚くだけではこの祭り事は、済まぬぞ」

兼遠が顎で示した先では、荒武者たちが円陣を組み、的を立てていた。

「若君様にも、大弓を引いてもらおうじゃねえか!」

「雅の弓が、東国で通じるか見ものだ!」

「魔を払うだけじゃだめだ、坂東では大猪が射殺せねばな!」

「外したら、酒樽一つ空けてもらうぞ!」


京の弓は“美しい”が、東国の弓は“生きるための武器”だ。

国豊は、物部の大弓を受け取り、的の前に立った。

嘲笑と歓声が入り混じり、荒武者たちの視線が突き刺さる。

兼遠に叩き込まれた日々が、背中を支えていた。

国豊は静かに息を吸った。

目を開き、弦を引く。放つ。

矢は一直線に飛び、的の中心を貫いた。


一瞬で、祭りの喧騒を遠ざけた

 国豊は弓を下ろし、兼遠の方を見た。

兼遠は腕を組み、わずかに口の端を上げた。

「……悪くない」


安広が豪快に笑った。

「見たか!これが我が孫君よ!」

その瞬間から、荒武者たちの国豊を見る目は変わった。

「兼遠の馬を乗りこなし、星を射抜くほどの腕前とは……」

「坂東武者じゃ、信太浮島の棟梁じゃ、」

「物部の棟梁、国豊様!」


身に纏う闇を退けた・・・

荒ぶる祭りの炎の中で、国豊の心に静かに火が灯った。

我はここで生きる。

その決意は、東国の夜風よりも強く、呪の炎よりも熱かった。


祭礼の夜が更け、火の粉が闇に溶けていく頃、国豊は一人、館の縁側に座っていた。

遠くで荒武者たちの笑い声が響く。


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