ここから始まった
私は大きく開いた口を閉じることができなかった。
「気まぐれに来てみれば何だこの廃れた神社は。
全くもっと先代に掃除をするよう言うべきじゃったな...ふむ..」
明らかにそれは人と呼べるものを超えていた。
薄く透明な身体、しかし実態がそこにあるように風と共に透き通る白髪と衣が揺れる。これは現世ではないものであることは一目瞭然だった。
「この神社に住んでいるんでしょうか。」
未知のものにもう恐怖はないと思っていたが、その切れ長な目を見れば何も言えない。薄く濁った金色の瞳がこちらを見ている。
-所詮人間だ
と言わんばかりの圧倒的な存在感に。
「あぁ。なんせここが我の家じゃからな。
時に娘。中々面白い体質をしておる、こちらに干渉しやすいのじゃな。」
「その体質で私はあなたと喋れていると..?」
「さよう。まあこちらが姿を現そうとしない限りは見えないようなちっぽけな体質じゃ。両親に恵まれたかな。」
-恵まれる、か
それが現実だったらどれほど良かったか。
「...そうですか、所であなたは私の願いを叶えてくれるんでしょうか」
「さっき言ったじゃろ、大病に犯されている訳でもあるまいし。若人がそのようなことを言っても戯言だと抜かされるだけじゃ。諦めるんだな。だいたい...」
「そうですか。あなたここが家ってことは神様なんでしょう?その程度なんですね、やっぱり。期待はずれでした。」
あー神様も所詮そうだ。
もう期待などしないと誓ったのにすぐこれだ。
諦めぐせはとうに付いていたと思っていたのに、
「おい、娘。今のはどういうことだ?」
「今の..とは?」
「その程度とはどういうことかと聞いておる。」
「あーそれですか。人1人殺せないほど力がないんですねっていう意味です。お分かりですか?」
このぐらい言ったっていいだろ、どうせ何を言っても無駄なんだから。
階段の方に振り返って神社を後にしようとしたその時、
私は何故か宙に浮いていた。
「弁えろよ、小娘。これほどの高さから落とせば人は簡単に殺せるんじゃ。わかるか?そんな軽口を神に叩こうとするなんざ言語道断だとわかったか?」
街が一望できる。今なら雲の方が近いだろう。
これなら、死ねる
「前言撤回します。なのでここから落としてください。どうか。」
やっと今世とはおさらばだ、もう苦痛を味わわなくて済むんだ-
「それはならぬ。我らは人間世界に極端に影響を与えてはならぬと決まっている。だから、無駄じゃ。」
「神様にも決まりはあるんですね」
「当たり前じゃ、それを犯してしまうと...まあなんだ、罰を受けることになるからな。」
「どんな罰です?」
「.......あまりにも酷すぎて言葉では表せまい」
「そうですか」
気づけば私は賽銭箱の前に立っていた。
「お前の願いは叶えられない、じゃが話を聞くことぐらいはできるぞ、感謝しろ。神は忙しいのにわざわざ時間をさいているのじゃから..
「遠慮します、そういうのは求めていないので。
求めているのは、死だけです」
「.....そうか」
「それでは、」
あーストレスで死ぬっていうニュースがたしか数年前にあったような。死ねるまで後どれぐらいストレス貯めればいいのかな..。
「娘。」
「いい加減うるさいですよ、私の願いが叶わないのならあなたと話す理由はもうありません。」
「いいや、あるな。」
「...なぜ
「我が直接手は出せなくとも、間接的になら関与はできるからな」
「....それをもっと早く言ってくれればいいものを」
「今思いついたんじゃ」
それなら話は早い。人間よりも上の存在の力を借りれるとなれば、ほぼ確定の死が訪れるのも断言出来るかもしれない、が
「なぜそんな急に協力的に...?
「.....少し昔を思い出しただけじゃ」
言えない過去は誰にでもあるものだ...むやみに聞くのは良くない
「分かりました。では改めまして、柊木 黄泉です。以後よろしくお願いします。」
「我は、彼岸じゃ。」
こうして始まったのは、死の旅だった。




