表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第二部 音の礫ー第一章 休息
45/45

41.作曲

――ガリッ、ギギッ!


ギターの音が部屋に響く。


「もう! なんで?!」


遥は突然ピックを放り投げ、ギターのネックとボディに手をかけ、ギターを頭上に振り上げた。


「全然、曲作れないよー!」


遥の頭上でギターがわなわな揺れる。投げ飛ばしたい衝動を寸前で押さえ込んで、ゆっくりとギターを下ろした。


「……ごめんね。ラピス」


ラピスと名付けた青いギターをそっと抱きしめた。


遥は一人、自宅でギターをかき鳴らしていた。

弦を押さえる右手指は赤く腫れあがっている。


(曲作り難しい……。どうしたらいいんだろう)


MDプレイヤーに手を伸ばし、再生ボタンを押す。


――シャラン、シャラン、ポロン。


(ユキくん……)


目を閉じて同じフレーズをなぞる。


(ああ、約束したのに)


曲が終わると、また最初から再生ボタンを押して何度も繰り返す。

指が勝手に動く。考えるより先に、ユキのフレーズをなぞってしまう。


(アレンジできないよ……)


――はぁー。


長い溜息をついた。


――カチ、カチ、カチ。


午前零時。時計の針だけが進んでいく。

瞼が重くなってくる。


(なんにもできていないのに、寝るなんて!)


遥は、もう一度ギターに指を掛けた。


――ジャシャー


眠さで指が滑る。耳障りな音が部屋に広がる。


(違う。もうダメだ……)


ギターを置くと、遥はそのまま布団に入った。


(夢の中でいいから、答えが欲しい)


毎日、これを願いながら眠りにつく。


(ユキくんなら、どうするの?)


遥は深い眠りに落ちていった。

暗闇の中、ユキが現れることはなかった。



数日後。スタジオ練習。

四人揃ったところで、遥は辺りを見回した。

いつも誰よりも早く来て、丁寧にギターの調整をしていたユキ。

その姿は、もうない。


NOノウくんとユキくん、二人でよく笑ってたな)


MONDEモンドになってからのユキは、遥の中で笑顔の印象が多かった。


LUMINOUSルミナスの時とは違う。もう会えない……)


ギターケースのファスナーを右手指で引く。


「っつ!」


指先に鈍い痛みを感じて、思わず指を引っこめた。


「はるちゃん大丈夫!?」


陣が心配そうな顔で走り寄ってきた。


「あ、うん。大丈夫」


哲央とNOも遥と陣の近くへ来た。

遥が引っ込めた右手を、哲央はじっと眺めて言った。


「ほら、手出して」


「や。大丈夫だから」


遥は左手で右手を隠した。


そんな遥を見て、哲央は溜息をついた。


「辛いのはわかる……けど……」


哲央はその先が出てこないのか、頭を押さえて俯いてしまった。


「遥、お前、今すごい顔してるぞ。一人で背負うなよ」


哲央と入れ替わるように、NOが遥の前に来た。


「そうだよ。僕たち一緒のバンドなんだよ」


「なにに囚われてるんだ?」


哲央は顔を上げて、遥に聞いた。


「……」


「はるちゃん、教えてよ。みんなで考えようよ」


陣は遥の肩にそっと触れた。

遥はゆっくりとみんなの顔を見た。全員が、心配そうな顔でこちらを見ている。


「……私、ユキくんみたいにできない……」


両手で顔を覆った。真っ赤なただれた指先が現れた。


「やっぱり。さっきチラッと見えたんだ」


焦った声で言うと、哲央は遥の右手を掴んだ。


「痛いだろう」


心配そうな、悲痛な顔して、遥の顔と指先を交互に見つめている。


「ちゃんと手当しなきゃ、ダメだよ。僕、ちょっと薬局行ってくる」


財布だけ握ると陣は勢いよくスタジオを出て行った。


「あっ! 陣くん。大丈夫なのに……」


遥は、陣の素早さにあっけに取られてしまった。


「全然大丈夫じゃねーだろう。そんな指で」


――ピシッ!

NOは、遥の額をデコピンした。


「痛っ!」


おでこを押さえてうずくまる。


「ほら、これだけで痛いんだから、指はもっと痛いだろう」


NOはピンクラベンダー色の髪をかき上げた。


「それにお前はユキじゃないんだからさ」


「うっ。で、でも、私、約束したもん」


「約束って作曲のことか?」


哲央は遥の赤い指先をまじまじと見ている。


「そうだよ! 作曲するって約束したんだ。だから私がやらないと。せっかく曲を残してくれたのに!」


遥の目から涙が零れる。


「ユキくんの曲をみんなに知らせたいよぅ……」


なのにできない自分に苛立ちを覚える。



――ガチャ。


スタジオの扉が開いて、ビニール袋を抱えた陣が入ってきた。


「傷薬、買ってきたよ。あと、温かい飲み物も買ってきたから、飲みながら今日はみんなで話しをしようよ」


そう言って陣は、NOと哲央にはブラックコーヒー、遥と自分にはカフェオレを渡した。


(あったかい……だけど)


カフェオレの缶を握りしめた。


「そうだな。今日は練習より話をしよう」


哲央は遥の隣に腰を下ろした。


「嫌だ。せめて練習しないと」


勢いよくギターケースのファスナーに手をかけた。


「痛いっ!」


再び、手を引っこめた。


「今日はだーめ! 今のお前の音は聴かない」


NOはひょいっとギターケースごとギターを取り上げた。


「NO! 返して!」


赤く腫れた指先をギターに向けて必死に伸ばす。


「今日は今後についてきちんと話し合おう。それが終わったら返すから」


「そうだよ、はるちゃん。まずは話そう」


陣は遥に座るように促した。


「指の手当もするから、手を出してね」


こくんと頷くと、遥は大人しく陣に手を出した。


「ちょっと染みるかもしれないけど、頑張って」


陣は消毒液を遥の指先に振りかけた。


「う、うっ。痛い」


刺すような痛みに思わず顔をしかめた。


「うん、うん。痛いよね。絆創膏貼るよ」


陣も一緒に痛そうな顔をしながら、でも優しく絆創膏を貼ってくれた。


「とりあえずの応急処置だから、病院行こうね」


「……」


黙る遥に陣は困り顔で言った。


「ギター弾けなくなっちゃうよ」


「……わかった」


遥はしぶしぶ承諾した。


「よし。じゃあ、今日は話し合いをしようね! リーダー後はまかせた!」


陣はきりっと哲央の方を向いた。

突然、バトンを渡されて哲央はたじろいでいる。


「ちょっ、いきなりだな。でも、今後についてきちんと話してないもんな」


隣の遥をちらりと見て、さらに続けた。


「ここで改めて話そう。まずは、直近に入ってるライブ。もう来週だけど」


「やる……絶対やる」


ぼそりと遥が言った。


「俺も来週のライブは、やるの賛成だな」


――プシュッ。


NOは缶コーヒーのプルタブを開けながら言った。


「僕も賛成」


「よし、来週のライブはそのままやる。ユキのところは同期でいいな?」


一人ずつに確認を取りながら、哲央は遥のところで止まった。


「ううっ、それでいい」


(アレンジするなんて、まだできない……)


「じゃあ次、半年後にやる予定の初の鳴響館めいきょうかんでのライブ」


「やる!」


遥は叫ぶように言った。

そんな遥を陣は苦しそうに見つめ、首を横に振った。


「ごめんね、僕は賛成できないよ」


NOも頷いた。


「ああ、一旦来週のライブで活動休止にすべきだ」


「はあ?!」


遥はNOに怒りの形相で詰め寄った。


「活動休止!? なに言ってるの?」


「はるちゃん! 落ち着いて!」


陣は遥の腕をつかんだ。遥はそれを勢いよく振り払った。


「ユキくんの曲、早く届けなきゃ! 私が絶対作るから、活動休止は嫌だ!」


指先の痛みも忘れて、拳を握りしめ強く訴えた。

NOは溜息をついた。でも真剣な顔で遥を見た。


「今のお前は、作曲してるんじゃないだろう」


「はあ?」


「ただユキの音にしがみついているだけだ」


遥は一瞬、息をするのを忘れた。


「しがみ……ついてる?」


「ああ、痛々しい程にな」


ぽろっと涙が零れた。

一粒が二粒になり、やがて雨のようにとめどなく流れ始めた。


「う、うっー。ユキくんに会いたいよー!」


泣き崩れる遥を陣はそっと抱きしめた。

陣の腕の温もりを感じながらも、NOの言葉が遥の胸を深く突き刺した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ