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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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爺の国

作者: ぬしぽん
掲載日:2026/02/23

―西暦2☓☓☓年、日本国は困窮の事態に陥っていた。

 そこで白羽の矢が立ったのは少子高齢化問題


 これは爺達の過酷な運命を紡ぐ物語。



※※※※


 冉金島ねんきんじま


 草木が生い茂る無人島――だった島。広さにしては、北海道の大きさ程度。この島は元から無人だった訳では無く、今日の為、今後の為に確保されたのだ。


 一台の巨大船が島へと到着し、中からぞろぞろと老人達が降りてくる。自分の脚で歩を進める者、杖を付く者、車椅子を操る者など様々。一つ気になる点があるとするならば、どれも皆男性だった。


 ある程度進んだ所で立ち止まり、

 老人達はそれぞれ談笑を始める。


 小林 信夫は眼鏡を外し、レンズにはぁーっと息を吹きかけた。自分の服で曇りを拭き取り、再び耳にかける。クリアな視界が確保されると、前方に知り合いの姿を捉えた。


 「おーい、健作けんぞうさんや」


 名前を呼ばれた一人の高齢男性がこちらへと顔を向けた。その男の頭部に毛は一切なく、ツルリと日光を反射している。それとは反対に口元には白一色な髭が胸元まで伸ばされていた。顔の皺の深さを見るに60代後半といったところだろうか。しかし、背筋は曲がっておらず、ピンと天を突くかのように伸びている。


 「なんじゃ?信夫のぶおさん」


 「はえー、えらい長旅じゃったのぉ。まさかわしらが選ばれるとは」


 三年前――突如としてテレビで放送されたニュース。その内容を簡潔に紐解くと、この国は高齢者を受け入れられなくなった。なので健康状態が良く、自立できる者は他の場所に移し、独立した国家で生きてもらおうとの事だ。


 今はまだ試験段階だが、国から指名された300人の老人が半年に一度この島へと送られる。通称“島送り”も今回で五度目。信夫と健作は選ばれてしまったのだ。


 「とりあえず腹が減ったのぉ」


 健作はそれを気にも留めないといった態度で、自身の腹を撫でると、ポケットから取り出した梅干しを口へと放り込む。口腔内で唾液が溢れ出し、唇の横から少し垂れた。


 「健作さんは相変わらず図太いな。これからどうなるのか不安じゃないのかね」


 スピーカーのキンと鳴る音がし、老人達の視線は巨大船の方へと向けられた。甲板にはスーツ姿の若い三人の男性の姿が見え、中央に立つ一人の男性がスピーカーを口元に当て話し始めた。


 【高齢者諸君。貴方達にはこれから年金を賭けて戦ってもらいます】


 その突拍子もない台詞に、老人達はザワザワと音をたて始めた。信夫も皆と同じで小さく声を上げる。


 「戦う?あやつは何を言っとるんじゃ!わしらはこの島で自給自足の生活をやっていくのではなかったのか!」


 信夫の疑問は当然のことだった。高齢者を養えなくなったから自分で生きろ。そう言われたからここまで船でやってきたのだ。


 【日本は⋯…我が国は増え続ける老人達を抱えきれなくなった。しかし、数が減れば問題無い。貴方達には最後の一人になるまで抗って貰います。そして生き残った一人には莫大な年金を差し上げましょう】


―ふざけるなッ!


―今まで納めた金を返せ!


 そんな命令に従う筋合いなど微塵もないと、老人達からの怒号が飛び交う。しかし―男が次の言葉を言い放ち、事態は一変した。


 【もし戦わないと言うなら⋯…残された奥さんの年金支給も停止致しましょうか?】


 「なんじゃって!?」


 健作は鋭い眼差しを男へと向けた。彼だけではない、この場に集められた男性達には皆、妻がいるのだ。


 【この島は24時間監視されています。戦う気の無い者は即座に対象といたしますので、心に留めておくように。では失礼】


 船上に立つ男達は背を向け、その場を後にした。


 「け、健作さん!こりゃあエラいことになったな」


 「ああ、完全にナメられとるのぉ」


 それから老人達は事態を把握し沈黙した。最後の一人になるまで戦わなければならない。隣にいる人間はこれから敵になるのだ。それに戦う…⋯といってもどこまでやるのかも疑問が残る。まさか命までは――


ブォン!ブォン!


 そこへ数台の車両が到着した。中から迷彩服を着た男達が次々と姿を現し、20人ずつ車に乗るように老人達を促す。健作と信夫は同じ車両に乗り込んだ。


 額に銃口を突きつけられながら――


※※※※※


 車を降りると、兵隊達から手渡されたのは配給券と書かれたカード。どうやらこのカードを提示することで食料を貰えるらしい。


 「このカードの期限は三週間だ。だが、他人のカードを奪う度、更にもう三週間の猶予が追加される」


 軍曹と呼ばれる男に説明され、なんとなくだが察しがついた。最低でも三週間おきに戦い、他者からカードを奪い続けなければ飢え死にする事になるのだと。


 「配給ポイントは⋯…支給された腕時計に表示される。そこから確認するように」


 信夫が腕に着けられた時計のディスプレイを覗くと、地図にオレンジ色の丸がいくつか表示されていた。恐らくここが配給ポイントだろう。


 「では各々散らばってもらおう。目隠しをさせてもらうぞ」


 迷彩服の兵士達が老人達の頭上から布の袋を被せ始めた。


 「待て」


 「なんだ?」


 健作は嘆願する。


 「わしの隣にいる男、信夫さんも一緒の場所にしてはくれぬか?」


 「なに?話を聞いてなかったのか?最後の一人になるまでお前達は殺り合うんだぞ?」


 「ああ、それでも構わん」


 「わしからもお願いしますッ!健作さんと同じ場所へ」


 「変な奴らだ。だが、良いだろう。おい!このジジイ共は一緒に連れて行け」



※※※※※



 「さて、これからどうするかのぉ」


 頭の布を外され、山の中へポツリと置いていかれた信夫のぶお健作けんぞう。二人が行動を共にしようと計画したのは目隠しをされる以前からだった。何故なら…⋯


 「痛たたた…⋯すまんの。健作さん」


 「いいんじゃ」


 信夫は膝が悪い。戦えるどころか長時間歩くことすらままならない。健作はそんな信夫を放ってはおけなかった。


 二人は森の木々をかき分けながら突き進む。


 ひとまず飲料水確保の為、川を目指し二手に分かれて探索する。数時間も経てば日は落ち、健作は待ち合わせの場所で待機していた。


―ギャアアア


 「なんじゃ今の声は!?」


 森のなかに響き渡る高齢男性たちの叫び声

 健作は重い腰を上げ、悲鳴の方へ草木を躱しながら走り始めた。



※※※※


 森を抜け、開けた場に出ると、数多の爺の屍の中心に立ち尽くす、浅黒い肌をした高齢男性の姿があった。そしてその正面には土下座をし、命乞いをする信夫の姿。


 それを見下ろす爺さんは健作の方へと視線を向け、不適に笑った。


 「なんじゃ?まだ周辺に爺がおったのか。配給カードと年金はわしのもんじゃぜ!」


 肉の焼ける臭い⋯…地面に倒れる爺達は皮膚が焼かれ、薄い煙を上げている。いったいここで何が起こったというのか。


 「生きた人間を燃やしたのか?むごい⋯…むごすぎる」


 「なんじゃと?おぬしら…⋯もしや新入りか?」


 「はい!ですからどうかお見逃しください」


 信夫は地面に頭を擦り付け、必死に懇願する。


 「わしらは今日連れてこられた。ぬしは何者じゃ?」


 恐怖に震える信夫とは対照的に、健作はハキハキと返事をした。この状況にも眉一つ動かさず、真っ直ぐと目の前の男の前に立ち塞がったのだ。


 「ほお⋯…威勢がいいのぅ。わしは雷門らいもん しょうじゃ。第一期からの生き残りじゃぜ」


 第一期…⋯その言葉を聞き、信夫は恐怖で喉を鳴らした。自分達は第五期。この戦いは一体いつまで続くのかと。


 「この程度で震えおって、おぬしは情けないのう。わしに会ったのが運の尽き…⋯じゃが、先人として教えておいてやろう。ここでの戦い方を」


 雷門が足元に転がるかばねの頭を掴むと、てのひらからバチバチと激しい音と光が溢れ出し、死体の頭部は炎を上げた。


 「死者を弄ぶのはやめんかぁ!!」


 残酷な行動を見た健作は叫ぶ。だが、

 雷門は構わず言葉を繋げた。


 「この島には⋯…喰った爺に新たな力を与える、特養とくようという名の丸薬が隠されておる」


 「特養とくよう…⋯丸薬?」


 「良い丸薬に当たるかは運じゃが…⋯特養にも階級があってな。B級、A級…⋯S級にまでなると神通力にも近い能力を得ることができるのじゃ。そして、それら全ての頂点に立つ特養こそ――G級!」


 雷門は拳を前に突き出す。再び激しい破裂音が辺りに響き渡り、ビリビリとした衝撃波が周りの空気を伝わる。


 「いかずちを操る能力…⋯これがわしのG級特養――」



―Gショックじゃ!



 「は、はえええ!」


 「来て早々‐G級のわしと遭遇するとは…⋯おぬしらも運が無いの。残念じゃがここまでじゃ。わしに勝てる者などおらんのよ。新人なら尚更じゃぜ」


 「信夫さんや!」


 地面へ深々と頭を下げる信夫に、容赦なく電撃の拳が振るわれる。信夫は文字通り、雷に撃たれたかのように力無く崩れ落ちた。


 その様子を見た健作は身体を震わせ、頭部には太い血管が浮き上がる。それから白い肌着を脱ぎ捨てると、彼の鍛え上げられた上半身があらわになった。


 「ほお⋯…」


 雷門は感嘆の声を上げる。目の前の男…老人とは思えぬ筋骨隆々とした肉体に、いくつもの深い傷が刻まれている。


 「おぬし…⋯只者ではないな。名前を聞いておこう」


 「貴様に名乗る名など無いわ」


 「ここで散るには惜しい男じゃな。じゃがどうせ最後の一人まで殺り合うのじゃ。遅かれ早かれだのじゃから、仕方ないと割り切ってくれ」


―Gショック


 雷門は手を前方にかざし、天から稲妻を落とした。音を置き去りにした落雷が頭上から襲いかかる。


 健作は天を見上げた。

 その目に映るのは空では無く、遠い昔の光景――


―師匠



 『ああん?ただの痩せ我慢だと?』


 『こんなもの武では無いです!ただ気合いで耐えてるだけじゃないですか!?』


 『わかってねぇな健作。不動は基礎の中の基礎。全ての根幹なんだよ。いずれわかるさ』



 絶望的な状況にも関わらず、

 健作は口元をニッと緩めた。


 「懐かしいのぉ」


 膝を軽く曲げ、両の拳を体側たいそくへと構える。

 それから全身の筋と腱がミリミリと収縮し始めた。


 だが、無情にも頭上から落雷が直撃し、辺り一帯は轟音と眩い光に包まれる。しかし、巻き上がる土煙が晴れれば―



―不動 動かざること山の如し!



 「なんじゃとぉ!?」


 雷門は開いた口を塞ぐことができない。電撃が直撃した筈の健作は、倒れること無く構えたままだ。耐えた――皮膚の焦げ跡を見るに、間違いなく雷は当たっている。


 「じゃが、もう一発――」 


 追撃を下す為、ビクともしない健作へと

 二度目の落雷を落とす。



 『師匠!やっぱり不動の姿勢のまま走るなんて、出来っこないですよ…⋯』


 『ああん?お前は不器用な奴だな。こうやってやんだよ』


 『…⋯キモチワル』


 『あのな…⋯さすがに傷つくぞ?』



―疾走 疾きこと風の如く


 健作は不動の姿勢を保ち、腕を振ることもせず、膝下の振りの膂力だけで前へと進む。構えの姿勢を保ったまま常人とは思えぬ速度で駆ける光景は、異様なものだった。


 落雷を浴びながらも直進し続けるこの男に、

 雷門は成す術が無い。


 そして眼前まで迫った健作の拳が振るわれると、骨粗鬆症でも無いのに、握られた拳が雷門のあばらほねを砕き、その破壊力は内臓まで達した。


 「ごボォ!」


 胃が破裂したのか、汚物と血の入り混じった液体が口外へと吐き出される。たったの一撃で重症を負ったであろうことは明らかだ。


 「見事⋯…あっぱれじゃ。最後にお主の名前を――」


 「健作⋯…匡野ただの 健作けんぞうじゃ」


 「匡野…⋯!?まさかあの、伝説のようへ――」


 言い切る前に健作の裏拳が頬を弾き、雷門は息絶えた。


 「貴様はそれ以上生きるな」



※※※※※


 島中の爺達に知らせが届く。

 それはこの戦いの中に現れたダークホースの存在


 「G級が殺られたじゃって!?」


 「そんな筈は⋯…一体誰が」


 G級特養士 雷門 衝の死亡。この三年の間でこれほど衝撃的なニュースがあっただろうか。一人の男の上陸が、島中の爺達を揺るがした。



※※※※※


 「ふぇっふぇっふぇ。雷門が死んだ?関係ないのぅ。わしはジジイ共を殺し続けるだけじゃ」


―G級特養士 通称 クレイ爺 


 呉山くれやま 春信はるのぶ


※※※※


 「誰じゃ?こんなところに梅干しの種を捨てたのは⋯…勿体ないのぉ」


―G級特養士 通称 エコロ爺

 

 榎本えのもと 五郎ごろう


※※※※


 「誰じゃろうと、わしに逆らうジジイは――NGじゃ」


―G級特養士 通称 エヌ爺 


 久木原くぎはら 得蔵えぬぞう


※※※※


 「それって、ぬしらの感想じゃよね?」


―G級特養士 通称 爺ニアス


 天才あまさい 弘行ひろゆき


※※※※


 年金を賭けた熱き爺達の戦いは

 まだ始まったばかり

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― 新着の感想 ―
ジジイ活躍する話ってなんか面白くてつい先が気になっちゃいます! まだ1話目ですが年金ジジイたちがきれいなババアを奪い合う話とかいくらでも広がりそうなので、これからに期待です! 評価入れさせていただきま…
Xから来ました。 これは、本当に面白い。続きが読みたくなります。 いや、短編だからこそここまで振り切れたのかな? とても読み易く、シリアスな場面も絵面がシュールでコミカルにみえてしまう。 出オチで…
RT企画から読ませていただきました。ユニークなお話で驚きました。王道のようでありながら、とても目新しいと感じました。面白かったです。作品をご紹介いただき、ありがとうございました。
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