40.光
◆ 光 ◆
ユキの部屋でMDをMDコンポに入れ、遥は震える指先で再生ボタンを押した。
――♪
優しいメロディが流れる。
水面に映る月の輝きのような、そんな光の曲。
(ああ、ユキくんの音だ。ユキくん……)
遥の頬を、また涙が伝う。
ユキの母親も涙を拭っていた。
陣も哲央もNOも涙を止めるのに必死だった。
(この音……伝えたい……)
ユキのメロディが、遥の心にじんわりと温かい想いとなって広がっていく。
「あの、このMDを……いただいてもいいですか?」
遥は震える声で聞いた。
「はい。あの子の想い……、ぜひ連れていってください……」
「ありがとうございます」
遥は頭を下げた。
それから、ユキの母親を囲んでユキの話を少しした。
みんなで声を震わせながら代わるがわる、練習でのユキ、ライブでのユキのこと。
母親は、嬉しそうに何度も「うん、うん」と頷きながら聞いてくれた。
MD、イメージノート、衣装、ギターをそれぞれ受け取ることになった。
みんなでユキの母親に深くお辞儀をして、ユキの香りの残る家を後にした。
遥は、また涙を流した。
(ユキくんの家、今もユキくんがいるみたいだった……)
そっと後ろを振り返った。ユキの家が遠くなる。
ユキの匂いが、外の空気に混ざり合い……消えてゆく。
みんなで、一度遥の家に戻ることにした。
「ユキの部屋、音楽一色だったな」
帰り道、NOが呟いた。
「ああ、ユキだなって思った」
哲央の返事に遥と陣も同意した。
遥の家に帰ってくると、みんなでもう一度MDを聴いた。
曲を聴くたびに遥の目から涙が零れ落ち、目はすっかり腫れぼったくなっていた。
「……わ、たし、……伝えたい。ユキくんのこの曲、……想いを」
言葉につかえながら、それでもはっきりと遥は言った。
「うん! 僕もそうしたい」
同じく涙を溜めていた陣が頷く。
「もちろん!」
哲央とNOも力強く頷いた。
「みんな、ありがとう……。ありがとう」
遥は、何度も感謝の言葉を繰り返した。
「遥、これ」
痛みに耐えながら目元を拭う遥に、NOがユキのノートを差し出した。
「……これって」
「これはさ、俺より遥が持ってたほうがいいと思うんだ」
NOはじっと遥を見つめた。
「でも……」
ためらいがちにノートに手を伸ばす。
「伝えるんだろう。ユキの想い」
うっすらと瞳に涙を溜めたまま、NOは微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、遥はノートをしっかりと握った。
「伝える! 私、約束したんだユキくんと」
ノートを胸に抱く。
「作曲するって」
みんなの顔が明るくなった。
そして、哲央はみんなを見渡した。
「これからのこと、話し合うまでもないよな」
哲央はライブ前の円陣と同じように拳を前に出した。
「もちろん。俺たち、このまま続けるだろ」
NOも拳を出した。
「続けるよ」
陣も拳を出した。
みんなの視線が遥に集まる。
その視線を受け止め、ノートを抱きしめたまま、息を吸った。
ゆっくりと腕を伸ばし拳を出した。
「MONDEは行くんだ。もっと先へ。ユキくんの曲と一緒に!」
4人の拳が合わさる。
「よし! これからも……鳴らそう。俺たちの世界!」
哲央が声を詰まらせながらも掛け声をかけた。
「おっし!」
遥の部屋にみんなの声が響き渡った。
陣と哲央は、二人でなにか話したあと、遥に声をかけた。
「はるちゃん」
陣と哲央がユキの衣装とギターを遥に差し出す。
「この2つも、お前が持ってろよ」
「えっ、でも、それじゃあ……」
「会いたくなったら、ここに会いにくるからさ」
陣は、確認するように哲央とNOを見た。
二人とも「ああ」と頷いた。
「ありがとう……。私、大切に保管する」
夜。
みんなが帰った静まりかえった部屋で、遥は一人ユキのことを想う。
(ねえ、ユキくん。本当は、まだ全然辛いよ……)
遥は、また流れてくる涙を押さえながら、ギターケースに手を伸ばす。
(でも、だからこそ、音を鳴らし続けたい)
ゆっくりと青いギター、ラピスを取り出した。
(あなたの音を消さないために)
そして、壁に掛けたユキの白いギターを見つめる。
(私に音楽っていう居場所をくれた。ユキくん、あなたはずっと私の光)
遥は震える指で一音、ギターを鳴らした。
ラピスの上に、涙が落ちた。
(ユキくんの光、絶対に消さない)
MONDE―光を鳴らす物語―
第一部 『始まりの光』 完。
ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございます。
MONDEは10年以上温めてきた物語です。
ここまで形にできたことを、とても大切に感じています。
遥の物語はまだ続きます。第二部でまたお会いできれば嬉しいです。
これは、光を失ったあとも、それでも音を鳴らし続ける物語です。
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