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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第三章 始まりの音
19/25

18.撮影と覚悟

◆撮影と覚悟◆


翌、土曜日。

今日は、瞬の家に行く日だ。


遥は少し早めに家を出て、雑貨屋に寄った。

買い物を済ませてから、瞬の家がある最寄り駅へ向かう。


(メンバーの家に行くの、初めてだな……)


池袋で電車を乗り換える。

ホームにはカップルや親子連れが溢れていた。


子どもたちのはしゃぐ声。

若いグループの笑い声。


「ジェットコースター乗りたい!」


「おばけ屋敷いこーよ」


これから体験する楽しさが、そのまま音になって漏れている。


(……みんな、楽しそう)


遥は大きめの鞄を、ぎゅっと抱きしめた。

中には衣装とメイク道具。

靴は、高校時代に履いていた黒いローファーにした。足に馴染む気がしたから。


電車がホームに入ってくる。

風が吹いて、髪が揺れる。


隣に並ぶカップルの低い囁きを耳にしながら、電車に乗り込んだ。


流れていく車窓を、ぼんやりと眺める。


(この景色みたいに……私も、進みたい)

遊園地のある駅で、他の乗客たちと一緒に降りた。


ホームを歩いていると、前方にユキの姿が見えた。

駆け寄って声をかける。


「ユキくん。同じ電車だったんだね」


「そうみたいだね」


「撮影……少し緊張するな」


「そうだね。でも……」


ユキは少しだけ遠くの空を見てから、遥に視線を戻した。


「……あの音を鳴らせる君なら、きっと大丈夫だよ」


遥の胸が、どくんと跳ねる。


頬が熱くなった気がして、鞄を持つ手に力を入れた。


そのときのユキの表情が、あまりにも穏やかだったから。


改札を出ると、瞬の声が聞こえた。


「おーい! こっち! 全員揃ったから行くぞー」


晃と哲央も並んで立っている。


「駅の目の前が遊園地なんだね……すごい」


思わず漏れた言葉に、ユキが頷く。


「ちょっと面白いよね。いろんな音が聴こえてきそう」


遥は一瞬、ぽかんとしてから、

「……うん」

とだけ答えた。


瞬の家は、駅から二十分ほど歩いた先。

三階建てのアパートの、一階の端の部屋だった。


「どうぞ。入って」


瞬が玄関を開ける。


「荷物、部屋に置いていいよ」


「一人暮らし、いいなー」


晃が部屋を見渡す。


「まあ、楽だよ。晃って実家暮らし?」


「……まあな」


晃はピアスを触りながら、目を逸らした。


「俺も実家だ。仲間だな」


哲央が肩を組んで笑う。


「じゃあ、メイクして着替えて、写真撮ろう。遥は、風呂場使って」


瞬がそう言って、浴室の扉を開けてくれた。


「ありがとう。使わせてもらうね」


遥は鞄を持って中に入り、扉を閉めた。


浴室の床は、ひんやりと冷たい。

思わず肩が震える。


ユニットバスの中に鞄を置き、衣装を取り出して着替える。

昨日も着た、黒い服。


そして、雑貨屋で買ったものを取り出した。


ピアッサー。

小さな青い石が付いている。


説明を読む。


洗面所の水で手を洗い、耳を消毒した。


鏡の前に立ち、右耳たぶにピアッサーを当てる。


手が震える。


――深呼吸。


息を吸って、吐いて。


――バチン。

爆竹を鳴らしたような音が、耳の奥に響いた。


(……痛い)


鏡を見る。

赤くなった耳に、青い石が光っている。


(……付いた)


左耳も挟む。

わかっていても、怖かった。


手のひらが湿る。

息を止めて、もう一度。


――バチン。

耳鳴りがして、ようやく両耳にピアスが揃った。


遥は、何事もなかった顔で浴室を出た。


「瞬くん、ありがとう」


その声は、自分が思っていたより、落ち着いていた。



◆撮影と覚悟2◆


お風呂場から出ると、晃以外は支度が終わっていた。


晃は鏡の前で、真剣な顔をしてアイラインを引いている。

目尻を少しだけ上げ、いつもより鋭い目つきだ。


遥も隣に腰を下ろし、急いでメイクを始めた。

普段より少し厚めにファンデーションを塗る。


(……メイクで、変わるはず)


青いアイシャドウを瞼にのせ、リキッドライナーで目元を囲む。

眉を整え、最後に黒いリップ。


(あんまり上手くない……メイクも、練習しなきゃ)


隣で同じく黒いリップを塗っていた晃が、ちらりとこちらを見た。


「お前、耳……」


自分の耳と、遥の耳を交互に指さす。


「私、ピアスしたんだ」


触れると、耳たぶはまだ熱を持っていて、ピリピリとする。


「真っ赤じゃん。今、開けたのか?」


「うん。着替えたときに」


晃は一瞬、目を丸くしてから、にっと笑った。


「遥って、結構すげーな」


「そうかな。でも、すごく痛かった!」


思わず両耳を押さえて顔をしかめる。


「だから、一度に何個も開けた晃くん、本当にすごいよ」


「だろ?」


晃は満更でもなさそうに笑った。


「じゃ、撮影始めるぞー」


衣装もメイクも決まった瞬が、デジカメを持って玄関へ向かう。


「え、外で撮るの?」


「白い壁あるだろ。光も入るし、いいと思う」


ユキは何も言わずに、さっと外へ出た。

晃と遥も続き、最後に哲央が小さく息を吐いて外へ出る。


アパートの外壁は白く、確かに日差しがきれいに当たっていた。


「アップと全身、数枚ずつ撮るよ。まず、誰から?」


ユキが手を上げて、壁の前に立つ。


カメラが向けられた瞬間、ユキの表情が自然に引き締まった。

紫のシャドウが光を受け、白い肌に紅いリップが映える。

黒いサテンのシャツと細身のズボンが、体の線を際立たせていた。


通りを歩く人たちが、ちらちらとこちらを見る。


「……かっこいい」


「バンドマンかな」


かすかな声が耳に届く。


(……やっぱり、すごい)


ユキが終わると、晃が勢いよく前に出た。


「瞬、かっこよく頼むな!」


「はいはい」


晃が祈るようなポーズを取る。


「それ、曲の雰囲気と合わない。普通でいい」


「えー、祈りポーズだめ?」


「晃は、立ってるだけで十分だよ」


「そっかぁ」


頭をかきながら、素直に指示に従う。


(決めるときは、ちゃんと決めるんだよな……)


次は哲央。


壁の前で、ぎこちなくピースをした。


「友達写真じゃないから。手、下ろして」


「……了解」


軽く深呼吸して、まっすぐ立つ。


(音と一緒だ。真っ直ぐが、いちばん似合う)


(次、きっと私だ……)


心臓が、強く打つ。


「次、遥ね」


「はい!」


駆け寄って、壁の前に立つ。

大きく息を吸う。


カメラを向いた瞬間、通行人と目が合った気がした。

胸が、どくんと跳ねる。


(……なるようになる)


右手を腰に当て、左足を一歩前へ。


ただ、それだけ。

じっと、カメラを見る。


シャッター音が、続けて鳴った。


「いいよ、遥! 次、俺な」


「……ありがとう」


一気に汗が噴き出す。

緊張が、遅れてほどけた。


その後のことは、あまり覚えていない。

気づけば撮影は終わり、全員で部屋に戻っていた。


「お疲れさま! 写真、パソコンで確認するから」


瞬が言って、続ける。


「そのあと、みんなの考えた名前、教えて」


(……名前、もう決めてる!)


遥は、小さく息を吸った。



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― 新着の感想 ―
当時はまだデジカメを持ってる人も少なくて、背景を合成するのも高等テクニックだったので、できる範囲で「それらしく」演出してましたね。 洗練度ではプロの撮影や演出には敵わなくても、想いを込めて自分たちの…
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